29話 教会へ行くも
「へ?いや、イオンじゃなくてリーラモールと……」
「あー、いや、気にすんな。こっちの話だ」
つい大声でツッコんでしまったのでシャーレイが小首を傾げて不思議そうにしている。
確かに話している本人からすれば変な説明をしたつもりはないはず。
いや、内容も別にこの世界の人にとっては「すごい施設だなあ」で済むようなものだろう。
しかし、やはりどう考えてもこれはアレだろう。
「……リント、さっき答えに困ってたのは、わからなかった訳じゃないな?」
「はい……僕も最初にここを見たときは全く同じ感想を持ちました」
「ってことは、お前が教えたわけじゃない」
「はい。………もしかしたら偶然、本当にただの偶然で建設や運営に関わる方がこういう形態を思い付いただけかとも思ったんですけど……」
「………けど?」
「どうやらリーラ様、勇者をスカウトするために僕達の世界を探し回っていた際に、日本のショッピングモールにドハマりしたらしく……」
「そう………」
リーラ様のイメージが一気に安っぽくなってしまった。
いや、でもそんな庶民的な神様がいてもいいじゃない、うん。直接会ってみるまではまだどんな方かわからん。まだ大丈夫。たぶん。
「何かまずいのか?」
「いや、そうじゃない。そうじゃないけど……うまく説明できない」
シャーレイの疑問に何とも言えない解答をする。
うん、別に悪いことじゃないし……あまり深く考えないようにしよう。
微妙な気分になっていたところ、ルシャナが目の前の巨大な神殿を見てこれまた何とも言えない嫌そうな顔になっていた。
「なーアキラ、さっきからルシャナが変な顔してんだけど」
「ん?どうしたお前。唯一の良さである顔まで崩れてたら救いようがないぞ」
フィックスに言われてアホ面のアホに声をかけると、普段のバカっぽい言動と違い何とももやもやした様子だった。
「いや、ね………ここにアレがいて、今から会いに行くと思うとね……」
「アレ?」
「………リーラはなんというか……疲れるんだよね……」
お前が言うなと言ってやりたかったが、見てると本気で嫌がっている様子。
何があったのか知らんが、これは相当苦手なようだ。
良かった。それだけでも仲良くなれる気がする。
「そうか……でも俺はお前のそんな顔が見られて嬉しいよ」
「なんでそこでそんな爽やかに笑えるの……」
一通り外観にツッコんだところで、とりあえず中に入ってみる事にした。
中を見渡すと、一階は内部に一本の大きい通路が通っており、通路に面して様々な専門店が並んでいる。
通路を進んだ先の区画は、開けたスペースになっていて、食料などが売られているようだ。
上部は吹き抜けになっており、通路の所々にある階段から上階に上がれるようになっていて、他の階も同じように通路に面して色々な店が並んでいるようだった。
「構造まで完全にそれだ……」
「はい、商品の文明レベル以外は完全にアレです」
もやもやを通り越して安心感すら感じる俺とリント。
あまりにも再現しすぎていて一回りしたくなったが、先に教会に行ってからにしよう。
シャーレイによると、教会スペースは食料品エリアの反対側のはじっこらしい。
専門店を軽く眺めながら通路を進み、リントを先頭に教会へと足を踏み入れた。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「これはリント様にシャーレイ様、ようこそおいでくださいました」
教会に入ると、青みがかった黒の質素な法衣にスキンヘッドの壮年の男性が穏やかに出迎えた。
「こんにちは。奥の部屋を貸していただきたいのですが、よろしいですか?」
「ええと……リント様やシャーレイ様はもちろん構いませんが、そちらの方々は……?」
リントが挨拶と共に簡潔に用件を言うと、男性は俺とフィックスとルシャナを見て問い返した。
「あぁ、アードックさんはフィックスさんと会うのは初めてでしたね」
「フィックス……というと、あなたが剣聖、フィックス=フィリップスですか!?」
「剣聖でフィックスっつーと、まあ俺だろうな。初めまして牧師さん」
「これはこれは、お会いできて光栄です!申し遅れました、私、こちらのリーラモール教会で牧師を勤めておりますアードックと申します!」
目の前のフィックスが剣聖であることを知ると、穏やかだったアードックさんは急に若返ったようにはしゃぎ出した。
ずいぶん元気な牧師さんだな。
「アードックさんは聖職者ですけど強い人の戦闘を見たりするのが大の趣味で、高ランク冒険者なんか見るとすごく興奮するんですよ」
「関取を見る相撲ファンみたいな?」
「まあ、そんな感じです」
リントの解説を自分なりに例えて理解すると、興奮もそこそこにアードックさんは今度は俺とルシャナの方にに興味を持ったようだ。
