42話 シェフ大室 卵と牛乳スペシャル 前編
材料の確認はとりあえず一通り済んだ。
とりあえず、この世界特有のものっぽいよくわからないものは手を出さないで、わかるものだけで色々作ってみよう。
そして、基本的にはジャスタの持ってきた卵と牛乳をなるべく使う方向で。
まずは、日持ちするようにか知らんがやたらと固いフランスパンっぽいものがあったので、それを半分に割って、片方は更に細かくちぎって鍋に、もう片方はスライスして、卵と牛乳と砂糖を混ぜた液に浸けておく。
ちょうどバニラっぽい香りのするスパイスみたいなのもあったから入れてみる。さっき舐めてみて無味だったからたぶん平気だろう。
細かくちぎって鍋に入れた方には、炒めた干し肉、みじん切りにした同じく炒めた玉ねぎと牛乳、胡椒っぽいスパイスを加えて煮込む。
ちなみにかまどは魔力を込めると火がつくこの世界の便利アイテムらしいが、俺は使えないので非常用に置いてあった枯木と薪を使わせてもらった。火種はライターがあるので楽だった。煙草吸ってて良かった。
次は、スパゲッティに似た麺があったのでお湯を沸かして一本だけ茹でてみた。固めの内に食べてみると予想通りほぼ普通のパスタの味だったので、今度は2、3人分くらい掴んでお湯に投入する。細かい分量は気にしない。
茹でている間に塩漬けになってた肉とアスパラっぽい野菜を細かく切って胡椒っぽいやつで炒め、牛乳を加えておく。
茹であがった麺をそこに加え、軽く混ぜたら火から離して冷ましておく。
少し冷めたら生卵と削ったチーズを混ぜ合わせたものをそこに加え、余熱で卵が固まる前に素早く絡める。これで完成。
こんな調子で他にも何品か、卵と牛乳をこれでもかと使って料理を作ってる途中で、これ朝食にしては多すぎねえ?と思ったあたりでとりあえず調理をやめた。
慣れない設備とよくわからん食材を駆使して準備していたので、スマホを見るとそろそろ日本の一般的な生活リズムの人が起きてくる時間になっていた。
とりあえず煙草に火を付け、裏口から一歩外に出てみると、ついさっきはジャスタしかいなかった街並みに、ちらほらと歩く人の姿が見えた。
いかにも貴族でございますって感じの衣装に身を包み、朝の散歩だったり井戸端会議だったり、意外と庶民的な朝の過ごし方をしているように見える。
(ほんとの貴族ってこんな朝の過ごし方すんのか?……まあ、地球とは別の世界だからその辺の常識はどうでもいいか)
そんなことを考えながらぼーっとヤンキー座りで煙草をふかしていたのだが、なんだか変な感じがする。
………ん?俺、見られてる?俺っていうか、俺の煙草?
気にしてない振りをしながら辺りを見回してみると、やっぱり見られてる。俺が吸ってる煙草を。
なんだ?この世界は煙草がないのか?
「…………何してるの?」
横からの声に顔を向けると、キセルを咥えながら庭を歩いてくるマリーの姿があった。
「おはよう。何って、煙草吸ってるだけだけど?」
「たばこ………って?」
「うっそだろお前。その手に持ってるキセルはなんだよ」
「キセル?って…………これ?………美味しいのよ。文句ある?」
「いや答えになってねえ…………あれ?煙出てねえなそれ?」
「出るわけないでしょそんなの。というかあなたこそ、そんなちっちゃい火をどうする気よ」
「いやだから煙草だって。こうやって……」
俺が煙草を咥えて吸うと、信じられないものを見る目で驚いているマリー。
「なっ……何してんの!?馬鹿なの!?死んじゃうわよ!?」
「いやそんな即死はしねえよ」
オーバーな反応に答えながら煙を吐くと、さっき以上にマリーは驚いた。
「ちょっ、大変じゃない!!口から煙って!?体の中燃えてるんじゃないの!?」
「この前のテレビ電話より反応いいじゃん。ウケる」
「笑い事じゃないわよ!…………え、本当に大丈夫なの?」
「煙草ってのはこういうもんだよ。っていうかお前のそれはマジでなんなの?」
マリーが右手に持つキセル──いや煙草じゃないみたいだからキセル型の何かだけど──が気になる。
聞かれたマリーは無駄に器用に片手でそれをくるくると回しながら答える。
「これは……わかりやすく説明すると、そうね。味のついた空気を吸う道具……かしら。リントが作ってくれたのよ」
「へえ?……蒸気の出ない加熱式たばこみたいなもんか」
「かね……何?」
「俺それの似たようなのも持ってんだよ。ほら」
俺は紙巻たばこと平行して吸ってる加熱式たばこを取り出して見せた。棒のなかに液体が入っていて先端にカプセルを取り付けて吸うタイプの方。
「これもこうやって吸って……こう」
「光っ………はあ!?」
吸うところを見せてやり、わかりやすく多めに蒸気を吐き出してやると、またしてもでかいリアクションをされた。
「さっきから何なのそれ!?体は大丈夫なの!?」
「いや有害だよ。即死はしないけど確実に俺の体に悪影響を与えている。特にさっきの火の方なんか毒性強くて百害あって一利無し」
「毒じゃないそれ!?なんで自分でそんなことしてるの!?」
「ごもっとも過ぎて返す言葉もねえわ」
「じゃあそんなのやめれば良いじゃないの」
「いややめねえ。吸いたいから吸う」
「意味がわからない………」
呆れた様子のマリーはキセルを咥えて一服する。
俺もその隣でヤンキー座りのまま更に紙巻たばこに火を付け一服。
「………ちなみにこれ、直接吸ってる本人より近くに居る人への毒性の方が高いんだよね」
「ちょっと何それ!!やめてよ!?」
マリーのギャーギャーと喚く反応で遊んでいると、配達を終えたらしいジャスタがやってきた。
「あ、おはようございますマリーさん。アキラさんと仲良いんですね」
「おはようジャスタ。これが仲良しに見えるの?」
「お、おかえり。さっき言った通り朝メシできてるよ。食ってけ食ってけ」
「ありがとうございます。まあどうせだったら正直マリーさんの料理が食べたかったですけどね~」
「正直だな。嫌いじゃないぞ」
「待って、話が見えないんだけど」
テンポよくマリーを置き去りにした会話を交わし、ジャスタを裏口から家の中へ入れる。ちなみにジャスタも俺の吸う煙草を見てギョッと驚いていた。
「いやね?配達に来たジャスタとたまたま話してたら、マリー達の料理がまるで最上級のもののように言うもんだからさ。じゃあ俺の料理を食ってみろと。価値観を矯正してやろうとした訳ですよ」
「……あなた本当に素で失礼なこと言うわよね?」
「いや別にお前らが下手とは言ってないよ。決して上手いとも思わないけど」
「そういうところよ!」
またマリーが騒ぎ出したところで、「うわぁっ!!?」とか「何これ!!?」といった声が家の中から聞こえてきた。ジャスタと他の嫁達の声っぽい。
何があったのだろうと、煙草の火を消し家の中へ様子を見に行ってみた。




