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副業勇者(仮)  作者: 安居剛
勇者くん 旅に出ようや
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39話 道化師の後始末

 

「え、メンタル弱すぎない?世界救ったんだよね?」



 倒れたリントを見ながら、まず浮かんだ感想がそれだった。

 実際まだ何もしていないし、プルスターのおかげで役目は免れたというのに、もしもの事を考えただけで失神するとか軟弱すぎるでしょ。



「いや、手も足も出ずに殺されかけた相手にまた何度も半殺しにされると思ったら無理もないでしょ……」



 マリーに指摘されて、まあそれもそうかと納得する。

 ……いや、だとしても魔王軍と戦い続けて修羅場や逆境は何度も越えているだろうに。それらを上回るほどの恐怖を植え付けてしまったのか……

 なんか悪いことしたな。



「ほっとくのも可哀想だし、今日はこのへんにしとくか……」


「あれ、もういいのか?」


「うん、そういえばイオ……リーラモールで飯食い損ねたから腹も減ったし、何か食べさせてくんない?リントは俺がベッドに運んどくからさ」


「あ、そうなの……じゃあ夕飯の支度しようかしら」


「そうですね、気付いたらいい時間ですし」



 フィックスに答えつつ倒れているリントを持ち上げ、そのままマリーとフィオナの方を向き食事をねだる。自然で無駄のない動きに二人とも俺の希望をすんなり受け入れる。



「……いや、その前にあれはどうするんだ」


「………お前が気付いたか」



 そのまま歩き出そうとしたところをシャーレイに止められる。さすがにダメだったか。

 シャーレイが指差す方向には、先程まで俺以外がみんなビビっていた結界、そしてそれを作り出したピエロ(瀕死)。



「あぁ!リントが倒れた驚きで一瞬忘れてました!」


「そ、そうよ!あれを先になんとかしないと!」



 マリーとフィオナもすぐにそちらに関心を戻し、結界の張られた中庭の方に向き直る。



「アキラ、どうにかしてくれない?悔しいけど、私じゃあの結界はどうにも……」


「それに、プルスターをあのままにしておくのも……」


「いや、もうアキラに被害が行く心配は無いんだし、中のあいつごとぶち壊しちまえばよくね?」


「あぁ……それもそうか」



 俺以外の4人でどんどん話を進めている。確かにフィックスの言っている通り、もう壊してしまっても俺は何の問題もない。

 しかしここはもっといい手がある。





「心配しなくても、結界とあの残念おじさんをどうするかなら考えてあるよ」










 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆









「………あれ、なんでベッドで寝て…………はっ!?」



 目を覚ましたリントが、何かを恐れるように慌てて飛び起きる。



「アキラさん!?どこですか!?次は何をする気ですか!?」


「落ち着けリント、私しかいないぞ」



 リントが冷や汗をかきながら部屋中をすごい勢いで見回す中、シャーレイが宥める。

 リントもその声に気付き、落ち着きを取り戻して視線をベッドの横に座るシャーレイの方へ向ける。



「えっと……僕、また気絶してた?」


「ああ……今回は怪我をしたわけではないから小一時間ほどしか経っていないけどな」


「そっか……そ、それで、どうなったの?」


「え?」


「アキラさん、まだあの非人道的な暴力行為続けてるの?」


「あ、あー………それは終わった。終わったんだが……」



 リントの当然の質問に、どうも煮え切らない返事を返すシャーレイ。リントもまたその反応を見て不思議に思う。

 終わったというなら何の問題が在るのだろう?確かに厄介な条件の結界を作り出していたが、アキラは問題なく脱出できるようなので、結界内にプルスターを残して外から破壊すればいい話だ。後片付けに障害はなさそうだが………

 と、考えていると、廊下から騒がしい声が聞こえてきた。


 叫んでいる声のはマリーのようだが、リントはこれまた不思議に思った。マリーがこんな声の荒げ方をするなんて今まで覚えがない。

 動揺しても驚いても、決して大声は上げず、感情の動きは省エネで。

 怒りや高揚などで大きく感情が動いた時は、繰り出す魔法の規模と精度によって表現をする、魔道の申し子。それがリントが思っているマリーのイメージだった。のだが……



「──ッだからッ!やめなさいって言ってるでしょう!!何のメリットがあるのよ!!」



 相当怒鳴っている。夫であるリントも見たことのない、彼女のこんな一面を引き出しているのは一体何なのだろう?



「メリットなんかねーよ!単にあいつにとって一番イヤな選択ってだけだ!」


「それだと私たちも迷惑だって言ってるでしょう!!?」



 まあ予想通りというか、それしかないというか。原因はアキラのようだった。言い合いの声と魔法の発動音が鳴り響いている。

 しかし自宅とはいえ屋内でこんなにバンバン魔法を放つなんて今のマリーはよっぽど取り乱しているのだろう。



「………ん?」



 リントが違和感に気付く。魔法が発動する音が何度も鳴り響くのに対して、着弾などの他の音がしない。それにいくらなんでも屋内で打ち過ぎだ。

 というか、そもそもアキラとマリーで何をやっているのか。

 シャーレイが呆れ顔をしているのを見るに、彼女は知っているようだが、すぐそこの廊下で起きていることなので自分の目で確認しようと思い、リントはベッドから出てドアを開けた。



「お前こそやめろって!俺じゃなかったらこの家の被害やべーことになってんぞ!」


「ちゃんと結界狙ってるから当たっても大丈夫なのよ!!じゃなくてなんで貴方は平気なのよ!!」



 リントがまず見たのは、息を切らしながら魔法を連発するマリー。火炎弾に氷塊、岩石に黒球、光球。ありとあらゆる属性の下級魔法をどんどん発動している。

 そしてそれらの魔法が飛んでいく方向を見ると、狙いは中庭への扉に張られたままのプルスターの結界。のようだが、なぜかその前にアキラが立ちふさがり、まるでサッカーのゴールキーパーのように両手、両足、頭と全身を使って飛んでくる魔法を防いでいる。各種魔法弾はアキラが触れるとなぜかその場で消滅していた。


 マリーの後ろにはマリーを止めるべきかどうしようかとおろおろしているフィオナ、アキラの傍には文字通り床を笑い転げるフィックスがいた。



「どういう状況?」



 廊下に出たリントがつぶやくと、それに気付いたマリーは魔法の乱れ撃ちを中断した。

 怒濤の攻撃の嵐が止み、アキラもふうと一息ついている。



「えーと、プルスターとあの結界をどうするかって話になって、アキラさんがいい考えがあると言ったんですけど……」


「はぁ、はぁ……何がいい考えよ、何の解決にもならない……」



 戸惑いながら言うフィオナと、苛立ちを隠せない様子のマリー。

 やたらと結界を壊したくない様子だったが、アキラは一体どんな案を出したのだろうか。



「はあ………アキラさん、どうしようと思ったんです?」


「え?このまま放置」


「………………はい?」








 当然のように言われた答えは、本当に何の解決にもならない案だった。

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