「では、そちらの方々も名のあるお方でしょうか?」
「あー、いや俺は……」
「聞いて驚け!何を隠そうこの僕は救世─」
「」
「すいません、何でもないです」
また考えなしに気軽に名乗ろうとしたルシャナを睨んで黙らせ、少し考える。
リントもいるから嘘だとは思われないだろうし、名乗れば楽なんだろうけど……
「んー、アードックさんなら大丈夫だと思いますよ。口も固いですし、僕が説明すれば」
「ん~………目的が目的だし、ここは言っといた方が話が早いか………おい、喋っていいぞ」
「え、いいの?そういうことなら……僕はリーラの次に世界を救うため今回降臨した救世神のルシャナ!!そして、彼は僕と契約した勇者のアキラくんです!!」
「なんか、そういうことになってます」
「へ…………?」
ルシャナが名乗ると、アードックさんは目を見開いたまま口をパクパクさせて喋らなくなってしまった。
すかさずリントが補足する。
「僕の時からあまり間が空いてないですけど、アキラさんは僕と同じ世界の出身ですし、現に新たな魔王も生まれています。間違いなく本物ですよ」
補足を聞いて、アードックさんは先ほどの状態のままよろけるように2、3歩後ずさり、ぷるぷると震えたあとおもむろに声をあげた。
「す………素晴らしい!!まさか、生きているうちに二人もの勇者に出会えるとは!!私は……いや、今の時代を生きるものはなんという幸運なのだ!!リーラ様、ルシャナ様………ありがとうございます!!!」
めっちゃあっさり信じた。勇者の言葉の説得力すげえ。
アードックさんは両手を握り合わせてルシャナの前にひざまずき、ルシャナはドヤ顔でふんぞり返っている。
「名乗った方が言うのもなんだけど、目の前の人が神様ですって言われていきなり信じるか……?」
「あ~……僕の、というか勇者の能力の一つに、言ったことを信じてもらいやすいってのもありまして……」
元々そういう話が好きな人でもありますしね、とリント。便利だなあこの世界の勇者って。
俺はその権利を放棄した訳だが。
「感動してるところ悪いけど、用件に戻っていいっすか?」
「はっ、これは失礼しましたアキラ様!奥の部屋をということですね。ちなみに何をなさるのかお聞きしても?」
「はい。実は──」
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
リーラ様と話がしたいということをリントが簡単に説明したところ、それはもちろん大丈夫だが、今の時間は無理だという解答だった。
なんでも、理由はわからないが、リーラ様はこの時間は何者が自分と会いに訪ねて来ようと後回しにしろ、ときつく命じているらしい。
契約していた勇者であるリントはもしかしたら例外なのかもしれないが、そのケースを確認していなかったためできれば言われた時間が過ぎてからにしてほしいとの事。
………その話しぶりだと普段は普通に教会に神様居るのかよ。リントの話と違ってねえ?
ともかく、大急ぎで会わなければならないという訳でもないため、イオ……リーラモールで時間を潰すことにした。
フィックスが腹が減ったと呟き、言われてみれば丁度昼飯時だったため、フードコート的な所で軽く食事をとることに。
「……ホント、このフードコートの雰囲気とかもモロだな」
「そうですね。この世界でできる限りでかなり再現されてますね」
「やっぱりヴィレヴァン的な店も?」
「ありますね。少しの書籍と、大量の雑貨が置いてある店が」
「そんなとこまで忠実に………」
リントと荷物番をしながらイオントークをしていると、フィックスとシャーレイが注文を済ませて店から戻ってくるのが見えた。何やら番号札的なものを持っている。このシステムまでそのままかよ。
「ま、いいや……じゃあ俺トイレ行ってついでに注文してくるわ」
「少し遠いんで気をつけてくださいね」
「おう、まあ大丈夫だろ。たぶん。」
リントにそう告げて、俺は席を後に立つ。
混雑時に席を探したためトイレから遠い席しか空いてなく、また文明レベル的にトイレを何ヵ所も作るのは厳しかったようで、一番近いトイレでも結構離れた位置にあった。
と言ってもただ行って用を済ませて戻るだけだ。別に何も起こりようがないだろう。
と、思ったのに…………
「へへ………嬢ちゃん達、女の子だけじゃつまんねえだろ?俺達と遊ぼうぜ?」
「俺達がエスコートしてやるぜえ?ひひひ……」
「や、やめてください……」
「ちょっと、離してよ!大声出すわよ!」
「無駄無駄!ここのトイレまでの道は人避けの結界を張った。いくら待っても、俺達の仲間しか来ないぜ」
「高かったもんなぁ、あの使い捨て結界。あんたらで元は取らせてもらうぜ……?けけけ………」
「そ、そんな……」
………俺も、テンプレからは逃げられないみたい。




