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常夜灯と点灯夫のワルツ  作者: 和泉トモノブ


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9/11

murder case in・・・

 煙草を吸ってロッカールームに戻ると、川辺さんとシゲさんは車両や人員配置の話をしていた。

「こっち方面、シゲさん一人でも良い?」

「まぁ、しかたねーな」


 恐らく巡回の話だろう、俺は誰かと一緒に回り仕事を覚える手はずだった。

「初日だから、まぁ見てて」と言った具合に。


「お、戻ってきた、じゃ行こうか」

 川辺さんは俺を見て言った。まるで近所の公園に行くみたいな感じだ。


「一応聞きますけど、どこへ行くんですか」

 大方想像はついているが一応聞いてみる。


「決まってるじゃない警察署」

 予想通りの答えが返ってきた。川辺さんは続ける。

「被害者の霊から聞き取りしてもらいたいの、やってくれるよね」

「やれと言われりゃ、やりますけど上手く行くか分からないですよ、霊と話したって言っても一人だけですし、あの人が特別だったかもしれないじゃないですか」

「上手くいかなきゃ、そん時はそん時よ」


 川辺さんの愛車、ホンダ・フィットに乗り込み碑高警察署に向かう。

 陽が傾いた帰宅ラッシュの時間帯、自然と車の数が多くなっていた。停車した路線バスを慎重に追い越し、流れに沿ってスピードを保ち国道を走る。


「警察署に着く前に話しの概要を聞きたいのですけど」

 俺はハンドルを握り真っ直ぐ前を見て運転している川辺さんに聞いた。


「女子高生の遺体が発見されたのよ、ウチの管轄区域の路地裏でね、傷口から亡者の影が出てきた」

「亡者の影?」

「そ、影、黒いモヤモヤ。常夜灯の灯りが弱いところで胸をナイフで一突き。俺たちは防犯カメラの映像をヨントクに提出して捜査協力してるんだけど、まあ今回は早坂君の力も借りたいわけ」

「ん?えーっと、その子を殺したのって亡者なわけですよね、実体の無い物を捕まえられるんですか?」

「死者を捕まえられるわけないじゃないし、実体を持たないものは直接人を殺せない」

「じゃあどうやって?」

「取り憑くんだよ」

「取り憑く?」

「そう、肉体っていう器から魂を引っこ抜いて、そいつの中に収まっちゃうわけ」

「引っこ抜かれた魂は?」

「どっか遠いところに連れていかれる」


 なるほど、連れてかれるってそういうことだったのか。


 やがて川辺さんの運転するホンダ・フィットが警察署の敷地内に入る。川辺さんは夜間通用口付近の駐車スペースに車を停めた。

 雲一つ無い空はオレンジ色に染まっていた。


 入口のインターホンを押し、出てきた若い警察官に事情を説明して、エレベーターで4階に案内された。オレンジ色の明かりが灯された廊下をしばらく歩くと「陣室」と書かれた扉の前に20代後半と思われる女性が立っていた。

 細身のセットアップのスーツを着て、髪を後ろで結い、バレエでもやっていたのかと思うくらい姿勢の良い綺麗な女性だ。街中ですれ違ったら、あの人かっこいいなと間違いなく振り返るだろう。


「浅川警部、Lanp Lighter警備保障のお二人をお連れしました」

 そう言って若い警察官は、女性に敬礼をした。

「ご苦労様です」

 浅川警部と呼ばれた女性も敬礼を返す。


 すげー初めて見た。俺が感動している間に、若い警察官は(きびす)を返して去っていった。


「どうも初めまして浅川です」

 浅川警部は微笑みながら、俺に名刺を渡した。


 捜査第一課 第4特殊犯捜査班

 浅川セナ

 縦書きの名刺の左側に、警察署の住所と電話番号が記されたシンプルな名刺だ。


「すいません、ご丁寧にどうも、あ、ごめんなさい、俺、名刺持ってなくて、あ、早坂って言います」


 俺はドギマギしながら答える。警察を前にすると悪いことしてなくても緊張するよな。しかも美人さんときたもんだ。

 川辺さんが俺を見ながらニヤニヤしている。


 なに笑ってんだよ。


「ええ、川辺さんから話は伺っています」

 浅川刑事は優しく微笑みながら言った。

「ま、緊張するよな、警察なんてカタギびびらせてなんぼの商売だから」

 川辺さんが横から口をはさむ。

「ちょっと、人聞きの悪い事言わないでください」

「間違ってねーべなぁ、被疑者に舐められたら進まないもん」

「そうですけど、協力してくれる人には丁寧に対応してますよ」


 俺は二人の会話を聞きながら「陣室」と書いてある扉に目をやった。ここに被害者の霊がいるのだろう。上手く話すことが出来るだろうか。


「さて、入りますかね、早坂君のお手並み拝見ってことで」

 川辺さんは扉を見つめる俺に気づき浅川警部との話を止めて言った。

「そうね、行きましょう」

 浅川警部が扉を開ける。


 室内は10畳程の広さ、ドアの直ぐ横にある丸椅子以外何も無く、中央には丸で囲まれた大きな五芒星(ごぼうせい)が描かれ、その真ん中に、膝から下が透けて見えなくなっている制服姿の女の子が立っていた。


