35話 侵入者
「あら、帰ってきたのね」
「まだ旅には出ないんですか?」
リント家の近くの通りで、マリーとフィオナに出くわした。
買い物帰りだったらしく、二人ともそこそこ大きい荷物を抱えている。
「ああ、ただいま。……アキラが、戻って用があるとかでな」
「何?忘れ物になるような荷物も持ってなかったと思うけど……」
「それが……」
マリーの問いに、微妙な顔をしたシャーレイがこちらを見る。
そこには謎の不安から俺に質問責めを続けるリントとそれをいなし続ける俺。
「アキラさん?これから何が起こるんですか?心の準備くらいさせてくださいよ!」
「どーせその時になったら教えるから」
「だからそれだと僕の心の準備が!」
「えー、言っても逃げない?」
「逃げたくなるような事なんですね!?」
「まあまあ、最初の報酬三種類にしてやるから」
「うっ…………!」
ちょろい。ものによっては出費が痛くなるがまあ仕方ない。
嫁トリオがかなり怪しいものを見る目でこちらを睨んでいるが気にしない。
「なー、何やるか知らねーけど面白そうだし俺も見ていいか?」
俺たちのやりとりを横で聞いていたフィックスが聞いてくる。
「面白いかはわからんけどいいよ。ていうかダメって言っても覗くでしょ?」
「よっしゃ!」
小さくガッツポーズするフィックスに続き、シャーレイも聞いてきた。
「なあ、今日は私の番なんだ。私もリントと一緒にいて良いだろう?」
「いや、お前は駄目」
「なんで!?」
「ああそうだ。フィオナにもリントと一緒に手伝って欲しい事あるんだけどいいい?」
「えっ?わ、私はいいですけど……」
「だからなんで!?」
シャーレイが俺の目の前に出てきて訴える。
「なんでフィックス殿とフィオナはよくて私はダメなんだ!?やっぱりまだ怒ってるんだな!?」
「うっさいな。フィックスは邪魔しなさそうだし、フィオナは役目があるからだよ。お前は邪魔しそうだから」
「あら、それだと私は?」
マリーも会話に割り込んでくる。
「うーん……まあ、説明して納得してくれたらいいよ」
「あ、そうなの?」
「何故私にはその条件すら言わない!?」
シャーレイがいよいよ泣きそうな顔である。
「だってお前は絶対納得しないもん」
「一体何をやらせる気なんだ!?見ろ、リントが見たこともない顔ですごい汗を流してるぞ!」
シャーレイの指差した先に、青ざめながらなんとも言えない表情で震えているリントがいた。先程からの会話の流れで余計不安が増したのだろう。
「心配すんなってリント。もしもの事があるといけないからフィオナにもいてもらうんだから」
「なんらかの大怪我をするってことですよね!?」
「いやーそうとも限らんよ。できるかどうかわかんないから」
「可能性はあるって事じゃないですか!」
「まあまあ、俺が今後スムーズに冒険を進めるために必要な事だから。お前の報酬にも直結すると思うよ?」
「なっ………だったら、仕方ないですね……!」
「何がリントをそこまでさせるんだ……」
何回こんな感じのやり取りをしてるかわからんが、リントを落ち着かせたところでちょうど屋敷に着いたのでそのまま中へ入る。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「じゃ、リントにフィオナ。早速始めたいから例の中庭で頼むわ。先に行ってるから心の準備ができたら来てくれ。なるべく早くな」
「心の準備ができない場合は?」
「最初の報酬はお預けにしよう」
「ちくしょう!10分待ってて下さい!!」
リントと軽口を叩き、まっすぐ中庭へ向かう。
急かしといて何だが、俺の方もやりたいことは色々あるので考えを整理しとかなくては。
……と、思ってるのに。
「なーんでついてくるんですかねえ?」
中庭に出る扉の手前で振り返りながら言う。そこには、当然のようについてきた三人の男女がいた。
「いや、フィックスはまあわかるよ?見るって言ってたし」
「おう、だから一緒に来た」
「リントが来るまでは何もないからリントが来るまでは待ってれば良かったのに……で、そっちは……」
「あら、説明を聞いて納得できれば私も見てて良いんでしょ?なのにまだその説明すらされてないんだもの」
「あー、そういえばそっか……」
マリーの言い分はもっともだった。確かに説明すると言っておきながら即忘れてた。
なんとか納得させないと止められかねん。どうしよ?
