36話 詰み
かなり間空いちゃいました。
「魔王の腹心ですって……!?そんな奴が、どうやってここに……!?」
「んん~?そりゃどういう意味の質問かなぁ?」
マリーが驚きと共に問いかけ、プルスターとやらが煽るように問い返す。
敵がいきなり襲ってきたという緊迫の事態にシャーレイとフィックスもマジモード継続中でプルスターを睨んでいる。
俺としては、不意の急襲にしても早すぎるだろ、展開急ぎすぎだろといった感想しか出てこないけど。
しかもコイツの見た目、目のまわりに星やら涙やらの派手なマークの化粧してたり、やたらとカラフルな衣装だし、どう見てもピエロがモチーフなんだよな……この手の敵キャラは強キャラって相場が決まってると思うんだけど、こいつは小物にしか見えん。何でだろう、唐突すぎるからか?
「ああ、そういえばなんかたいそうな結界が張ってあったなあ?解除するのに3秒もかかってしまったよ」
「解除ですって!?しかも3秒って……」
「………なーんちゃって!あのレベルを3秒なんて無茶だって!実際は倍の6秒かかってまーす!!」
「なっ………好き勝手おちょくってくれるわね……!」
マリーが悔しさと怒りで非常に険しい顔になっている。
冷静さを失いかけているマリーを制し、フィックスが一歩前に出て話しかける。
「さっき言ってたやめた方がいいってのはどういうことだ?まさか俺にこの程度のものが斬れないとでも?」
「まあまあ、あんま怒るなよ!あれな……さすがに剣聖ともあれば俺のこんな結界なんてサクッと斬れちまうよ!……問題はそのあとだ。俺の魔法は少々特殊でな」
聞いたことすぐ答えてくれるなこいつ。さてはアホか?
「そこの姉ちゃんの結界解除もそうだが……俺は魔法の解析や新魔法の開発が一番得意でな……その結界も俺の新魔法だ。結界自体の構造も特殊だし、何より俺が編み出した魔法には特別な効果があるんだよ!」
「まだるっこしいな。自慢したけりゃさっさと言えよ」
やだ、本気のフィックスちょっと怖い……眼光が人殺しのそれだよ……
「いいぜ?どうせ知ったって対処できねえからな……俺の魔法の特異さ……それは、『制約と誓約』だ!」
……………は?
「俺は魔法の発動時に、その魔法にルールと縛りを追加で組み込むことで、より強力で特殊な効果のある術を作り出すことに成功した!これはもう、既存の魔法とは全く別物の能力といっていいだろう!」
どっかで聞いたことあんぞ。念能力かよ。
「そしてこの結界に組み込んだルールは『内部には二人までしか入れない』『結界内の二人で戦い、勝者一人のみが結界から出られる』『外部から結界が強引に破壊された場合、内部の二人ともが死ぬ』といったものだ。どうだ?斬らなくてよかっただろう?」
「チッ……なんて野郎だ、イカれてやがる」
フィックスさんがいつになく表情に焦りを覗かせている。まあ、今の条件聞いたらヤバそうだと思うわな。
「そして、発動者であるこの俺ですら内側からの解除も破壊もできない!つまりこの結界の中に入ってしまった時点で、無事に出たければ俺を殺すしかないということさ!あひゃひゃひゃひゃ!!」
得意げに説明するだけして、満足したように小物くさい笑い声が響く。
さて、唐突だが一つ、俺がこれまで繰り広げてきた今までの不本意な戦いの中でひとつ気付いたことがある。
この世界での俺のアドバンテージである非現実的要素の無効化。こう説明すると単純だが、どうやら無効化と一言で言っても種類があるらしい。
というのも、最初にあれ?と思ったのはリントとの決闘の後。思えばあの戦いではリントの攻撃は速くて見えないので全て避けられなかったのだが、あの時、リントの魔法は全てすり抜けるような形で無効化されていた。
そしてその前のリッチとの戦いを思い出すと、バリアはすり抜けたが、最初の攻撃は自分の手で払いのけていた。あの時、払いのけた魔法はそこで消滅したのだ。
全てすり抜ける形での無効化ならば、あそこで何で魔法は消えたんだろう?と思ったのだ。そういえば明確に魔法に対して何らかのイメージをもって対応したのはあの時だけで、それ以外は避けることもしなかったりできなかったりで全て魔法をどうしようという意思はなかった。
そこでひとつの仮説を立て、それをこれから試そうともしていたのだが、とりあえず現時点でわかっていることがひとつある。
長々と説明したが、つまりは特に何も考えなければ、俺は魔法をそのまますり抜けられるのである。
と、言うことは?
「さあどうする勇者よ?出たかったら俺と戦うしかないぜ?まあ、お前すでに相当強いらしいから頑張れば勝てるかもしれないよ?」
「しかし俺の魔法は全てオリジナルの新魔法!既存のスキルや防御魔法は全て打ち砕く!果たして戦闘中に術式を理解して防ぐことができるかな?」
「まあ、万が一できたりして雲行きが怪しくなってきたら俺は大人しく自害するよ。そうすると勝ったことにならないからその場合お前はずっとこの結界内に閉じ込められるんだけどな!うひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!」
「………………」
ご機嫌なマシンガントークが止まらないプルスターを俺は無言で少し見つめたあと、格子で塞がれた出口の方に振り向く。
すると、振り向いた瞬間、3人が本気で申し訳なさそうにこちらを見ているのがわかり歩き出そうとした足が止まってしまった。
「アキラ……ごめんなさい、この結界、複雑過ぎる上に時間が経つと術式がどんどん変わって、私でも解除できそうにないの……強度は大したことないみたいだから壊すのは簡単なんだけど……」
マリーがうつむき気味に謝罪してくる。絞り出すような声からは、自信を打ち砕かれたような悔しさが滲み出ている。
「いや、俺の方こそ謝っても謝りきれねえ。リントの家だからって油断しちまった……いや、言い訳だな。あんな奴の気配に気付けなかったなんて、情けないぜ……」
フィックスも始めて見る沈痛な面持ちで謝罪の言を述べる。
今までで一番テンション低い。当たり前か。
「まさか強度を無視して条件で破壊を封じるとは……すまない、壊すこともできないのでは私も役に立てそうにない……」
シャーレイも謝罪してくる。この謝罪は何回も見て聞いたけど今までで一番心がこもってて申し訳なさそう。当たり前か。
「いや、そんなに謝られたら逆に俺が申し訳なくなるわ。笑ってるあいつが悪いんだからあんま気にしないでよ」
歩き出しを再開し近づきながら三人を励ます。
「しかし!勇者であるお前をこんなところで動けなくしてしま………!?」
「え?」
「え?」
シャーレイが悔しそうに喋り出したが途中で止まる。同時にマリーとフィックスも固まる。
俺が普通に結界を通り抜けて廊下に来たから。
「うん……だからね、あんま謝んなくていいのよ。うん」
「ひゃひゃひゃひゃひゃ…………?……は?…………」
「………………はぁぁぁぁぁぁっ!!??」
少し遅れて、中で大笑いしてた彼もめっちゃ驚いて固まった。
とりあえず笑顔で手を振っといた。
「な、なななななな、どどどどどどうやっ、あれ?結界残ってるよね?あれっ?」
ふざけた態度を忘れて素で驚いてしまっているのが、逆にさっきより滑稽な哀れなピエロがそこにいた。
しかも自分の作った結界のおかげでもう詰んでる。
ここで俺は機知を効かせて笑顔と共にこう言ってやった。
「超ウケる」




