第08話 伯爵令嬢、ガラスの代わりを見つける
「この屋根の下に、何かあるぞ」
俺は屋根裏を覗き込んだ。
薄暗い。
古い木材と埃の匂いがする。
「明かりを持ってきます!」
「待て」
俺は奥を指差した。
「あそこ、何か光ってないか?」
「え?」
使用人がランタンを近づける。
すると――
「……なんだ、これ?」
そこには、大きな透明な板のようなものがあった。
薄い。
だが、妙に丈夫そうだ。
そして何より――
「透き通ってる……」
向こう側がはっきり見える。
俺は近づいて、そっと触った。
「これ、ガラスか?」
「ガラスではないと思います」
「じゃあ何だ?」
屋根裏を案内していた職人が答えた。
「昔からこの屋敷で使われていたものです」
「何でできてる?」
「スライムです」
「…………」
俺は固まった。
「スライム?」
「はい」
「これが?」
「普通のスライムを捕まえて、薄く伸ばすんです」
職人は説明を続けた。
「それを何日も乾燥させます」
「ほう」
「乾燥したら、表面に蜜蝋を塗ります」
「…………」
俺は透明な板をもう一度見る。
なるほど。
スライムを薄く伸ばす。
乾燥させる。
蜜蝋を塗って防水性を持たせる。
それで、透明なシートになる。
「…………」
俺の口元が緩んだ。
「これ……」
「はい?」
「建材にできるんじゃねぇか?」
「建材?」
「ああ!」
俺は透明な板を持ち上げた。
「これ、ガラスの代わりになるぞ!」
「ガラスの代わり……?」
「そうだ!」
俺は一気にテンションが上がった。
「窓に使える!」
「窓に?」
「そう!」
前世の現場で見てきた建物を思い出す。
大きな窓。
採光。
温室。
店舗のショーウィンドウ。
「ガラスより軽い!」
「確かに……」
「割れにくそうだ!」
「はい」
「加工もしやすい!」
「おそらく……」
「しかもスライムなら材料も手に入りやすい!」
俺は拳を握った。
「すげぇぞ、これ!」
マリアが呆れた顔で俺を見る。
「お嬢様……」
「何だ?」
「先ほどまで屋根裏に隠された秘密を探していたのでは?」
「そうだった」
「なのに、なぜ建材の話になっているのですか?」
「こんな便利なもの見つけたら、そっちが気になるだろ!」
「普通は気になりません」
「俺は気になる」
俺は透明な板を光にかざした。
太陽の光が透けてくる。
「これをもっと大きく作れないか?」
職人が答える。
「できます。ただ、大きくすると乾燥中に形が崩れます」
「なら、枠を作ればいい」
「枠?」
「薄く伸ばしたスライムを枠に張るんだ」
俺は床に指で簡単な図を描く。
「そのまま乾燥させる」
「なるほど……」
「乾いたら蜜蝋を塗る」
「はい」
「これなら大きな一枚も作れる」
職人たちが集まってくる。
「確かに……」
「これなら窓にも使える」
「今のガラスより安くできるかもしれない」
俺はニヤリと笑った。
「だろ?」
もう頭の中では、完全に新しい工事が始まっていた。
「大きな窓を作る」
「はい」
「温室も作る」
「はい」
「商店の正面にも使える」
「はい」
「王宮の窓もこれに替えられる」
「…………」
マリアが呟く。
「また王宮ですか……」
「明るい王宮っていいだろ?」
「それはそうですが……」
俺は透明な板を見つめた。
「これ、ちゃんと研究したら面白いぞ」
「研究?」
「ああ」
俺は指を一本立てる。
「厚さを変える」
二本目。
「蜜蝋の種類を変える」
三本目。
「スライムの種類も変える」
「…………」
「透明度や強度が変わるかもしれない」
職人たちは完全に引き込まれていた。
「エレノア様……」
「何だ?」
「これ、本当に新しい建材になるかもしれません」
「だろ?」
俺は笑った。
「現場ってのは、こういう発見があるから面白いんだよ」
そして、透明なスライム板をもう一度眺める。
「……よし」
「何をするんですか?」
「量産だ」
「お嬢様」
「何だ?」
「伯爵令嬢のお仕事ではありません」
「知るか」
俺は鉄兜をかぶり直した。
「使える建材を見つけたなら、使えるようにする」
その姿を見た職人たちが、顔を見合わせる。
「……親方だ」
「完全に親方だな」
「お嬢様なのに……」
俺は聞こえていないふりをした。
そして透明なスライム板を掲げる。
「これで、王都の建物を明るくしてやる!」
こうして――
超美麗な伯爵令嬢による、新建材開発が始まった。




