22話 3号怒る
「あとは……そうだな。この世界に似たようなものがあるかどうか知らんけど……たまには、あっちにしかなかった味が食べたくないか?」
「………!………それはつまり………」
「インスタントにファストフードに市販のお菓子………ジャンクフードは久々に食うと超美味いよなあ?」
「そ、それもいいんですか………!?」
やっぱり、趣味と好きな食べ物は恋しいよなあ。釣れた釣れた。
ちょくちょく帰れることがこのように役に立つとは。いや、元はといえばそれのせいで困ってるんだけども。
「うぅ………続きが気になるのが多すぎる……あとカップ麺も久しぶりに食べたい……」
「ちょっとアキラ!何の話だかわからないけど、リントに変なこと吹き込むのやめてく──」
「変なこととはなんだ!!こっちは真剣に悩んでるんだ!!!」
マリーに文句を言われたが、気にせず受け流す答えを言おうとしたところ、俺の言葉より先にリントの怒号が響いた。
「え?ご、ごめんなさい………」
まさかリントに反論されるとは思わなかったのだろう、とんでもないことをしてしまったのではというような不安そうな顔でマリーは萎縮してしまった。
「……あ、ご、ごめんマリー!つい夢中で考え込んじゃって……思わず口走っただけだから!別にそこまで怒ってないから!」
「……ほんと?」
すぐに正気に戻ったリントに謝られ、マリーは今までの立ち振舞いが嘘のように涙目でリントを見つめる。可愛いなおい。
これがギャップ萌えなんだろうか。俺の位置からはちゃんとは顔が見られないのが悔やまれる。見えたところで、ただ見えるだけなんだけど。
「う、うん……大丈夫、大丈夫………ただ、ちょっと一人でじっくり考えさせて……」
マリーの頭を撫でながらそう言うと、リントは手を離して深刻な顔で自室へと歩いていった。
嫁たちはその様子を見てとても不思議そうにしていた。何でだろう。
「あ、あれ?リント……?」
「行っちゃった……」
「おかしい……いつものリントなら、ああいう状況になったらしばらく個室で二人きりになって慰め、そのままベッドへ行き──」
「あー聞きたくねえ、それ以上やめてくれ」
俺にとっては単なる胸糞話だった。四人とも爆発しろ。
「なあ、あんな悩み方するリント初めて見たんだけど、何の話だったんだ?」
フィックスが今の話に興味を持ったようだった。
「ん?……フィックスは俺と一緒に旅してくれるんだろ?」
「ああ、その方が面白そうだからな」
「じゃあ、フィックスにも旅の中でそのうち教えてやるよ。まぁ一回帰らなきゃだけど……俺もリントも好きなもののはずだから、多分面白いぞ」
「マジか、楽しみにしてるぜ!」
のめり込み過ぎると人生崩壊するけどな!
あの様子だとリントも相当好きだった口だろう。有効なカードの切り方をするためにも、好みの方向性も後で探らないとな……
「アキラさん、何を言ったんですか?あれくらいでリントが声を荒げるなんて……」
今度はフィオナが俺に聞いてきた。
フィオナだけじゃなく、3人とも何があったか教えろという顔でこちらを見ている。
「んー?………フィオナ、お前読書とか、あとは舞台とか……そういうの好きか?」
「え?ええ、まあ……歌劇はよく見ますけど……」
「マリーは?」
「私は……昔のおとぎ話なんかに実は未発見の魔法のヒントがあったりするから、そういうのは好きだけど……」
「3号は?」
「シャーレイだ!………私も、英雄譚の物語なんかは好んで読んだりするが……」
「よし、全員素質はありそうだな。うん、俺が特別にいい感じのを見繕ってやろう」
「いや、質問の答えになってませんけど!?」
フィオナに怒られた。
「えー……でも、口で言ったって絶対伝わらないし、実際見ないとわかんねーよ」
「説明くらいしてもいいだろう……」
シャーレイが呆れている。そういえば、俺はコイツに一言言ってやらねばだった。
「というか、何か俺に言うことないのか?」
「え?な、なんだいきなり?」
「落ち込んでいる俺に、初対面でいきなり魔法を撃ってきただろ。失礼にも程がある!」
指摘されて、少しポカンとしたあと、シャーレイはこともあろうに反論してきた。
「あ、あれは私がいくら問いかけてもお前が何も答えないから……!」
「質問に答えなかったら落ち込んでてそれどころじゃない無抵抗の人間に危害を加えていいのか。やっぱ異世界の常識は俺の知ってるものとは違うなあ?」
「う、ぐぬぬ……」
ぐぬぬなんて実際に言ってる奴初めて見たな。
実は魔法を撃たれたことにはそんなに怒ってないというか、斬られなくて助かったとホッとしているのだけど。
ただ何もしていないのにコイツは何故かやたら俺に敵意を向けてくるからな。使えるカードは使って優位に立たなければ。
「だ、だがお前は私の魔法を防いだではないか!どうやったか知らんが、戦う準備はしていたということだろう!無抵抗とは言うまい!」
「まだ折れねえのかよ。ここは謝っとけよ」
「だ、黙れ!お前さえ居なければ、私は今ごろ………絶対に許さないぞ!」
マジでなんなんだよこいつ。なんで俺こんなに恨まれてんの?
