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副業勇者(仮)  作者: 安居剛
勇者くん 旅に出ようや
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37話 道化師の涙

「う、嘘だ……ありえない……!完成したばかりの新しい結界で、重い制約と誓約を課したのに……!」



 自分の生み出した結界の中で一人であわあわしてるピエロがそこにいた。



「見て見て奥さん、あの人自分で得意げに説明してた結界に一人で閉じこもってはしゃいでますよ。超面白くない?」


「え、いや……え?あなた、出られたの?普通に?」



 緊張をほぐそうとマリーに和やかに話しかけたが、そんなノリには付き合ってくれなかった。

 それはフィックスとシャーレイも同様だったようで。



「お、おいアキラ、大丈夫なのか?俺にはアイツが嘘の説明をしてるようには思えなかったんだけど……」


「あ、ああ。あのプルスターとやら、あんなふざけた態度だが禍々しい魔力を感じる。本当にこの結界は奴の言う通り凶悪なものなはずだが…………無事、のようだな?」



 三人から本気で心配するような視線を向けられ、説明がめんどくせえなどうしようと思ってたところに、世界最強の家主が今更駆けつけてきた。

 閃光と共に、比喩じゃなくマジで稲妻と化したリントが颯爽登場した。無駄にエフェクトはかっこいいがタイミング的には遅刻である。




「皆さん!大丈夫ですか!?すみません遅くなりました!!」


「本当に遅いよ。最強の勇者(笑)のくせにあっさり自宅に侵入された上に面倒な小細工されてその上遅れててどうすんだよ」


「容赦無いですね!!これでも巧妙に隠蔽されてた魔力をなんとか感知して来たんですよ!」



 この状況でもツッコミをする余裕はあるようで何より。いや実際はそんなことしてる場合じゃないんだろうけど。

 こんなやり取りの間に、少し遅れてフィオナも到着する。これでとりあえず全員集合である。神?知らんあんなの。



「皆さん大丈…………夫みたいですね」



 フィオナもリントに対する信頼からか、割と落ち着いていた。

 俺たちに怪我が無いことを瞬時に理解し、とりあえずは安心と判断したようだ。


 ただ、一旦落ち着いてみると、それはそれで新たな疑問は出てくるものである。危険は無いが事態は全く解決していないのだから。



 リントが状況を見渡す。

 無傷でピンピンしてる俺。そしてその俺を何故か心配そうに見つめる3人。

 続いてリントは中庭への出口に張られた結界に近づく。しばらく結界の一部を見つめた後、何か手をかざして調べるような素振りをして、マリーの方を振り返る。リントに対して首を横に振るマリー。

 フィオナは結界で塞がれた中庭の様子を見ている。その中で一人で頭を抱えているピエロみたいな知らない人を指差してシャーレイの方を向くと、シャーレイは何も言えずといった感じで複雑な顔で返した。





「わかった?」


「わかるわけ無いでしょ!!何ですかこの状況!!?」



 軽いノリでリントに問い掛けたら、思いの外大きい声が返ってきた。最近の若者はキレやすくて困るとはこういうことか。



「なんだよお前でも分かんないのかよ……救世の勇者って思ったより万能じゃないのな」


「一応フォローすると、あなたが訳わかんないだけよ?」



 そうマリーが言い、フィックスとシャーレイがうんうんと頷いたが、とりあえず気にせずに状況を説明することにした。



「まず、四人で普通に中庭に向かってたんよ」


「はい」


「んで、俺が最初に中庭に出た瞬間、結界が発動したのね」


「急展開ですね」


「結界の外の三人が臨戦体制になって、フィックスが結界を斬ろうとしたところ、あのピエロがやめとけと言いながら現れた」


「はあ……なぜ?」


「それがな、あのピエロは魔王の部下、恐らく幹部で、この結界は奴が新しく作り出したオリジナル魔法らしいのよ。そのせいでマリーも解除ができなかった」


「なるほど。じゃあそのままフィックスさんが斬って破壊すればよいのでは?」


「ところがどっこい、奴はこの結界に特殊なルールを設定してあるらしいのよ」


「というと?」


「なんだったかな……『結界の中には二人しか入れない』『中の二人で戦い、勝った片方だが結界から出られる』『外側から破壊した場合中の二人とも死ぬ』……だったっけ?」


「うわ、エグいですね」


「しかも、発動したあいつ自身でも解除はできないらしいのよ。つまり、閉じ込められた二人は戦うしかない。しかもあいつは負けそうになったら自害するつもりで、その場合でも条件を満たしてないので出られなくなると。口ぶりからすると条件を満たさないと発動者が死んでもこの結界は残り続けるみたい」


