23話 VS女騎士
さて、フィックスに押されるがまま、中庭に着いてしまった。
何でだ。何故こうも予想外の展開になってしまう?
前回もこんなこと考えてた気がするが、あの反省は生かせなかったか……
くそう、日本での俺ならこんなことにはならず、大体どんな相手でも初対面である程度仲良くなれていたのに……
やはり異世界の人間は考え方が根本的におかしいのか?それともたまたま俺が変人とばっか遭遇してるだけか?
とにかく、これは大変まずい状況だぞ。相手は明らかに武器として剣を腰に差しているし、さっき魔法が効かなかったから、剣を使ってくる可能性が非常に高い。
色恋沙汰で怒っていて刃物を持っている女と対決とか、日本であったら怖すぎるシチュエーションじゃねえか。
ひとつミスったら余裕で死ねる。
「アキラ、あんたさすがにリントの時みたいなことはしないでよね」
「女の子相手にあんな絞め方とか投げ方とかしちゃダメですよ」
マリーとフィオナがそう釘を刺してくる。
いや、あのとき戦う気無かったし、武器がわかってるからどっちかというと今回の方がヤバいんだけど。
「いやー、『煌刃』とアキラの決闘が見られるなんてなー。アキラ、また面白いの頼むぜ?」
「いや、この状況に頭ついてってないから。あと煌刃って何?」
「ああ。シャーレイの二つ名だよ。俺が剣聖って言われてるみたいなもんだ。」
「へー……そういうのが有るってことはやっぱり?」
「ああ、相当強いか、相当な有名人かだ。あいつの場合は両方だけど」
まあ、そんな感じですよね。
やべーな、二つ名の雰囲気的にやっぱり剣使ってきそう。
どうやって避けるか考えなきゃ。いっそ開始と同時に降参するか?
いや、ダメだな。前回の目撃者ばっかりだから、降参したらやる気が無くて終わらせたいだけだと思われて却下されそうだな。いや実際そう思ってるんだけど。
「んじゃ、二人とも死なない程度に楽しくな!始め!」
「えっちょっ」
色々考えてたらフィックスが勝手に開始の合図をしてしまった。
「最初から本気でいかせてもらうぞ!」
と言って、シャーレイが腰に差した剣の柄に手をかける。
やっぱり剣使う気だ!どうしよう殺される!
……と思ってシャーレイが剣を抜くのを見ていると、彼女が抜いた剣には、鍔の部分から先が──つまり、刀身が無かった。
「………え?ドッキリ?」
「何を言うか。本気だと言っただろう。………スパークルソード!」
シャーレイがそう唱えると、刀身の無かった部分が眩く輝き出し、光の刀身のようなものが現れた。
「さあ構えろ、お前にも武器を装備する時間くらい与えてやろう。」
なんだか優しいことを言ってるが、俺はあのキラキラと輝く剣を見て悪い予感というか逆に安心感というか、なんとも複雑な気分になっていた。
念のため聞いてみる。
「……………その剣は魔法?」
「知りたいか?そうだ。私の光魔法のエネルギーを剣の形に押し留めた、言わば自分で創り出した魔剣だ!」
「あれが有名になって『煌刃』の二つ名がついたんだよなー」
フィックスが捕捉する。なるほど分かりやすい。
でも、それがメインウエポンってことは……
「…………普通の剣は使わないのね?」
「ふん、甘く見るなよ。そこらの武器屋の最高級品なんかよりはよっぽど斬れるぞ」
「……………そっすか」
なんでこう……変に俺の運がいいのか、彼らに運が無いのか知らんが……
殺されかけるよりはよっぽどいいんだけどさ……
普通の剣は怖いから嫌だけど、ただの決闘なんだからせめてその辺の棒とかだったらいい感じに負けられそうなのに……
「じゃあそれでいいや……どうぞ」
「ん?武器は使わないのか?」
「うん、つーか持ってないし」
「闘い方までリントの真似か……調子に乗るなよ!」
そう言うと、シャーレイは一気に距離を詰めてきた。瞬間移動にしか見えなかったリント程ではないが、凄まじいスピードだ。
「隙だらけだっ!!」
シャーレイが一瞬で俺の目の前まで来て、光の剣を横薙ぎに振るう。
もちろん目で追うのがやっとなので避けられない。
でもその剣だと……
ヒュッ!