 幽霊に足が無いって本当なんだな。


「成れの果てになる前に、この中で気持ちを落ち着かせてもらってます」

 浅川警部が俺に説明してくれた。成れの果て、亡者のことだろう。


「さぁ、やってみてくれ」

 川辺さんはドアのすぐそばに置いてあった、背もたれの無い丸椅子を俺に渡した。


 丸椅子を受け取り、深呼吸を二回。


「上手く行かなくても恨まないでくださいよ」

 俺は川辺さんに向かって言った。

「恨まない、恨まない、気楽にやって頂戴、期待してないから」

 川辺さんは笑顔で答えた。一言余計に思えたが、まぁ期待されても困る。


 俺はゆっくりと五芒星(ごぼうせい)の中に入り、女子高生の前に丸椅子を置いてそこに座った。


「えーと、聞こえるかな、早坂って言います」

「聞こえてるよ、あたしは、カナ」

「カナさんって言うんだね」

「うそ!凄い!本当に話せてる!なんか、幽霊と話せる人連れてくるからって一方的に言われて、ここで待ってろって言われたんだよね、本当に来ると思ってなかった、ってかおじさんどっかで会ったことない?」


 すげー喋ってくるじゃん。俺はすっかり拍子抜けしてしまった。

 俺は振り返って川辺さんと目を合わせ、指でOKサインを送った。川辺さんはそれを見て(うなず)く。


「あれ?大丈夫?もしかして電波悪い?」

 スマホで通話してるんじゃないんだから。。。

「あー聞こえてるよ、どこかで会ったっけ?」

「うーん、どっかで会った気がするんだよね、えーっと・・・」

 俺は彼女の言葉を待つ。

「バス!そうだ!バスで見たんだ!あたしとハルカの前の席を見てたよね?なんかキモイねってハルカと話してたんだ」


 記憶が蘇る、そうか、この子あの時のバスに居た女子高生だ。

 この子の前に座る男に、というか男に(まと)わりついている影に気を取られていて、あまり印象に残っていないのだが。ってかキモイは酷くないか?


「あ、あの時のか」


 俺は彼女に話を合わせる。ごめん、君のこと眼中になかったからほとんど覚えてない。


「あの時おじさん何を見てたの?」

「君の前に座っていた男に影がこう、、ぬーっと出ているのが見えてさ目が離せなくなってた」

「前に座っていた男?」

「うん、影が出ていて、君たちのこと見ていたんだ」

「影?そんなのいたかな、ウチら、試験で学校早く終わった後だったから、まだ昼間だったし」

「結構近くまで寄ってたけど」

「影が?」

「影が」


 カナは考え込む、俺は彼女の答えを待つ。


「やっぱ影は見てないなー」


 しばらくしてカナはそう言った。

 俺がハッキリ見えていた影は、俺以外の人には見えていなかったのだろうか?


「そうか、ごめんね、本題に入っていいかな」

「なんで謝るの、おじさん面白いね、あたしを殺した犯人のことでしょ」

「そう、どんな奴だったか覚えてるかな?」

「グレーのパーカー着てて、なんか冴えない男だった、パッとしないっていうかさ」


 えらくぼんやりした答えだ、グレーのパーカーを着た冴えない男なんて腐るほどいる。


「他に特徴ないかな?」

「うーん、、なんか生気の無い目をしててぇ、冴えない感じ?」

 なんだか(らち)があきそうにない。

「ごめん、うーんと、後ろの刑事さんと話させてね」

「OK」


 俺は椅子から立ち上がり、浅川警部に声をかけた。


「あの、なんか写真とか、なんかないですか?」

「写真?」

「ええ、特徴を聞いてるんですけど、なんか要領を得なくて」

「モンタージュなら作れるけど」

「モンタージュ?」

「パーツを貼り合わせた似顔絵ね」

「それお願いして良いですか」

「お安い御用よ」


 浅川警部は隣の部屋からタブレット端末を持ってきて、俺の隣に立った。俺はカナに声をかける。


「これから君を殺した犯人の似顔絵を作るために色んなパーツを出すから、記憶に近いものを指でさしてもらっていいかな?」

「いいよ、ってか君じゃなくてカナね」

「ごめんね、カナさん」

「『さん』はいらない」

「OK、カナ、つらいと思うけど協力をお願い」

「オッケー気合い入れてやる」


 浅川警部はタブレットを操作して、カナに画面を見せる。

「まずは輪郭から」

「これっぽいかなー」

「次は目」

「これかな」


 カナは迷いながら出てきた顔のパーツを指さしていく。 


「口はどうかしら」

「あ、こっちか、こっちか、どっちだろう」


 浅川警部が俺を見て「彼女なんて?」と聞いてきた。「口のパーツでどっちか迷っているようです」と答え俺は画面をのぞき込んだ。


「あ!カナ、口はこっちじゃないかな?」

 目・鼻・眉まで揃ったモンタージュを見て俺はカナに声をかけた、見覚えのある顔が完成しかけている。

「カナ、こっちじゃないかなってダジャレ?」

洒落(しゃれ)じゃない、よく見て」

 俺は浅川警部に口のパーツを指定し、合成写真を整えてもらった。


「あー!こいつ!」


 カナが完成したモンタージュを指さして叫んだ。ビンゴだ、俺がバスで見かけた虚ろな目の男そっくりである。


「バスに居たやつだ」

「見たことあるの?」

 浅川警部が俺に詰め寄る。


「ええ、4日前にバスで見かけました、黒いモヤというか影が、この男に(まと)わりついていて、その影は後ろにいたカナともう一人の女の子を見ていたんです」


「影が見えた?それ本当か」

 川辺さんが後ろから口を挟む。

「ええ、しかも俺、影と目が合っちゃって・・・」


「ああ、お手柄だが厄介なことになっちゃったなー」

 川辺さんはため息をつきながら続ける。


「つまり次のターゲットは、そのカナって子のお友達か」

 そう言った後、浅川刑事と川辺さんは俺をじっと見つめた。

「え?俺・・ですか?」

「たぶん」


 二人の声が揃った、勘弁してくれ。


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