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副業勇者(仮)  作者: 安居剛
おみまいするぞー
16/44

16話 VS先代勇者

 さて、極めて個人的なイライラで決闘の流れには特に抵抗せず庭まで来てしまったが……


 少し冷静になって考えると、やっぱりこれ俺の生命の危機だよね。

 いやわかってた、わかってたんだけど、どうしても先代へのイライラが募って判断をミスってしまった。

 さっきも思ったけど、ほぼ無傷でこの決闘を乗り越えなければならない。世界を救った英雄を相手に。普通に考えたら無理だろ。

 なんかこっち来てから自分の思考回路がかなりフワフワしてる気がするな。自分で思ってるより展開をうまく回せてないことに今更気付いた。


 これを乗り越えたらもうちょっと真面目に身の振り方を考えよう。うん。


 で、これを乗り越えられるかどうかの要であるリントの戦闘スタイルについて、さっきフィックスに聞いてみたら、


「それ教えちゃったらフェアじゃねーだろ。あいつもアキラのこと知らねーんだし」


 とのこと。いや、そうなんだけどさ……

 やっぱ先に勇者だと思われたことで俺のハードルが果てしなく上がってる。

 どうかリントが武器を使っての直接攻撃に出ないことを祈りたい。


「とりあえず庭全体に結界を張ったから、結界の中ならいくら暴れても大丈夫よ。さすがにリントが本気を出したら防げないけど」


 何やらさっきまでしていた作業を終えたらしいマリーが言った。

 そんなことしてたのかよ。周りに気を使って手加減してくれることを少し期待してたのに!


「おう。じゃあ二人とも準備はいいな。俺が審判すっから。即死しない程度にガチでやってくれ。その方が楽しいし」


 フィックスがさらっと物騒な事を言う。初対面でろくに話したこと無い二人に本気でバトれとか無茶だろ。そして嫁二人もなぜ突っ込まない。

 怒りで正常な判断ができてないのか、元々の思考回路がおかしいのか。せめて前者であってくれ。

 心の中で祈っていると、リントが俺にだけ聞こえる程度のこえで話しかけてきた。


「えっと……大室さん、あなたに恨みはありませんが、妻の前で負けるわけにはいきませんし、魔王討伐を既に為し遂げた者として、未だ為す前の勇者に負けるわけにも行きません。現時点では卑怯かも知れませんが、本気で勝ちに行きます!」


 やべえやる気MAXじゃん。でも話し掛けてきてくれたのなら交渉の余地はあるな。

 殴りたいのは山々だが、リスクがでかすぎる。ここは大人として感情を押し殺し、手加減を頼んでみよう。


「それなんだけど、俺勝つ気ないよ?」


「え?」


「いやだって、チュートリアルも終わってない状態みたいな俺が、言わばクリア後データみたいな状態のお前に勝てるわけないじゃん。それに、俺チートボーナスとかもらってないし」


「えぇっ!?」


 すげえ驚きよう。周りで見てる嫁やフィックスたちもリントの様子を見て何事かと気にしている。


「いや、ありえないでしょう!あんなに色々な特権があるのに!」


「いや、別に欲しくなかったし」


「嘘だ!そうだ、あなただって異世界召喚に応じたということは、何かしら現実に不満があったはず……さては、ブラフを使って勝つつもりだな!」


 ちょ、待って待って、俺嘘ついてない。

 深読みからの思考の展開早すぎるでしょ。


「そんなこと考えてねーよ。お前がどんな能力持ってるか知らんけどマジで本気出されたら死ぬかもだからやめてください」


「そんなに言うとはますます怪しい……やはり、死なない程度に本気でいきます!」


 と言ってリントは何やら杖のようなものを構えた。

 うわ、失敗だこれ。

 死なない程度に本気って、多分それ俺なら死ぬやつ。

 こうなったら物理で殴られるのだけは避けないとマジでヤバい。

 幸い武器を見るに魔法的な攻撃で来るだろう。あれを鈍器として使われたら終わりだけど。


「話終わったか?始めていいか?」


 フィックスが緊張感なく問いかける。よくないけどもう説得できそうにねえ。

 どうにかこの場面を凌ぐしかない。


「僕はいつでもいいです」


「俺はよくないです」


「んじゃ、始め!」


 さらっと俺の意見を無視され、決闘が始まった。




「先ずは牽制……ライトニング!」


「へっ?」


 リントの掛け声と同時に目の前が急に真っ白に光り、やや遅れて轟音が響いた。

 砂煙で前が見えない。



「リントの無詠唱術!!」


「下級術のライトニング、しかも無詠唱であの威力!やっぱりすごいです!」


 嫁二人の非常に親切な説明が聞こえる。今回の野次馬さんポジかな?

