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常夜灯と点灯夫のワルツ  作者: 和泉トモノブ


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8/8

imitation of life

 イーストモール前という停留所でバスを降りると、目の前に大型ショッピングモールがそびえ立っていた。

 食料品から衣類、電化製品、七五三の撮影までなんでも揃う。

 こっちの世界も商店街は姿を消しているのだろう。

 入口を入ると「営業時間8:00~17:00まで」と書いた看板が目に入ってきた。


 はい?夕方5時まで?しかも朝早くからやってる。


 夜がどれだけ怖いかはホテルで経験済みである。こっちの世界の住民は朝早く動き、日没前に帰るというサイクルなんだろうか。

 だとしたら、病院や介護施設なんかは除くとして、ワークライフバランスは抜群に良いのだろう。

 皆どうやって納期に間に合わせているのだろうか?


 色々と疑問は尽きないが、そんなことより、煙草を吸いたい。


 フロアマップを見て喫煙所を探す。

 エスカレーターで5階まで上がり、トイレ近くの喫煙所に入り煙草に火をつけ、煙を深く吸い込んで、吐き出した。


 どんな手段を使ってでも、気持ちを落ち着けないと次には進めない。

 たとえそれが肺を汚すことになってもだ。


 時刻は午後3時、2時間でとりあえず最低限の物は揃えなければならない。


 煙草を灰皿でもみ消して喫煙所を出て、再びエスカレーターに乗り、3階の衣料品店に向かう。

 セールのカゴに入っていたスウェットのズボン2本と、黒のロンTを2枚、黒のTシャツを2枚、トランクス2枚と3足で500円の靴下をカゴに放り込み会計を済ますと、残金が千円を切ってしまった。


 お金下ろすか。


 パンパンになった紙袋を持って1階まで降り、フロアマップの案内通りにATMに向かう。

 キャッシュカードを入れて、通帳に貼られた付箋を見ながら暗証番号を入力して、とりあえず5万円引き出した。


 今後の生活がどうなるか分からない、少しでも多く残しておきたい。


 時刻は午後4時、ドラッグストアで歯ブラシと歯磨き粉、T字のカミソリとシェービングジェル、シャンプーとボディソープとハーフバスタオル、20リットルのごみ袋と4個入りのトイレットペーパーを購入。


 結構な荷物だ。


 外に出ると陽が傾きかけていた、時刻は午後4時45分。

 風が冷たくなって薄っすらと寒くなっていた。


 この時間でもまだ明るいのか。

 元居た世界ではもうすぐ夜に切り替わる時間帯である。

 バス停に向かい、時刻表を見ると、4時から5時の時間帯はおよそ5分おきにバスが来るようになっていた。おそらく今が帰宅ラッシュなのだろう。

 すぐにバスがやってきて、あらかじめ用意した小銭を精算機に入れ、出口付近で足元に荷物を置きつり革に掴まる。帰りの車内では影を纏った人の姿は無かった。


 バスを降りてコンビニに入り、から揚げ弁当と炭酸水とビール、それとタバコを2箱購入して、寮に戻った。

 リュックから生活用品を一通り出して整理する。紙袋から衣類を出し、筆箱からカッターナイフを取り出してタグを切り、スウェットのズボンと、黒のロンT、下着、ハーフバスタオルを持って脱衣場に行きシャワーを浴びた。

 入浴後は、レンジで温めた弁当を食べ、ビールを飲んだ。その後キッチンへ行き、換気扇のスイッチを入れて煙草に火を点ける。


「疲れたなー」換気扇の音を聞きながら一人でそう呟き。買い忘れた灰皿の代わりに、ビールの空き缶に灰を落とす。

 付箋に買うものリストを書いたが、ショッピングモールで一度も見ていないことに気づいた。


 アホだな、俺。


 翌日は朝からイーストモールへ行き、昨日買いそびれた日用品と、黒のパーカー2着とカーゴパンツを2本、青のダウンジャケットを購入して帰ってきた。

 ホテルで購入した下着や、こちらの世界に来てからずっと来ていた、ネルシャツとジーンズを洗濯機で洗い、外に干す。これでやっと人間らしい生活が整ってきた。


 眠たい日差しのなか、洗濯物が風に揺れる午後2時。

 ふと、まだ読んでいないことに気づいて、窓際に座り雇用契約書を眺めた。


 夜勤は、16時から翌6時まで(休憩2.5時間)

 日勤は、9時から17時(休憩45分)

 基本給23万、夜勤手当1日6000円(月5~6回)その他、危険手当支給。

 交通費全額支給。

 賞与年2回、12月と6月に基本給の2か月分支給

 休日、月10日


 結構もらえるんだな。

 元の世界ではボーナスなんてなかったのでこれはかなりうれしい。

 体力的な不安はあるが、月の休日が10日ある。まぁ、なんとかなるだろう。


 次の皆既月食まで警備会社で点灯夫をすることになる。

 そういや次の皆既月食っていつだろうか。


 スマホで皆既月食と入力して検索して、国立天文台のホームページをタップすると、次の皆既月食は翌年の11月12日午後8時4分から始まり8時30分には最も暗い色になると表示された。