「絶体絶命じゃないですか」


「うん。だから出てきた。この時点であいつの方が詰んだ」


「…………はい?」


「いやほら、二人が戦って勝たないと出られないって言ったじゃん?だからあいつ、戦う相手がいないからもう自分の結界に閉じ込められてんのよ」


「いや、そこはわかるんですけど」


「じゃあ何?」


「えっと、あいつの罠にかかって、結界内にあいつと二人で閉じ込められたんですよね?」


「うん」


「それでこの結界は、戦って勝たないと出られない上に、外から破壊することもできない、自害されても条件を満たせず閉じ込められてしまうと」


「そうだよ」


「つまり、発動された時点でほぼ詰んでたってことですね?」


「困るよね」


「それでどうしたんですか?」


「うん、だから出てきた」


「一番聞きたい説明が全く無い!!!」



 懇切丁寧に説明してあげてるのにリントが理解を放棄した。ひどい奴だ。



「条件満たせないと出られないんですよね?あいつが新たに生み出した魔法だから解除もままならないんですよね?」


「そうなんだよね?」


「え!?え、ええ……ほぼ不可能じゃないかしら。あいつ、悔しいけどたぶん私より魔法に長けてるわ」



 急に振ったがマリーがちゃんと答えてくれた。



「そしてアキラさんも死んでしまうから外から破壊することもできない、つまり無事に出てくるにはあいつと戦って勝つしかないと」


「その通り」


「そしてアキラさんは?」


「困るから出てきた」


「矛盾!!!!!!!」



 リントがずいぶん元気なリアクションをする。他のみんなも一様に理解できないという顔をしている。

 事実を言っているだけなんだけどな。まあ普通の反応だと思うけど。



「そ、そうだ!!矛盾してるぞ!!!貴様俺の結界に何をした!?」



 元気なリアクションをするのがもう一人。自分の結界に閉じ込められたかわいそうなピエロである。



「何したかって、結界には何もしてないけど」


「そんな訳があるか!!条件は絶対のはずだ!!」


「うん、お前が自信満々に説明してたからそうなんだろうよ。フィックス、斬っちゃう?」


「お?おう、いつでも行けるぜ。アキラはもう結界の外に出てるから大丈夫なんだよな」


「うん」


「わーー!!!やめろやめろ!!やめてくれえ!!!!」



 フィックスが剣を構えた途端、プルスターが情けなくも必死で叫びだした。

 おふざけキャラを忘れてるみたいなのでもうピエロの格好をしてるだけのただの悲しい人である。

 とりあえずフィックスに剣を納めてもらう。



「やめてあげてもいいけどさ、お前状況わかってるわけ?」


「何を……」


「防ぐことのできない新たな魔法を編み出して、入念な準備をしてここに来たんだろ?」


「そ、そうだ…………」


「恐らく、魔王にも大口叩いて、例え自分の命に換えても確実に勇者を殺してくるとか言ったんだろ?あくまで予想だけど」


「う……………」


「たとえ殺せなくても、自分もろともずっと結界に閉じ込めて永遠に動きを封じてやるのも狙ってたんだろ?」


「………………」


「それがどうよ?一度は完璧に俺を閉じ込めることに成功したのに、余裕かまして笑ってたら普通に脱出されてる」


「………………」


「しかも無駄に色々条件つけたせいで、自分で作った結界から出ることもできない。このままだと、得意げに出発したはいいものの、出発したきり成功か失敗かも伝えられず何の情報も無しに音信不通」


「………………ぅ…………」


「あまつさえ、自分でつけた条件を逆に利用されて殺されそうになり、敵に情けなく命乞いまでする始末。これを魔王様や他の幹部が見たらどう思うだろう」


「……………ぅぅっ………………」


「もしこのまま放置されたら、ずっとここに閉じ込められ、でかいこと言って出てったわりに成功か失敗かもわからず、成果を残して称賛されることも、返り討ちにあって罵倒されることもなく、ただただ魔王たちには『なんだったんだアイツ』という無の感情のみが残るだろう。お前はもう、魔王軍の歴史とお前の生涯に何の爪痕も残せないことが俺たちの手によって確定しているんだよ」


「………………うあぁぁぁぁぁ…………!ぅぇぇぇぇぇん…………!」


「泣いてんじゃねえよみっともねえ。ブサイクなピエロのオッサンの泣き顔なんてウジの餌にもなんねえぞ。まだウンコの方が肥料として役立つわ」




 完全に心が折れたのか、無様に泣き出すピエロ。他のみんなはというと、何故かプルスターに同情するかのような顔をしている。



「なんでみんなそんな顔してんの」


「いや、彼も彼なりに自信と使命感を持って乗り込んで来たんだろうと思うと、あまりに不憫というか……」


「なぜお前はそう的確に他人の心を折る言葉を次々考えつくんだ……」


「アキラ、絶対ドSだろ」


「違うよ?風俗だと絶対Sのお姉さん指名するもん。むしろMだよ」


「どさくさに紛れてさらっと何の話してんのよ……」



 皆が微妙な顔をする中、戦わずして完全勝利してしまったこいつの処遇をどうしようか考える。

 そもそもこいつが来なければ本来は………………



「あ、いいこと思い付いた」



 そう。中庭に来たのは本来の目的があったのだ。



「ん?どうしたんですか?」



「喜べリント。お前の役目は無くなったぞ」



「??」




 そうだ。無理にリントに協力してもらう必要は無くなったのだ───。

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