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46歳の土方のオッサンが転生したら超美麗な伯爵令嬢に  作者: 山田✴ソラ


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第09話 伯爵令嬢、スライムガラスの量産を謀る


 グランベル伯爵家の庭。


 そこには、貴族令嬢のお茶会には似つかわしくない光景が広がっていた。


 木材の山。

 工具箱。

 謎の透明な板。

 そして、鉄兜をかぶった超美麗な伯爵令嬢。


「よし、試作品の製作を始めるぞ!」


「「「おおっ!」」」


 職人たちが声を上げた。


 その中心に立つのは、エレノア・フォン・グランベル。


 銀色の髪に、透き通るような肌。どこからどう見ても絵画から抜け出してきたような美少女だ。


 ただし、頭には鉄兜。


 腰には道具袋。


 手には木材。


 そして口から出るのは、完全に現場監督の言葉だった。


「まずは窓枠を作る! 寸法は正確にな! 適当に切ると、あとで泣くことになるぞ!」


「はい、親方!」


「それから、透明板を固定する部分は強く締めすぎるな。素材の性質がまだわかってねぇ。無理をさせれば割れるかもしれん!」


「なるほど……!」


 職人たちは真剣にうなずいた。


 その様子を見ていたマリアは、額に手を当てた。


「お嬢様……。なぜ伯爵家のお庭で、窓枠の製造工場が始まっているのでしょうか」


「必要だからだ」


「答えになっていません!」


「マリア、建築に必要なのは現場と材料と人手だ。幸い、ここには全部そろってる」


「お茶会の準備なら、もっと別のものがそろっております!」


「お茶会は後だ。今は試作品だ」


「お嬢様のお茶会が、試作品に負けました……」


 マリアは遠い目をした。


「親方、窓枠ができました!」


「よし、透明板を取り付けるぞ」


 職人たちが、木製の枠にスライム製の透明板を慎重にはめ込んでいく。


 薄く伸ばしたスライムを乾燥させ、蜜蝋を塗って仕上げた板。


 見た目はガラスによく似ている。


 だが、本物のガラスとは違い、少ししなる。


 エレノアは板の端を指で押した。


「うん。やっぱり柔軟性があるな」


「親方、これは問題なのでしょうか?」


「いや、使い方次第だ。ガラスと同じものを作ろうとする必要はねぇ」


 エレノアは透明板を窓枠に固定しながら続けた。


「割れにくいなら、それは長所になる。軽いなら、それも長所だ。大事なのは、どこで使うかってことだな」


「なるほど……!」


「ただし、日光で劣化しないか、水が染み込まないか、寒さや暑さに耐えられるか。そこは調べる必要がある」


 職人たちの顔が引き締まった。


「まずは試験だ。作っただけで完成と思うなよ。現場で使えるかどうかが大事なんだ」


「「「はい、親方!」」」


 その返事に、エレノアは満足そうにうなずいた。


 前世で何度も聞いた言葉が、頭の中によみがえる。


 作っただけじゃ駄目だ。


 実際に使えるものじゃなきゃ、意味がない。


 四十六歳の現場経験は、異世界でも役に立つらしい。


「では、最初の試験を始める!」


 エレノアは透明板を取り付けた窓枠を、庭の作業台に立てかけた。


「まずは水だ!」


 職人が桶を持ってくる。


 エレノアは柄杓で水をすくい、透明板にかけた。


 水が表面を流れ落ちる。


「おおっ、弾いています!」


「蜜蝋のおかげだな。だが、これだけじゃ判断できねぇ。何度も水をかけて、表面がどうなるか確認するぞ」


「はい!」


「次は日光だ。しばらく外に置いて、変色や変形がないか見る」


「なるほど!」


「それから、寒い場所でも試す。夏に使えても、冬に使えなきゃ困るからな」


 職人たちは大急ぎで記録用の板を用意した。


 そこへ、父であるグランベル伯爵がやってきた。


「エレノア……。庭で何をしているのだ?」


「新建材の試験です、お父様」


「しんけんざい?」


「ガラスの代わりになるかもしれない素材です。うまくいけば、窓や温室に使えます」


「ほう……。それは素晴らしいではないか」


 伯爵は透明板を見て、感心したように目を細めた。


「それで、どのように試験するのだ?」


「水をかけて、日光に当てて、寒い場所でも確認します」


「なるほど。地道な研究だな」


「あと、実際の建物に取り付けて、しばらく様子を見る必要があります」


「ふむ。では、どこか適当な建物を使うといい」


「ありがとうございます! では、領内の古い物置を一棟、試験用に使わせてください!」


「……物置?」


「はい。雨漏りもあるようなので、修繕ついでに新しい窓を取り付けます」


「いや、私は研究のために建物を使っていいと言ったのであって、物置の修繕を頼んだわけでは……」


「大丈夫です! ついでに屋根も確認します!」


「ついで?」


 伯爵は嫌な予感を覚えた。


 エレノアはすでに職人たちへ指示を出している。


「よし、物置の寸法を測るぞ! 窓の位置を決めて、必要な木材を計算! 足りない材料は先に手配だ!」


「「「はい、親方!」」」


「待ちなさい、エレノア! なぜ物置の修繕計画までできあがっているのだ!」


「現場を見たら、直すところが見えたので」


「見ただけで工事を始めるな!」


「お父様。建物は放っておくと傷みます」


「正論なのが腹立たしい……!」


 その日の午後。


 王太子から使者がやってきた。


「エレノア嬢。殿下が、新しい透明板についてお聞きになりたいそうです」


「おお、王太子殿下が?」


「はい。ガラスに代わる素材だと聞き、王宮でも使用できるか検討したいとのことです」


 エレノアは腕を組んだ。


「王宮か……。窓が多いし、温室もある。うまく使えれば、かなり便利になるかもしれんな」


「お嬢様、言葉遣い!」


「あっ。便利になるかもしれませんわね」


「今さら取り繕っても遅いです!」


 使者は、二人のやり取りに困惑していた。


 やがてエレノアは、使者に向き直った。


「殿下には、試験が終わるまでは大量に使わないようお伝えください。素材の耐久性も、長期間の使用に耐えられるかも、まだわかっていません」


「……承知しました。慎重に進めるようお考えなのですね」


「当然です。建材は、見た目がよければいいってもんじゃありませんから」


 使者は深くうなずいた。


 この令嬢は、ただ珍しいものを作っただけではない。


 安全性を確認し、実際の使用に耐えるかどうかまで考えている。


 王太子が興味を持つのも当然だろう。


 そう考えながら帰っていった。


 そして数日後。


 王宮から、正式な依頼が届くことになる。


 内容は――。


 新建材を使った温室の建設計画。


 エレノアは手紙を読み終えると、ゆっくり顔を上げた。


「……温室か」


「お嬢様、まさか」


「日光を通す必要がある。雨にも耐えなきゃならん。植物のために温度管理も必要だ。試験にはちょうどいい」


 エレノアは机の上に設計図を広げた。


 そして、にやりと笑った。


「よし。やるぞ」


「お嬢様、まだ伯爵家の物置も終わっておりません!」


「物置は物置。温室は温室だ」


「そういう問題ではありません!」


 エレノアは鉄兜を手に取った。


「現場が二つに増えただけだ。問題ねぇ!」


「問題しかありません!」


 こうして王宮の温室建設計画は、鉄兜をかぶった超美麗な伯爵令嬢の手に委ねられることになった。


 そして王宮の人々は、まだ知らない。


 優雅な温室建設を期待していた自分たちが、近いうちに「安全帯を着けてください!」と叱られることになるなど、夢にも思っていなかったのである。




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