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副業勇者(仮)  作者: 安居剛
勇者くん 旅に出ようや
31/44

30話 男の戦い(醜)

 冷静に、状況を整理しよう。



 俺は少し離れたトイレに向かって歩き出した。

 確かに近づくにつれなぜか人通りが少なくなり、ついに付近には通行人が一人もいなくなった。

 そういえば、人のいなくなったあたりの床に、何やら青く光るラインが一本引いてあった。

 特に気にもせずそのままトイレに近づいて行くと、入り口手前で、二人の女の子がいかにもな男たち数人に絡まれているところに遭遇した。



 話を聞く限り、女の子たちは無理矢理言い寄られているようだ。そして、あのラインが奴らの言う結界だったのだろう。

 他の人は結界の効果によってここのトイレに来なくなり、俺に対しては結界が意味を為さないので素通りしてこの現場を目撃してしまった。

 つまり、あの結界に気付き、引き返して別のトイレに向かっていればこの状況は回避できたはずだ。




「……………………気付かねえよあんなの!」


「誰だっ!?」


「てめえ、どうやって来た!?」


「えっ?あ、徒歩だけど?」



 やべ。

 思わず漏れた心からの言葉が大きくて、奴らが一斉に俺に気付いた。

 女の子たちも俺に気付き、一瞬躊躇するような素振りをしたが、片方が咄嗟に叫んだ。



「あのっ!助けてください!!」



 すがるような眼差しで俺に呼び掛けたが、その子は男の一人にすかさず腕を取られ、捕まえられてしまった。



「やっ──!」


「オイオイ、ちょっと静かにしててくれよ」


「なんでここに来れたか知らねえが、あいつは一人だけだ。黙っててもらえば問題ねえ」


「あっ………!」



 もう一人の子も別の男に取り押さえられる。そっちの子は、口を塞ぐまでもなく恐怖で声も出せなくなってしまったようだ。

 そして、残りの男たちが俺に近付き取り囲む。



「おうあんた、さっきの笑えねえ冗談は聞かなかったことにしてやる。何も見なかった事にしてすぐ帰るなら、無傷で帰してやるぜ」


「もっとも、保険の為に有り金と身分証は置いてってもらうがよ?」



 身勝手な要求だけ言って、俺を囲む男たちはゲラゲラ笑い出した。

 ………人数は前と左右に1人ずつで3人。武器の類いは出していない。背は俺と同じくらい。筋肉は……見た目の時点で俺以下。

 さて、これはどうするのがいいんかな………

 とりあえず変な駆け引きなどせず普通に会話することから始めてみよう。



「金は持ってないし、身分証も持ってないんだけど」


「はあ?てめえ、金持ってないのにモールに来るわけないだろうが!」



 すいません、勇者とSランク冒険者に金出してもらってるんで。



「しかも身分証なしって………ただの市民のクセに、あの結界を攻略できてしかもわざわざ入ってきたってのか?」



 すいません、気付かなかったです。



「結界があるのにただの市民がここまで来れる訳ねえだろ!デタラメ言いやがって……嘗めてんのか?」


「いやあ……なんででしょうね?」


「話にならねえな……おい、面倒だからやっちまおうぜ」



 男の一人が合図をすると、俺を囲む3人は各々構えた。どうやら全員武器の類いは持っていないようだ。



「待って待って、話せばわかる。俺トイレ行きたかっただけだから」


「テメエ……さっきからヘラヘラしてんじゃねえぞ!」



 そう言いながら、正面の男が殴りかかってきた。なんかこの光景つい最近見た気がする。

 とりあえずパンチを手で払いのける。予想通り、小さい子どもが殴りかかってきたくらいの手応え。



「危ないって。別に邪魔しようと思って来たわけじゃないんだから」



 実際そうなのだが、これを言った瞬間、女の子たちが「えっ……?」て言いながら顔を青くするのがチラッと見えた。



「なっ……!?て、テメエ、まぐれでいい気になってんじゃねえぞ!」



 軽く払われたことに驚きながらも、嘗められまいと再び男が襲いかかってくる。

 今度はボディーブローを打ってこようとしたので、リントの時と同じように咄嗟に腹筋に力を込める。

 ボスッと鈍い音を立てて男の拳が俺の腹部に突き刺さる。

 が、全然痛くない。リントの半分も威力が無い気がした。



「へへっ……素直にやられとけ………ってあれ?」


「だからやめろって」


「な、なんだお前!?完全に腹に入ったのに!?」



 いいのが決まったと思ったのにノーダメージなので混乱しているようだ。



「今のも見逃すからさ、平和的に……」


「あ、危ないっ!」


「え?」



 女の子の声がしたと思ったら、視界が一気に真横を向いた。

 一瞬遅れて頬に軽い痛み。そしてその拍子に吹き出た自分の唾が少し赤くなっている。

 どうやら横から顔を殴られ口の中を切ったようだ。さすがに不意打ちで顔面をやられると少し痛い。



「調子乗ってんなよバカが……殺されてえのか?」



