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副業勇者(仮)  作者: 安居剛
勇者くん 旅に出ようや
42/44

41話 普通

「普通」


 悪い意味ではないものの、大体の場合において良い意味では使われない言葉。

 例えば、「新しい服買ったんだ!どうかな?」というときに、「かっこいい!」でも「似合ってるね!」でもなく、「普通」と言われたら?

「その本どう?面白い?」と聞いて、「普通」と言われたら?


 決して貶しているわけではないのだが、まず「普通」という感想は良いイメージではないだろう。

 何の感動も生まれていないということになるので、場合によっては悪い感想よりも言われた方は傷つくこともある。

 そしてそれは、料理の感想においても例外ではなく。



「ふ……普通って何よ?美味しいでも不味いでもないの?」


「あ、ああ!口に合わないならそう言えば良いだろう!好みの問題なら仕方ないんだから!」


「そ、そうですよ。好みではないのなら言ってもらえれば……」



 自信作を振る舞ってそんな感想が出てくるとは思わなかったのだろう。明らかに動揺しだす人妻たち。

 もしかして失敗した?とばかりに3人ともリントとフィックスの方を確認するが、その二人は何だか気まずそうにしながらも手は進んでいる。失敗した様子はない。それは食べた俺もわかっている。これらの料理は決して失敗などはしていない。不味かったり焦げていたりといったことではないのだ。

 ただなんというか……単純なんだよなぁ。味付けがシンプル過ぎる気がするし、かといって素材の味が生かされているわけでもない。

 もう一度それぞれ一口ずつ食べてみる。



「………うん、やっぱ普通だわ。何だろうこれ、すごい普通。いや、全然食えるよ?大丈夫大丈夫。」



 重ねて言われた「普通」に、3人はショックを受けているようだった。

 まあ、先ほども言ったように、「普通」はどうしても悪い方にとられがちである。俺も貶したつもりで言ったのではないが、そう思われるのは仕方ないだろう。

 それに、俺が割と料理が得意というのもある。もっぱら職場での食事作りの際には調理を任されるし、趣味の一つとして安くて美味しい店探しもよく休日にやっているので、結構舌も肥えている。どうしても、自分の好みの味付けでない料理は、評価が厳しめになってしまうのだ。これは俺の悪い癖なのだが、思ってもない「美味しい」を口に出すこともできなかった。



「リント、明日は自分で飯作っていい?」



 今日はこの食事でいいとして、次からは厨房を借りて自分で好きなものを作ろう。そう思いリントに聞いてみた。言った瞬間、困惑していた嫁たちの肩がピクッと動いた。



「え?いいですけど……アキラさん料理できるんですか?」


「何度も作らせんのも悪いし、自分の飯くらいは自分で作るよ。まあ食材は使わせてもらうけど」


「……そうですか、わかりました。」



 普段から自炊しているので、自分で作った方が好きな味のものを食べられるからいいや、というだけの話なのだが、嫁達は不満と悔しさが入り交じったような顔をしていた。

 ごめんね、俺、食べるもんには嘘つけないんだ。



 食事を終えた後、リントに厨房の使い方や食材の保管場所について説明を受け、風呂を借りた後、空き部屋の1つを使って良いとのことで(だだっ広い屋敷に4人しかいないせいで部屋は有り余っている)この日はその後何事もなく就寝した。










 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆








 ………………早く起きすぎた。

 スマホを見ると時刻は朝4時半。

 昨日は夕方に飯食って風呂入ってすぐベッドに入ったので、20時前には寝たことになる。疲れてたとはいえ9時間近く寝りゃ目も覚めるだろう。ちなみに1日は元の世界と同じく24時間のようだ。


 まあ、慣れない設備で料理しなきゃならないわけだし、昨日リントから受けた説明ではいろんな設備が魔力で動いているようだったので俺はそのへん工夫して魔力なしでこなさなければならない。早めに取りかかるに越したことはないだろう。

 そう思い、まずは朝の体操がてら軽くサンドバッグを叩いてから朝食の準備をすることにした。







 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇  ◆ ◇ ◆ ◇







「さて、作ろうにも何があるんだか」



 中庭で、座り込んで空を見ながら途方に暮れていたプルスターに挨拶しながら遊びで三角絞めやロメロスペシャルなど色々な技を試し(キン肉バスターも試してみたらできてびっくりした)、最後に金剛で失神させてから厨房にやってきた。

 昨夜リントに案内してもらった時は何があるかまでは確認しなかったので、今から何を使って何を作るか考えなければ。


(えーと、余裕がありそうなのはベーコンみたいな肉と、パンと、野菜は何が……)



 ガコン!ガコン!

 カチャン!



「ん?」



 食材を吟味していると、すぐそこにある勝手口の外から物音がした。

 気になってドアを開けてみると、「うわぁっ!」という叫び声と共に、尻餅をつく若者がいた。

 茶髪を清潔そうなオールバックにしながら、長い後ろ髪を後頭部でまとめていて、なかなか鍛えてそうなバランスのいい筋肉をしているのがわかる。

 何より顔が良い。この世界は顔が良い人が多いなちくしょう。



「あ、あんた誰だ!?なんでこんな時間にこの家に!?」


「俺もそれ聞きたいわ。今何かしてた?」


「お、俺はミルクと卵の宅配だ!あんたは……ってそうか、マリーさんの結界があるんだから、中にいる時点でリントさんの敵ではないのか……騒いですみません、失礼しました。」



