38話 実験スタート
「僕の役目って………あ、中庭でやろうとしてたことですか?」
「ああ。でも良かったな。もっと後腐れなく実験台に出来る奴が現れた」
「はぁ…………ん?今サンドバッグって言いました?」
「言ってないよ」
失言に内心焦りながらこれからやることのために腕を回したり脚を伸ばしたりしてストレッチを始める。
そうそう、スムーズに進めるためにいくつか確認しなければ。
「なあフィオナ、この世界のポーションって人間じゃなくても効果あるか?」
「え?えぇ……生物なら全てのものに効くはずです」
「よし、じゃあとりあえずこの家にあるやつ何本かくれ。後で何か返す」
「はい、まあいいですけど……回復術なら私が使えますよ?」
「いや、あいつに使うためだよ」
そう言って、結界の内側で情けなく泣いているプルスターを指差す。
「え?敵を回復させるんですか?」
「うん。反応がないと成功してるかどうかわかんないから」
俺の答えに、意味がわからないという顔をしながらもとりあえずポーションを数本取り出すフィオナ。ちなみに、何も無いはずの空間から取り出しているように見えたが、深くは聞かない。よくいうアイテムボックスとかそういう奴だろう。俺には関係ない。
「とりあえずお渡ししますね」
「ああうん、後はその辺に置いといて」
一本だけポーションを受け取って左手に持ち、再度中庭に向かって歩き出す。
何をする気だという目で見られる中、普通に歩いて結界を通過した瞬間、「あ!また!!」とか、「どうなってるの?」とかの声が聞こえてきたが気にせず歩き、泣いてるピエロの目の前に立つ。
「おい」
「うぅ……………はぇっ!?」
俯いて情けなく泣いていたプルスターだったが、呼びかけた瞬間、俺の顔を見て間抜けな顔と声をしながら小さく飛び退き、驚きから上体を無防備に晒す。
声をかける前から右腕を後ろに振りかぶっていた俺は、プルスターが体勢を整える前に、構えていた右の拳を相手の右胸部分に一気に突き出した。
ズンッという鈍い音と右腕に残る殴ったというより力強く押し込んだような感触、そして何より、リアクションもせずにその場に崩れ落ちるプルスターを見て、成功を確信した。
「うん、やっぱ普通に出来るみたいだな。すげえやこれ」
「い、今のは!?」
「あ?」
見ると、リントが結界の外から興味津々な顔でこちらを見ていた。
いや、リントだけじゃない。全員、何が起こったのかわからないという顔でこちらを見ている。なんかこんな顔ばっか見てんな。
「なに?知らない?この技」
「技………?技なんですか?ただ思いっきり殴っただけに見えたんですけど」
「あー………………うん、ただ強く殴るだけの技だよ」
「何ですか今の間!絶対説明するの面倒になって適当に言ってるでしょ!!」
リントが元気に反応するが、特に気にせず持っていたポーションの瓶の蓋を開け、倒れているプルスターにその中身をぶっかける。
「あ、本当に相手に使うんですね……」
「今度は何すんだ?いやさっきのも気になるけど」
「…………というか、アキラが最初にやろうとしたことが何となくわかってきた気がするわ………」
「そうなのか?…………それで、どうしてそんな顔になるんだマリー?」
みんなが色々言ってるのも気にせずに作業を続ける。中身を全部かけた俺は、今度はプルスターの肩を左手で掴み、右手を股間の両足の付け根の間に差し込んで持ち上げる。
すると、ちょうどプルスターが目を覚ました。
「……ハッ!?何だ!?貴様何をした!?というか何をする気だ!?」
目を覚ました瞬間、自分の体がすっかり持ち上げられていることに気付き、しかし状況は理解できずに焦るピエロ。
何らかの魔法で抵抗しようとしたのか、もがきながら「え!?何で!?何で発動しない!?」とか色々喚いている。
「死ぬなよ」
「えっ───」
ボソッと呟いたのが聞こえたのか、反応しかけたプルスターが一瞬で沈黙する。
「があぁぁぁあぁぁあぁあ!!!!?」