 少なくともそれまでは、こっちの世界でなんとか生活しなきゃならない。

 そもそも帰れたとして、会社はクビになっているだろうし、住んでいたアパートも静岡に住む母と姉によって引き払われているだろう。

 多分心配しているのだろう。そう思うと急に気が重くなってきた。


「あー、メンドクセーな」


 特段やることもなく、今考えてもどうにもならないことを取り留めもなく考え、不安を感じながら過ごす。こういう、どうしようもない時間が一番シンドイ。


 そんなシンドイ時間が2日続いた。


 11月14日、出勤初日。

 16時からのシフトなので、昼過ぎまで無理やり寝て過ごし、コンビニで弁当とメモ帳を購入し、弁当を温めてイートインスペースで食べた。

 川辺さんから受け取ったヘタクソな地図を見ながら30分歩くと、株式会社Lanp Lighter警備保障と大きく看板が掲げられた二階建ての建物が見えた。

 固く締められたシャッターにはお札が貼られ、この世界の危険さを物語っている。


「お札かぁ、そうかい、そういう世界なんだよねぇ」

 一人呟きながら、入口に行くとカードキーで鍵を開ける仕組みになっていた。


「まぁ厳重だよな」


 仕方なく脇にあるインターホンを押す。


「はい」

「あの、今日からお世話になります早坂と申します」

「あー今日からの、ちょっと待ってくださいね、川辺さーん、え?どこ行ったのよ、あーいたいた、ほら、なんだっけ、拾ったって言ってた人来たよ」


 うん、丸聞こえだ。拾われたのは事実だが、犬猫じゃないんだから勘弁してほしい。


「今、川辺がそちらに向かいますので」

「あ、はい、ありがとうございます」


 程なくして入口の扉が開いた。


「やあやあ、ようこそ」

「よろしくお願いします」


 入口で軽く挨拶して中に入り、階段を上がって事務所の扉を開けた。

 各デスクに人数分のPCがあり忙しそうにデータを打ち込むスタッフが数名、隣の部屋はミーティングルームになっていて、壁際にホワイトボードがあり、長テーブルを二つくっつけ、その周りに椅子が並べられていた。


「川辺さん電話入ってるけど後にしてもらう?」


 女性スタッフが受話器を抑えながら言った。

 細身だがどこかガッシリとした感じの姿勢の良い綺麗な女性だ。


「誰から?」

「ヨントクの浅川さん」

「出るわ、早坂君をロッカーまで案内してくれる?」

「了解です」


 姿勢の良い女性に案内されロッカールームの入り口を開ける。

 身の丈程の大きなロッカーが左右、正面の壁側に並べられ、背もたれの無いベンチが真ん中に4つ置かれていた。


「えーっとこれね」

 女性が早坂と書いたネームプレートが差し込まれたロッカーを指さして言った。

「中に巡回で使うベストが入っているからそれ着てミーティングルームに来て頂戴」

「ありがとうございます」

「まぁ、頑張りすぎないようにね」

 そう言って女性はスタッフルームへと戻っていった。


 ロッカーを開けてリュックを入れ、ハンガーにかけてある黒のベストを着てチャックを上げた。

 Lanp Lighter警備保障と左胸に印字され、両胸と両脇に大きなポケットが着いていて、どれも蓋が出来るようになっている。


「はい、おはようございますっと」

 そう言いながら、初老の男が入ってきた。

 ハンチング帽を被り、チェックのネルシャツの上に茶色のブルゾンを羽織っている。

 年齢は50代後半に見えた。

「おう、見ねぇ顔だな、誰だ?」


 誰だ、と来たもんだ。


「今日からお世話になります早坂と言います」

「あー川辺が拾ってきたやつか」

 初老の男はそう言いながら、俺の二つ隣のロッカーを開けた。


 ここの人たちは俺のことを犬や猫だと思っているのか。


「ええ、拾われちゃいました」

 俺は笑顔でそう返した。まぁ拾われたのは間違いないわけだし。


「川辺が言ってたよ面白い奴だって、まぁ、おかしなことに巻き込まれないよう気を付け・・」

「早坂君、初日で悪いんだけどさ、あ、シゲさん早いね」

 初老の男の話を遮るように川辺さんが入ってきた。

 シゲさんと呼ばれた初老の男は、首の後ろに手を当てため息をついた。


「なんでしょう?」

「初日で悪いんだけどさ、ちょっと俺と一緒に行ってもらいたいとこがあるんだ」


 川辺さんの言葉にシゲさんの目つきが変わる。


「ヨントク絡みか?」

「ご名答」

「お前なぁ・・・」

「言いたいことは分かるよシゲさん、でもさ彼の力が必要なわけ」

「だからってよ、お前よぉ、こいつ今日来たばっかで点灯夫の仕事も覚えてねぇじゃねえか」


「あの、ヨントクって」

 俺は二人の会話に恐る恐る割り込んだ。


「あー、捜査一課第4特殊捜査、通称ヨントク、お前さん・・・」

 シゲさんは首の後ろに手を当てながら川辺さんを見て「断って良いと言おうと思ったがよぉ・・」そう言って、ため息をついた。


「お前さんタバコ吸うのか」

「はい、吸いますが」

「じゃあ吸ってこい、下手すりゃ朝まで禁煙だ、俺はこいつをシバイとく」

「あーシバかれちゃうか、早坂君、これ屋上の鍵ね、出てすぐのところに灰皿あるから」

 そう言って川辺さんは俺に鍵を手渡した。


 ヨントク?捜査一課?頭の中でグルグルと疑問が湧いてくるが、とりあえずこの場を離れた方が良さそうだ。

 ってか、街灯の点検すんじゃないのかよ・・・。


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