40話 道化師の末路と嫁の手料理
「えー、………なんでそれが解決になると?」
俺の案に対し、明らかに一ミリも理解ができていない表情を浮かべつつもとりあえず聞いてくるリント。
「え?現時点でこれ以上状況が悪化しないから」
すかさず俺が放置の理由を答えると、リントは余計にわからないというような顔になった。
俺もその顔を見てわからないという顔で答える。
「いや、そんな顔されても……現在進行形で嫌な状況なわけで……」
「でも、別に被害は出てないだろ?中庭なんて絶対に必要なわけでもなし」
「え~…………」
露骨に嫌な顔をするリント。俺の考えをさらに続ける。
「物的にも人的にも被害は出てないし、今のプルスターは自分で張った無駄に面倒な結界のせいで何もできない。もしここで奴を殺せば、何かしらの情報が魔王の元に届いちゃうはずだ。この世界はそういうシステムなんだろ?もし情報は渡らないとしても、奴に勝ったとわかれば魔王たちもそれなりに警戒を強めるだろうよ。そうなったら、次からはプルスターより更に強い奴が出てくる。わざわざ敵にそんな準備をさせてやることも無いだろ?そんか状況になるくらいだったら、このまま放置しておけば、プルスターの方から情報を送る手段もなく、魔王軍から見ても、まだ生きてて帰ってこないのなら作戦の途中なんだろうと思って特に手出しはしてこないだろうし──」
長々とまくし立てる俺の言葉にリントは何度も表情を変えながら深く考えている様子だ。
俺の意見の合理性と自分の家の敷地内に変な格好のおっさんを放置することの不愉快さを天秤にかけているのだろう。あと一押しだ。
「それに結界がある以上あいつを殺したければここでやるしかない訳だけど、そうすると先代の勇者であるリントが俺と手を組んだと見なされてお前や奥さん達も今後魔王軍の奴らの標的として優先順位が上がっちゃうんじゃないのか?一応、現時点では俺とお前はただ話をしていただけで明確にリントが魔王軍に手を出した事実は無いんだから。自分から立場を悪くするのは賢明じゃないだろ?」
目を瞑りながら話を聞くリントだが、だんだん頷く回数が多くなってきた。めっちゃ反対してたマリーはといえば、先ほど織り混ぜた「奥さん」と言う言葉のせいか他の二人とともに顔を赤くしている。ちょろい。
このまま畳み掛ければ説得できる。と思ったのに。
「で、簡単に本音を言うと?」
「せっかく思いっきり叩けるサンドバッグが手に入ったからもっと遊びた──あっ。」
「ん~、やっぱアキラくんも何だかんだ言って考え方がクズだよねえ。あ、もちろん僕的に褒め言葉だよ?」
口を滑らせてしまった事に気付くと同時に、声が聞こえた方を振り返ると、迷惑しか振り撒かない上に逃げ足がハエ並みに速い害悪の塊がそこにいた。
「なんか僕を表す形容詞が酷すぎない!?何度も言ってるけど神様だからねこれでも!?」
害悪が喚くのを無視して殺意を持って首を掴みにかかったり蹴りかかったりするが、小癪にも宙に浮いてかわされる。こいつ無駄に身を守る技術だけ進歩してやがる。
「だから無言で殺そうとするのはやめてって!!冗談ならいいけどアキラくん本気の本気なんだもん!!怖いよ!!」
先程自分を神様だと言った男が室内でただの人間から飛んで逃げ回るという醜態を晒している中、リント達はというと、何度目かになるが突然現れた神様とその神に無言で襲いかかる俺という構図に、まだ慣れないらしくどうすればいいのかと慌てている様子。
どうやら先程俺が口を滑らせた件は忘れてそうだ。ならばここは話を進めるために神殺しは諦めよう。
「……わかったよ。一回だけ、一発だけ殴らせろ。それで今回の件は置いておくから」
「え、一発だけ?それなら頑張って我慢するよ。あ、でも顔はやめ──」
「金剛」
ごちゃごちゃ言いながら着地した瞬間に、心臓部分を渾身の力で一撃。
神はセリフの途中で鈍い音と共に崩れるように失神し、その場に倒れた。
「あ、またさっきの技……」
「よし、これでしばらく静かになる」
足元に横たわる神の間抜け面を見て気絶を確認し、若干動揺したままのリントに向き直る。
「まあつまり、このままにしておいた方がこれからの被害も最小限だし俺も助かるんだ。プルスターの方からは何も出来ないわけだし、ここは我慢して放置して欲しいんだ。頼むよ。」
「え~………でも…………」
このままにしてなぜ俺が助かるのかとかの理由は誤魔化してに強引に話を持ってったので、さすがにリントも渋る。そりゃそうだ。自分の家に変な格好をした敵のオッサンを放し飼いするなんて嫌すぎる。
こうなったら仕方ない。次回の荷物が結構大変になるが……