 殴った奴は随分怒ってらっしゃるようで。しかしここでこちらも怒ってしまっては平和的な解決などできない。幸いあまり痛くないので実際怒りも沸いてこないし。

 ここは相手の機嫌をこれ以上悪くしないよう配慮しつつも、俺を攻撃することが無駄であるとアピールできるような余裕のある返しをしなければ。



「何とか言ってみろコラァ!!」


「お前の……」


「あぁ!?」


「お前のパンチを食らって倒れなかったのは……俺が初めてだぜ!」


「………………………は?」




 あ、このシチュエーションに合ってると思ってついこのセリフ出ちゃった。

 殴った男も、周りの男も、捕まってる女の子たちでさえポカンとしている。

 俺も言ってみてからあれ何言ってんだろうと不思議になった。

 まあ戦意を逸らすという意味ではピッタリのセクシーコマンドーな筈だけど……



「………やっぱり嘗めてんだろテメエ!!ブッ殺してやる!!」


「覚悟しろコラァ!!」



 やべえやっぱりおキレになった。

 3人が一斉に殴りかかってきたので慌てて頭をガードし腹筋に力を入れる。なんかこれしかやってねえな。

 まあ避けられなさそうなので仕方ない。

 身体中を叩かれながらも説得を続ける。



「だからやめろって!効いてないから!意味ないから!」


「守るしかできねえ癖に何言ってやがる!」


「無駄に耐えやがって、ゴリラかテメエは!!」


「褒めたって何もやらんぞ!」


「褒めてねえよ!!」



 事情を知らない人が見たらじゃれてるだけにしか見えないようなやりとりをしながらチンピラ3人のラッシュを耐え続ける。

 小さい子どもに叩かれ続けてるだけみたいなものなのでほぼノーダメージ。すると当然、段々チンピラどもの方が疲れを見せ始めた。



「クッソ……マジで何なんだよお前……」


「いいストレス解消になっただろ?だからいい加減諦めてくれよ」


「ッざけんな!」



 男の一人が放った蹴りが俺のズボンのポケットの部分に当たり、その拍子にポケットに入れていたスマホが飛び出した。



「あっ」



 カラカラ音を立てて転がっていったスマホが、女の子を捕まえている男の足元で止まった。

 男が拾い上げる。



「ん?何だこりゃ?」


「ちょ、やめろ!弄んな!」



 思わず焦った様子を見せてしまったのが良くなかったのか、男はニヤリと笑って、スマホを後ろに放り投げた。



「おああああ!!」


「何だか知らねえが、よっぽど大事なもんらしんぐぅっ!!?」


「きゃあっ!」


 気がつくと俺はスマホを投げた男にラリアットをかましていた。



「何てことしやがる!!」



 男が女の子もろとも倒れたようだがそんなものは気にせず、俺は自分の携帯に駆け寄る。そこには無惨に画面にヒビが入ったスマホの姿が!



「………クソっ、急に何だってんだよ……」



 この悲劇を起こした元凶が間抜け面で起き上がろうとしているのを見て、俺はすかさずその顔にサッカーボールキックで追い打ちをかける。

 男は「あぶぅっ」とか言いながら勢いよく倒れ、再起不能となった。



 他のチンピラどもは急に態度を変えた俺を呆然と眺め、女の子たちは何が起こったのかと目をぱちくりさせている。

 しかし、そんなことはどうでもいい。次のセーブまで帰れない間、現実とつながる貴重な手段であるスマホが、そして通話に関しては唯一の頼りであったスマホが、この馬鹿どもに傷つけられた。

 こんなヒビじゃ画面が見辛くてしょうがない。せっかくなるべく充電を節約して過ごしていたのに………

 帰ったら買い替えになる。その為に現実の金で余計な費用もかかる……


 俺の怒りは、ほぼそこに集約されていた。最近は0円携帯なんて見なくなり、本体の代金だけで6~8万円なんてのがザラである。

 こいつらのせいで、最低でも6万円の出費が確定してしまった。

 修理すればいい?3年前の機種をわざわざ修理するくらいなら買い替えるわ。


 そんな冷静に考えるとわりとガバガバな感じのする怒りによって、俺はこのチンピラどもを全員叩きのめす方向に切り替えた。




「お、おい……カールス……?死んでねえよな……?」



 チンピラは俺が蹴飛ばし倒れた男を心配している。カールスって名前なのかそいつ。どうでもいいけど。

 さすがに命を奪う気はないのでそこは大丈夫。せいぜい鼻が折れたくらいだろう。



「そんなことより言うべきことがあるだろうが」


「ああ?そんなことだあ?」



 俺の催促に反発するように聞き返すチンピラによく見えるように、、変わり果てたスマホを突き出す。




「携帯壊してごめんなさいだろうがあああ!!」


「知るかボケェェェ!!よくもカールスをぉぉぉぉ!!」








 平和的な解決の可能性など微塵も無くなり、大の大人同士の醜い争いの火蓋が切って落とされた。







 捕まえていた男も怒りで役目を忘れて戦いに飛び込んでいったため、あっさり解放された二人の女の子は、展開についていけず傍らでただその争いを眺めているのだった。


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