 とか考えてると、だんだん砂煙が晴れて正面のリントが再び見えてくる。


「避けた様子も見えなかったし、直撃のはずですが……やはり、何かしらの防御能力を持っているようですね」


 いや、速くて反応できなかったよ。もしあれがそのへんに転がってる石とかだったら普通に死んでたよ。


「あれが効いてない……?……駆け出しの割にそこそこやるみたいね」


「失礼な態度でも、曲がりなりにも勇者、ということですね」


 なんか嫁二人キャラ変わってない?そんな俺の事ディスるような人だったの?俺は失礼な態度とった覚えないんだけど?


「やはり、さっきのは嘘だったようですね……能力もなしに、あれを受けて無傷なはずがない!」


 うん、まあ確かに何もなくはないけど……強く否定できないのが悔やまれる。

 さて、俺はどう出るべきか?


「雷が効かないならこれはどうだ!シャインホールド!」


 効果の想像しやすそうな叫びと共に、俺を中心にした大きな光の輪っかがいくつも出現した。それらが中心に向かって急速に小さくなり、俺を締め付けずにそのまま収束して消えた。

 もちろん反応できなかったので俺はただ棒立ちで見てるだけ。


「無詠唱とはいえ中級術でも捕縛できないなんて……!」


「顔に似合わずかなりのやり手のようですね」


 ちょ、前半のマリーはいいとしてその後のフィオナさん辛辣すぎません?

 そんなキャラだったの?


「これもノーモーションで防ぐとは……仕方ない、上級術、詠唱有りでいきます!」


 なんか親切に説明してくれんな。まさかガチの戦闘でもこういう感じな訳じゃないよね?

 とか思ってると、急に地面からガラスのような透明なドームで閉じ込められた。これも反応できてません。


「出たわね、リントの得意術、インワードファランクス!」


「内側からのあらゆる攻撃を無力化する上級捕縛術!」


 奥さん方、説明あざっす。

 ファランクスって密集陣形じゃなかった?内向き密集陣形って何だよ。


「詠唱を邪魔されないように閉じ込めさせてもらいました。動かないその余裕を崩してあげましょう!」


 いや、余裕とかじゃなくて肉体的にも精神的にも展開についてけてないだけなんですけどね。

 このドームも多分普通に歩いただけで抜けられるし。

 色々ツッコみたくなってるところ、もっとツッコみたくなるリントの詠唱が始まった。


「──暗雲募りて猛るもの、驟雨に添いて出づるもの、今此処に天意を帯びて轟き、我前に塞がる愚者を討て──」


 痛い痛い痛い痛い痛い痛い、予想はしてたけど実際聞くと詠唱ってヤバいなこれゾワッとするわ。

 この世界の詠唱ってみんなこんな感じなのか?もっと鬼道みたいにオサレに振り切ってれば聞いてたいのに…


「ブレイジングロアー!!」


 あ、発動した。


 そう思った瞬間、俺を覆っていたドームは解除され、先程のライトニングの比ではない眩しさと轟音に襲われた。

 そして、俺はというと、俺の体には術の影響は0なのだが、術の威力で地面に大きなクレーターができたせいで、一気にその中心に落っこちて無様に転んでうつ伏せに倒れた。

 いきなり地面が消滅したのは初めてなので着地できなくても仕方ない。

 とりあえずどこも怪我しなくてよかった。今のが一番焦った。


 一呼吸おいて立ち上がって、辺りを見回してまず目についたのは、クレーターの外から覗き込む勇者夫婦の驚愕の顔だった。


「あ、あれの直撃でも何ともないんですか?」


「リントのブレイジングロアはそこらの山を一撃で吹き飛ばす程の威力なのに……!」


 マジかよ、こんな下らない手合わせで使う技じゃねーだろそれ。

 俺じゃなかったら死んでるだろ。


「やっぱり効かないよなー、リッチの時もそうだったしな」


 フィックスは大して驚かずにいる。いや、あの時とは規模が違いすぎると思うんですけど……


「リッチの時って?」


 マリーがフィックスに問いかける。


「ここに来る前に、アキラが単独でリッチを倒したんだけどさ、その時もリッチの呪術をノーガードで食らって平然としてたんだよ」


「ほ、本当に!?リッチの呪術は防御を無視し、受けた傷はポーション程度では治らずにどんどん悪化するって言われてるのに……」


 説明ありがとう!こえーよ!!あれ普通の魔法かと思ってたのにそんな効果あったのかよ!!

 それ知ってたらいくらなんでも怖くてあんな戦い方できなかったよ!!


 心の中で密かにビビっているところ、リントが杖をしまうのが見えた。


「なんて防御力だ……よ、よし、近接戦に切り替えていきます!」



 ………ん、ピンチの予感?

 あいつ、剣も使うみたいなことフィックスが言ってたような……

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