「実は任○堂の最新ハード、据え置き器なのにテレビが無くてもプレイできる優れものでさ……次帰ったときのお土産にそれを」
「他でもないアキラさんの為です。我慢しましょう!!ちなみにどんなソフトがありますか!?」
勇者はSwitchに堕ちた。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
さて、不毛な争いも終わり、俺とリントとフィックスは居間でくつろがせてもらっている。
結界とプルスター放置はさすがに反対した嫁達だったが、リントがなんとかなだめ、最終的には笑顔とキスで無理矢理話を収めていた。死ねばいいのに。
「はあ……しかし今日は無駄に戦闘して疲れたな……」
思えば、朝からろくに食事もせずにチンピラと戦い、そのあと更に魔王軍の幹部と戦ったわけだからよくもったなと思う。まあ後者は一方的な実験で終わったけど。
「ああそっか、アキラは結局メシ食えてなかったもんな」
「3人で作ってもらってるからすぐにできると思いますよ。もう少し待ってて下さい」
先ほど、リントは説得しながら流れるように嫁達に夕飯の支度を頼み、嫁達は真っ赤なメスの顔になって台所へと向かっていった。全く胸糞悪いが食事を作ってくれるのはありがたい。リントが普通に頼んでいたところを見るに、ありがちなメシマズキャラは3人の中にはいないのだろう。
「いやー、フィックスに奢ってもらった店も大衆店っぽいわりに美味かったし、こっちの料理も楽しみだな!」
と、何気なく言った瞬間、リントは固まり、フィックスはキョトンとしてこちらを見つめ出した。
え、俺今何かおかしいこと言った?
「……アキラさん、もしかしてこちらに来て最初の食事がその店ですか?」
「え?そうだけど?」
恐る恐る質問してきたリントに答えると、リントはまたなんとも複雑な顔になり、フィックスは「あちゃー」みたいな反応をしている。
「えっと……フィックスさん、その店って、もしかしなくても『荒野の一席』ですよね?」
「あー……何か悪いことしちまったかな……」
「え、何?何なの?」
何だ何だ?あの店の何がそんなにまずいんだ?料理も酒もよく出来てたぞ?
「……アキラさん、その『荒野の一席』という店は、その、世界一のシェフと言われる店主が開く、今この国で一番美味しいと言われている店なんです」
「あのおやっさんは、世界一の腕を持ちながらも、『金持ちだけが俺の料理を食うなんて勿体無い話があるか!』という信念のもと、自ら選んだ最高級食材を一流の技で調理し、大衆食堂の値段で振る舞うというコンセプトであの店をやってんだ」
「マジかよ、それ経営大丈夫なのって話はおいといて、あのおっさんそんなすげえ人だったのか。………で、それの何がダメなんだ?」
「だから、あの店の味は世界で最高峰の味だから、アレを基準にしちまうと……」
「できましたよー!」
フィックスが喋ってる途中で、ニコニコとフィオナが料理を運んでくる。続いてマリーとシャーレイも来て料理をテーブルに並べる。どうやら1人一品ずつ料理を作ってきたようだ。
しかし、フィックスとリントが気まずそうな顔を、俺は訝しげな顔をしているのを見て、3人は不思議そうにしている。
「どうしたの?せっかく作ったんだから、遠慮しないで食べていいわよ。聞けばあなた、昼間も何も食べてないんでしょう?」
まあ、本当はリントに一番に食べてもらいたいんだけどね……とかなんとかゴニョゴニョ言いながらマリーが促してくる。さっきまで魔法を乱れ撃ちしながら喚いていたとは思えない気遣いだ。機嫌はすっかり治ったのだろう。
「……いいのかな?」
「…………はい。食べて下さい」
リントも食べるよう促してくる。この場合のリントの言葉には、「まあ、実際食べて比べて判断しろとしか言えません」という意味が込められている。
フィックスも悪いことはしてないのだが反省しているような感じを醸し出している。
いや、まあ、とにかく食べてみるしかない。見ると、三種類とも見た目はちゃんとしている。異世界といえどマンガやアニメじゃないんだから、見た目がしっかりしていればそれほど激マズなことにはならない……と思う。
「じゃあ……いただきます。」
意を決して、俺はマリーが作った料理から一口食べ始めた。
………しばらくよく噛んで味わい、飲み込んで、次はフィオナの料理。
………こちらもじっくり味わい、シャーレイの料理も口に運ぶ。
嫁達は、自分の料理が評価されるのを待つように自信ありげに俺の反応を伺っている。
リントとフィックスも、とりあえず食事を始めながらも俺のリアクションを伺っている。
そして、3人の料理を食べた俺の感想は………
「ふ、普通…………リアクション取れねぇ………」
非常に困る結果となった。