そして直後にとてつもない絶叫を上げた。全身を反らせて強張らせながら。
その反応と同時に、思いっきりプルスターの頭を地面に叩きつける。
頭が潰れた音か、それとも首の骨が折れる音か。ぐちゃっ、と耳に残る不快な音をたて、頭部から血を流しながら倒れたプルスター。
武器や魔法も使わず、生身の肉体によって生み出された凄惨な光景。先程まで普通に会話していた五人だったが、叩きつけられる瞬間を見て、皆一様に顔をしかめた。
「あれ、どうしたの。血なんか見慣れてるでしょ?」
青ざめた5人の方へ歩み寄りながら質問する。
世界を救う旅を乗り越えてんだからこの程度の場面なんか何度もあっただろうに。
「いや、あの………ちなみに今のは何をしたんですか?」
「え?持ち上げたときに睾丸握りつぶしてから落としただけだよ」
フィオナからの質問に答えると、リントとフィックスが「ヒェッ…!」と言いながら更に顔を青くした。
そのリントから更なる質問がくる。
「あ、頭から落とすだけでもダメージあるでしょうに、なぜそんな惨いことを……」
ああ、そういえばこいつも頭から落とされた経験者だったな。自分の体験を思い出して余計身震いしているんだろう。
「んー、人間って反射的に頭を守ろうとするだろ?あのまま頭から落としても、反射でなんとか身体を丸めて受け身を取ろうとするのよ。だから、睾丸を潰した時の痛みの反射で上体を仰け反らせて、受け身が取れない状態にして確実に致命傷を与える為の技。まぁ、受け売りなんだけど」
「どうしてこの世界でそんな具体的に凶悪な技を……」
「ていうか、それはもうスキルとかではないよな……」
フィックスも金的攻撃の恐ろしさを想像してかいつもより低めのテンションで言う。
「うん、スキルとかじゃなく必殺技。単純に必ず殺す技ってことね。それより、ポーションもう2本使うぞ」
言いながらまた結界をすり抜け、置いておいたポーションを拾いあげて再び中庭へ。
3回目ともなると結界を自由に出入りしてること自体には皆あまり驚かなくなったようだが、今度は何が起こってそうなっているのかめっちゃ考えている。特にマリー。
「魔力無効化体質………?いや、それだと触れた部分の結界が消えるはず……」とか色々ブツブツと推理している。
「ん?つーか、また回復させんのか?さっきから何の為に?」
ピクピク痙攣しているプルスターに取ってきたポーションをふりかけていると、フィックスが俺の不可解な行動に気付いたようだ。そりゃそうだ。何度も行動不能にさせては回復させてまた攻撃する。どう見ても無意味な行動だろう。
「んー、ちょっとな。色々試しうちを」
答えながらプルスターの背後にまわり、回復して起き上がった背中を思いっきり蹴り飛ばす。また心臓のある位置を。
蹴られたプルスターは喋る暇もなく再び失神して倒れこむ。
またポーションをかけていると、リントが恐る恐る話しかけてきた。
「試しうち………って、まさかアキラさん、僕に頼もうとしてたことって………」
「だから、良かったなって言ったろ?まぁ、俺しか中に入れないからポーションは貰うことになったけど」
「…………その敵が来なかったら、睾丸を潰されてたのは……」
「俺としても味方に技をかけまくるのは心苦しいなーとは思ってたけど、今後の自分の武器は知っておきたいじゃん?敵なら何の気兼ねもなく試せるから俺としても良かったよ」
答えながら、また起き上がったプルスターの両耳にイヤーカップを叩き込み鼓膜を破る。
そのまま両手で耳を掴み、体ごと床に押し倒しながら親指を眼球に押し当て、そのまま押し込む。プルスターの言葉にならない絶叫が響く。
うるさいのでそのまま肘で心臓を叩く。静かになる。
「お、おいリント!?どうした!?しっかりしろ!?」
あれが自分だったらと考えでもしたか、血の気の引いていた顔をもっと青くして倒れている男がいた。
世界最強の先代勇者が、想像だけでダウンしていたのだった。




