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46歳の土方のオッサンが転生したら超美麗な伯爵令嬢に  作者: 山田✴ソラ


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第06話 鉄兜の伯爵令嬢、貴族街で有名になる

 王宮改修工事が始まって二週間。


 俺は今日も現場にいた。


「親方!」


「何だ!」


「北側の壁、補修終わりました!」


「よし!」


「東側の足場も完了です!」


「よし!」


「材料も搬入しました!」


「よし!」


 俺は満足げに頷いた。


「順調だな」


「はい!」


 すっかり現場に馴染んでしまった。


 問題は――


「お嬢様!」


 マリアが走ってくる。


「何だ?」


「お客様です!」


「誰だ?」


「貴族の方々です」


「……何しに?」


 マリアは困った顔をした。


「お嬢様を見に来たそうです」


「俺を?」


「はい」


「何で?」


「噂になっているそうです」


「どんな噂だ?」


 マリアは言いにくそうに口を開いた。


「その……」


「何だよ」


「王宮に、鉄兜をかぶった美しい伯爵令嬢がいる、と」


「…………」


「しかも、職人たちから『親方』と呼ばれている、と」


「…………」


 俺は頭を抱えた。


「何でそんな噂になってんだよ……」


     ◇


 その日の昼。


 王宮の見学用通路には、妙に着飾った貴族たちが集まっていた。


「本当にいるのか?」


「あそこだ!」


「まあ……!」


「本当に鉄兜をかぶっている!」


「なんて美しい……」


「しかもドレス姿だぞ!」


 俺はその視線に気づいた。


「…………」


「親方、どうしました?」


「いや」


 俺は作業を続けた。


「気にすんな」


「でも、皆さん親方を見ていますよ」


「見たいなら見せとけ」


「さすが親方!」


「何がだ」


 すると、一人の貴族青年が近づいてきた。


「エレノア嬢!」


「何だ?」


「お噂は聞いております!」


「……嫌な予感しかしない」


「ぜひ私の屋敷も見ていただきたい!」


「仕事の依頼か?」


「はい!」


「どこが悪い?」


「それが……」


 青年は恥ずかしそうに答えた。


「父の代から、二階の廊下が少し傾いていまして……」


「少し?」


「はい」


「どれくらい?」


「家具が自然に動く程度です」


「それ、少しじゃねぇよ!」


 周囲の貴族たちが笑い出す。


「ははは!」


「エレノア嬢、面白い方だ!」


 俺はため息をついた。


「……まあいい。後で見に行く」


「本当ですか!」


「ああ」


「ありがとうございます!」


 青年が嬉しそうに頭を下げる。


 すると別の貴族がやってきた。


「私の屋敷もお願いします!」


「俺のところも!」


「うちも!」


「ちょっと待て!」


 あっという間に人だかりができた。


「何だよお前ら!」


「屋敷を見ていただきたいのです!」


「一人ずつにしろ!」


「では予約を!」


「予約!?」


 気づけば、俺の周りに貴族が殺到していた。


 マリアが慌てて整理する。


「順番にお願いします!」


「マリア!」


「はい!」


「お前、何してるんだ?」


「予約表を作っています!」


「何でだよ!」


「必要になりそうなので!」


「…………」


 俺は空を見上げた。


「俺、伯爵令嬢だよな?」


「はい」


「貴族の娘だよな?」


「はい」


「なのに何で建築診断の予約を取ってるんだ?」


「私にも分かりません」


     ◇


 その夜。


 伯爵家の食卓。


 父親であるグランベル伯爵が、新聞を読んでいた。


「……エレノア」


「何?」


「今日の新聞を見たか?」


「見てない」


 父親が新聞を差し出す。


 そこには大きな見出し。


『王宮の鉄兜令嬢、貴族街で話題に』


「…………」


 俺は固まった。


 さらに記事を読む。


『絶世の美貌を持つ伯爵令嬢が、王宮改修現場で職人たちを指揮』


『その姿はまるで戦場の女騎士』


『職人たちからの愛称は“親方”』


「…………」


 俺は新聞を閉じた。


「燃やしていいか?」


「駄目だ」


「じゃあ埋める」


「それも駄目だ」


 父親は深いため息をついた。


「お前は一体、どこへ向かっているんだ……」


「俺も分からん」


「お前が分からないのか……」


「ただ」


 俺は少し考えた。


「仕事が増えたのは悪くない」


「そこなのか?」


「ああ」


 俺は笑った。


「明日も現場だ」


「…………」


 父親は頭を抱えた。


 そして翌朝。


 伯爵家の前には――


 十台以上の馬車が並んでいた。


「…………」


 俺は玄関から出てきて固まった。


「何だこれ?」


 マリアが一枚の紙を差し出す。


「本日の建築診断の予約です」


「…………」


「午前五件、午後七件です」


「多すぎるだろ!」


「ちなみに明日も同じくらい入っています」


「誰がこんなに頼んだんだよ!」


「王都中の貴族です」


 俺は鉄兜をかぶった。


「……よし」


「お嬢様?」


「仕事だ」


「はい」


「行くぞ」


 こうして――


 超美麗な伯爵令嬢による王都建築診断事業が、本人の知らないところで始まった。




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