 すぐに気づくあたり、頭の回転も中々早いようだ。しかも敬語が使えているので、育ちは良いのだろう。



「お、察しがいいね。まあ俺は……リントの友達、でいいかな。うん」



 まあその結界破って侵入してきた敵のオッサンは現在進行形で中にいるんだけどね。リントとマリーの名誉の為に黙っとくけど。

 それより良いことを聞いた気がする。




「ここんち宅配とってんの?いつもこんなに?」



 さっき音が聞こえたあたりをふと見ると、受け取り箱のようなものがあり、中には結構な大きさの瓶に入った牛乳らしきものが4本と、木箱に入ったこれまた結構な個数の卵があった。瓶は一本1リットル以上、卵は20個はあるだろうか。




「そうっすね、リントさんはうちのミルクと卵を気に入ってくれてて。この量を週2回買ってくれてるんですよ。」


「マジか。この量を週2ってどんだけ好きなんだよ」



 さっき食材を選んでた時、ミルクと卵のストックは無かった。

 昨日の夕飯でも無理して大量に使ってる様子も無かったので、本当に普段からそのペースで消費してるのだろう。



「あの、自分、王都で農場やってるジャスタって者です。よろしければお名前を聞いても?」


「あぁ、ご丁寧にどうも。大室亨といいます。アキラでいいよ」


「アキラさんですね。……いや~、驚いたなぁ」


「何が?」


「だって、こんな時間に家にいるってことは泊まってたんすよね?いやぁ、リントさんの家にまさか男性が泊まるなんて。可愛い女の子や綺麗な女性しか見たことなかったから」


「へえ……その言い方だと、奥さん以外にも?」


「そうですね、いろんな女性がちょくちょく遊びに来てるみたいです。さすが救世の勇者ですよね」


「………ソウダネー」



 朝から聞きたくもない情報を聞いてしまいテンションが下がった。

 だが新鮮な食材を前にした喜びの方がギリで勝ったので流して話を戻す。



「その話はあとで詳しく聞くとして、じゃあこの卵って取れたて?生で食えんの?」


「あ、アキラさんもリントさんと同じ生卵を食べる国の方なんですね!うちの卵はリントさんもよく生で食べてるんで大丈夫ですよ!」


「あ、そうじゃなくて。産卵からの日数の管理とか殺菌とかしてる?」


「えっと……基本的にその日の朝に取れたもので、一応リントさんに教わって出荷前に浄化の魔法をかけてますけど……」



 あー、魔法で消毒ね………その場合どうなんだろう。もう殺菌してあるものが復活するってのも変だから大丈夫そうな気もするけど怖いな。後で俺が割った生卵をリントに食わせて実験しなきゃ。

 とりあえず今日は生で食べるのはやめておこう。



「わかった。ありがたく使わせてもらうわ。…………どうかした?」



「使わせてもらう」の言葉を聞いた途端、ジャスタはポカンとこちらを見つめ出した。特に変なことは言ってないはずだけど。



「アキラさん、自分で料理するんですか?ここの奥さん達はあんなに料理上手なのに……」


「なんて?」



 理解の外の発言が飛んできた。料理上手?誰が?



「この家で食事するなら奥さん達に任せておけば間違いないじゃないですか。良家の出のフィオナさんが作る正統派料理に、マリーさんの発明する独創的な料理、そしてシャーレイさんの作る騎士団仕込みの炊き出し料理と、この家にいるだけで色々な料理が堪能できるんですから、せっかくだから存分に楽しんだ方が……」


「ゆうべ3人分全部食ったわ」


「ええっ!?じゃあなおさら任せた方がいいんじゃ……俺もごくたまにご一緒させてもらいますけど、奥さん達の料理は食べられるときに食べなきゃもったいないですよ!」



 マジか。まさか、『荒野の一席』が規格外なだけで、この世界では昨日の料理が美味とされるのか。いや不味くはないが、あんなに普通で普通な料理が。



「……ちょっとこの牛乳試飲していい?」


「へ?え、ええ。どうぞ」



 脈絡のない俺の申し出に戸惑いながらも、ジャスタが試飲用の柄杓で牛乳を掬ってくれる。

 それを受け取り飲んでみると、驚くほどの美味しさが口から喉、胃へと通り抜けていった。

 口に含んですぐにわかる濃厚だがさっぱりとした乳の香りと味。

 砂糖は入ってないはずだがほんのりと甘く、飲み込んだ後にはあの濃厚さが嘘のようにスッキリとさわやかな後味。しっかりと冷やしてあるのが嬉しい。

 こんなに美味しい牛乳は日本でもなかなか無いだろう。



「……この牛乳、本当に美味しいなあ……美味しいよね?」


「はい、ありがとうございます!もちろん、国で一番美味しいミルクを作ってると自負してます!」


「そうだよね、こんなに美味いもんね……」



 本当に美味しい。素材は最高だ。この分なら卵も期待できる。

 そしてこれが美味しいとわかっているなら、彼らの舌がバカな訳では無いはず。

 なのに、昨日のあの程度が料理上手とされるレベルだ。この世界は美味しさを何倍にもできる本当の料理のすごさを知る人が少ないのだろう。

 これではこんなに良い素材を生産しているジャスタのような人々に申し訳ない。もっと美味いもん食わせてやらにゃ。



「………配達ってどのくらいで終わる?あと朝飯食った?」


「え?あと数軒なんで、一時間もあれば終わりますけど……そのあとに帰って朝ご飯ですね」


「よし。配達終わったら帰らずにもう一回ここに来てよ。朝ご飯作っといてやるから食べてきな」


「はあ……わかりました。じゃあ一旦失礼します」



 明らかに期待はしてないといった顔で、ジャスタは再び配達へと向かった。

 まあ、こんなゴリゴリの男が作る料理と言ってもあまり楽しみではないだろう。望むところだ。ある食材で出来る限りの料理を作ってやろう。

 リントの許可とかとってないけどまあ一人くらい大丈夫だろう、うん。

 さっそく食材の確認の続きを終わらせてメニューを考えよう。

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