「……………」
「な、何っ!?」
剣を振るったシャーレイは、慌てて距離を取って手元と光の剣と俺を交互に何度も見ていた。俺が避けた様子も防御した様子も無かったのに、何も手応えがなく戸惑っているのだろう。
「いや、避けたようには……こ、これならどうだ!!」
そう言うと、離れた位置からシャーレイは先程と同じように剣を横薙ぎに振るった。
違うのは、振るった瞬間途端、刀身となる光が、俺に届く長さまで一気に伸びたこと。
しかしそれでも、魔法でできた刀身は俺の体を素通りする。
すり抜けてしまうせいで防御したふりもできないのがつらい。どっちみち速すぎて反応できないんだけど。
「じゃ、じゃあこれなら!どうだ!!」
続けて、離れたままの位置からシャーレイが流れるような動きで腕を様々な方向に振り回す。
すると、光の刀身は伸びたり曲がったりねじれたりと、多種多様な変化をしながら無数に俺に襲いかかる。
「………まぶしい………」
しかし、俺が思ったのはそんな感想だった。だって、いくら迫ってきても当たらないんだもん。
俺からしたら前方のいろんな角度から光が差し込んできてるってだけだ。サングラスが欲しくなる。
「さて……どうやって決着にするか……」
とりあえず今のうちに決闘を終わらせてしまおうと、俺はシャーレイに向かって歩き出す。
走らない理由は、余裕なふりを見せるためと、あんまり足速くなくて格好悪いから。
「な、何故だ……何故効かない?」
シャーレイは、後ずさりながら光の剣による変幻自在の攻撃を続けていたが、全て俺に効いていないのを見てだいぶ焦っている。
そして俺は、シャーレイの後退よりも早く前進し、残り2メートルの辺りまで近付いた。
「く、くそっ……ミラーウォール!!」
シャーレイがそう唱えると、俺の目の前に光の壁が出現する。
「おおっ」
若干驚きつつ、その壁を普通に歩いて通り抜ける。
「だからなんで!?」
その様子を見たシャーレイが俺の何倍も驚く。
最初に会った時の拘束魔法より分かりやすくすり抜けたから仕方ないだろう。
そうこうしている内に、シャーレイの目の前まで来てしまった。
「………一応聞くけど、続ける?」
俺がそう聞くと、予想通りの答えが返ってきた。
「愚問を……諦めるものかっ!!」
「了解」
「あっ」
予想通りの答えと同時に光の剣で切りかかろうとしてきたので、その前に剣を持つ手の手首を左手で掴んで止めた。
そしてその手にある剣の柄を右手で奪い取る。
俺が奪い取った途端、光の刀身は霧散した。
「か、返せっ!」
「後でな。…ほいフィックス、パス!」
「おう?」
フィックスのいるところに剣の柄を放り投げ、フィックスがそれをキャッチする。
「さて……続ける?」
「ば、馬鹿を言うな………なんだこの手!離れない!!」
シャーレイは、自分の手首を掴む俺の左手を振りほどこうと、手を引っ張ったり振ったりしていたが、数分経つと次第に涙目になっていた。
「う………うぅ………なんでぇ……なんでほどけないのぉ……」
そんな感じになり力も弱くなりながらも、シャーレイは必死に俺の手を引き剥がそうと動き続ける。
なんだか嫌な予感がしてマリーとフィオナの方を見ると、二人とも「まあ仕方ないか…」といった感じの顔をしていた。
よし、この程度ならセーフらしい。じゃあこのまま心を折りにかかろう。
「あー………そろそろ左手キツくなってきたな……」
わざと聞こえるように呟くと、シャーレイの目に少しやる気が戻り、弱くなっていた抵抗が若干元気を取り戻した。そのタイミングですかさず
「利き手に変えよう」
と呟き、右手で掴み直した。するとあら不思議、僅かなやる気が復活した瞳から光が消え、弱々しくも抵抗を続けていた腕から、嘘のように力が抜けていった。
「……………続ける?」
「やめます……………」
「はーい、勝者アキラ~~~!」
フィックスの声で、意味の無い決闘に決着がついた。