そう思ってフィオナとマリーの方を見ると、「あー仕方ないよねー」みたいな反応。
なんか心当たりあんのか。聞いてみよう。
「なあ、なんで俺こんなに恨まれてんの?」
マリーが答えてくれた。
「あー……シャーレイは仕事の都合で長く家に帰れないことが多いから、そういう仕事から帰ってきた日は、私たちが気を使ってリントと二人っきりにさせてあげてるのよ。今日なんかは一ヶ月ぶりだったから、一日中リントとイチャイチャできると思ってた所を、あなたに邪魔されたと思って悔しくて怒りの矛先が全部あなたに向かってるんでしょうね」
マリーがそう言うと、シャーレイはこちらを睨みながらこくこくと頷いていた。
「分かりやすい説明ありがとう。聞かなきゃ良かった」
要はデートの予定を俺が潰したと思ってるって事だな。俺だって来たくて来た訳じゃないのに。
「でも、だからって魔法撃っていい理由になんなくね?」
核心をついてやると、シャーレイは耳を疑う発言で返してきた。
「う、うるさい!!こうなったら、決闘だ!!私と決闘しろ!!」
……………いやいや、何でそうなるの?
情緒不安定すぎません?
この世界には戦闘民族しかいないの?
さっきリントが俺のことを説明するとき、決闘したことは言ったが結果については言わなかったのだが、こうなるとは……
まさかの発言に呆れていると、マリーとフィオナがシャーレイを止めに入った。
「いやいや、こんなことで決闘なんて大げさよ」
「そうですよ、熱くなりすぎです」
お前らが言うなとツッコみたくなったが我慢した。二人はリントが負けたことも知ってるし、同じ嫁ならなんとか止められるだろう。
だが、決闘という言葉に大喜びな奴が一人いた。
「え、またアキラが闘うのか!?いいねいいね!リントに勝ったあとは誰が相手だ!?」
あっ………
「リントに………勝った?」
フィックスがまたやりやがった。フィックスの発言を聞いて、シャーレイが意味がわからないという顔をしている。
「いやいや、それは無いだろう。リントだぞ?嘘だよな?フィオナ?マリー?」
シャーレイの問いかけに、嫁二人が答える。
「え、聞いてないの……?」
「リントからこれまでの経緯は聞いたんですよね……?」
そう言うと、二人が俺の方を見る。
「あー……あいつ、決闘が終わったあと俺が帰ったとしか言ってないから。勝敗については何も」
二人が「そうなの?」といった顔で困っていると、またフィックスが口を挟んだ。
「アキラが勝った時は笑ったなー。まさか無傷だとは!」
ああもう最後まで言っちゃったよ。まあ結果的にはそうなったけども……
「おのれ!どんな汚い手を使ったのか知らんが、我が夫の受けた屈辱、私が返してやる!決闘だ!!」
いやいや、だから何でそうなるの……展開おかしいでしょ。
フィックスはシャーレイの様子を見て爆笑してるから当てにならん。
堂にかマリーとフィオナに諌めてもらわないと……
「……こうなったらもう聞く耳持たないわね」
「気の済むようにさせるしかありませんね」
あれ?止めないの?なんで?嘘でしょ?
「よーし!また俺が審判してやる!中庭へゴー!!」
いやいや待って待って、え、マジで?
マジでまた闘うの?
「観念して、相手してあげてちょうだい」
「シャーレイはああなったら聞きませんから」
「もうちょっと頑張って止めてくれてもいいんじゃない?」
あ、こら、片方が同意してないのに皆で移動するな!
ちょ、フィックス!押すな!押すなって!そんな満面の笑みで押されたら抵抗できない!
こうして、不本意なまま中庭へ移動することになった。