「………で、お前は?さんざんお前は駄目って言っただろ?」
「せ、せめて!せめてマリーと一緒に説明を聞かせてくれ!どんな内容だろうと、何も知らずにに引き下がる方がよほど我慢ならない!!」
必死の形相で懇願するシャーレイ。コイツは内容を知ったら絶対認めないだろうことは確定的に明らかなので、このしつこさはマジで困る。なんとか諦めて貰えんだろうか?
「ん~……絶対言いたくないな。お前だけには」
「だ・か・ら!!その方が嫌なのだと!!!これほど!!!!」
「まあまあシャーレイ……」
マリーがシャーレイをなだめながら、俺だけに聞こえるように相談を持ち掛けてくる。
「じゃあこうしましょ。私が先に説明を聞くから。リント本人が一応納得しているみたいだし、私は公平な立場で話を聞く。で、私からなんとかシャーレイが納得できるように噛み砕いて説明するわ。それでいいでしょ?」
「何それ、二度手間じゃない?」
「たぶんアキラの説明じゃ端的すぎるし、貴方が説明する時点で彼女はなかなか納得しないわ。同じ妻である私が説明した方が落ち着いて聞けるでしょうし、私も納得させるよう話し方は工夫するわ。口は上手い方なのよ私」
「いきなり下ネタですか?」
「………貴方がそうやって急にフルスロットルで来るのに動じない程度には、冷静に会話する自信もあるわ。よろしい?」
「わかった。任せる。ちなみに今のは試しただけだから。本気で思ってないから」
「はいはい。じゃあ早く説明してちょうだい」
マリーに急かされ中庭に通じる大扉を開ける。
「わかったよ。とりあえず広いところで……」
ガシャン!
「え?」
俺が一人先に中庭に出た瞬間、たった今通った大扉が塞がれた。
なんというか、黒い格子のようなものが数本出現し、とても人が通ることができない程度の隙間しか空いていない。
状況がよくわからず呆けている俺とは対照的に、格子の向こう側にいる三人は瞬時に武器を構え、真剣な顔つきになり警戒している。
「何これ!?こんな術式知らないわよ!?」
「マリーでも理解できないのか!?……一体誰の仕業だ!?」
「俺もこんなの見たことねえな……斬れないことは無さそうだが……」
「テンション上がってるとこごめん、説明して?」
三人の気迫についていけないまま質問する。理解できないだけの俺の様子に、マリーが焦りを浮かべながら答える。
「こんな仕掛けは覚えがないし、私でもこんな封印術見たことない……何者かが侵入したってことよ!!」
「みんな一瞬でわかるの?すげえな」
ボケッとした反応をする俺にシャーレイが額に汗を浮かべながら言う。
「呑気にしている場合ではないぞ!この家にはリントとマリーが協力して、並大抵の者では敵意を持って入ることはできない特殊な結界が張ってあるんだ!そして結界が破られた様子はなかった……敵は、魔法を極めた二人の張った結界を好きなように無効化できる、相当の手練れだ!!」
「すげえ無駄にわかりやすいな。あざっす」
「少しは緊張感を持て!!」
いつもと変わらぬ俺の様子にシャーレイが普段通りのノリでツッコミを入れたところで、普段とはガラリと変わってマジモードの剣聖が呟く。
「マリー、解除はできそうにないのか?」
「できないとは言わないけど、初めて見る魔法だから解析に時間がかかると思うわ……」
「よし。……じゃあ、斬っちまったほうが早いな」
「おぉっとぉ!?せっかちだなあ剣聖フィックス。悪いことは言わないからやめておいた方がいいぞお?」
「ッ!!─誰だッ!?」
フィックスが剣を構える手に力を込めた瞬間、中庭の上の方から声が響いた。
シャーレイがとっさに問うた視線の先、空中に足を組んで座ったような姿勢で浮遊する一人の男がいた。
「俺が誰かって?聞かれたら答えない訳にはいかないなあ?」
男は足を組んだ姿勢のままゆっくりと高度を下げ、名乗った。
「俺の名はプルスター。世界を統べるべくお出でになった、魔王様の腹心が一人よ!!」
……………登場、早くね?




