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46歳の土方のオッサンが転生したら超美麗な伯爵令嬢に  作者: 山田✴ソラ


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第03話 伯爵令嬢、王太子の屋敷を直す


 翌日。


 俺は王太子殿下の屋敷に来ていた。


「……デカいな」


 目の前にあるのは、巨大な屋敷。


 庭だけでグランベル家の敷地より広い。


 正面玄関まで石畳が続き、両脇には立派な噴水まである。


「どうだろう、エレノア嬢」


 王太子が得意そうに尋ねる。


「立派だろう?」


「そうですね」


 俺は屋敷を見上げた。


「立派なんですけど……」


「何かあるのか?」


「あります」


「やはりか!」


 王太子が食いついた。


「何が問題だ?」


「まず屋根」


「屋根?」


「雨漏りしてません?」


「…………」


 王太子が固まる。


「なぜ分かる?」


「軒の下に水垢がある」


 俺は指差した。


「あと、あそこの壁」


「どこだ?」


「三階の窓の下」


「……」


「ひびが入ってる」


 王太子が目を細める。


「本当だ……」


「それと」


「まだあるのか?」


「あります」


 俺は建物をぐるっと見回した。


「この屋敷、増築しただろ?」


「……よく分かったな」


「継ぎ目がある」


「それだけで分かるのか?」


「現場やってりゃ分かる」


 俺は壁を軽く叩いた。


 コン、コン。


 さらに別の場所を叩く。


 コン。


「ここも怪しい」


「どういう意味だ?」


「中が浮いてるかもしれない」


「調べられるか?」


「壊していいなら」


「駄目だ!」


「じゃあ無理」


「…………」


 王太子は頭を抱えた。


「エレノア嬢……」


「はい」


「君は本当に伯爵令嬢なのか?」


「一応」


「一応?」


「戸籍上は」


「戸籍上……」


 王太子が遠い目をした。


     ◇


 屋敷の中へ入る。


 廊下を歩く。


「……」


 俺は足を止めた。


「どうした?」


「ここ」


 床を踏む。


 ギィ。


「床鳴り」


「またか……」


「しかもこの廊下、妙に沈んでる」


 王太子が側近を見る。


「修理を頼んだのはいつだ?」


「三年前です」


「三年前……」


 俺はしゃがみ込んだ。


「これ、表面だけ直しただろ」


「はい?」


「下地が悪いまま、床板だけ張り替えてる」


「…………」


 側近が青ざめる。


「お前……」


「はい」


「業者を呼べ」


「今すぐですか?」


「今すぐだ!」


 王太子の声が響く。


 俺は立ち上がった。


「あと、ここ」


「まだあるのか!」


「壁」


「壁?」


「この壁、棚を置かないほうがいい」


「なぜ?」


「中に配管が通ってる」


「…………」


「穴開けたら水が出るぞ」


「…………」


 王太子が側近を見る。


「この屋敷を管理しているのは誰だ?」


「私です……」


「三年間、何をしていた?」


「申し訳ありません!」


 俺は苦笑した。


「まあまあ」


「エレノア嬢……」


「屋敷がデカすぎるんですよ」


「慰めになっていない」


     ◇


 そして最後。


 俺たちは食堂へやってきた。


 巨大なテーブル。


 豪華な椅子。


 天井には巨大なシャンデリア。


「これは問題ないだろう?」


 王太子が言った。


「…………」


 俺はシャンデリアを見上げた。


「殿下」


「何だ?」


「これ、いつからあります?」


「先代の頃からだ」


「何年前です?」


「三十年ほど」


「…………」


 俺は顔をしかめた。


「撤去したほうがいい」


「なぜだ?」


「固定部分が腐ってる」


「…………」


 全員がシャンデリアを見上げる。


 その瞬間。


 ミシッ。


「…………」


 ミシッ……。


「…………」


 俺は叫んだ。


「全員、下がれ!」


「え?」


「早く!」


 全員が慌てて離れる。


 直後――


 ガシャァァァン!


 巨大なシャンデリアが落下した。


「…………」


「…………」


「…………」


 食堂が静まり返った。


 王太子は青ざめた顔で床を見る。


「……エレノア嬢」


「はい」


「君がいなければ?」


「死んでたかもしれませんね」


「…………」


 王太子はしばらく黙っていた。


 そして。


「エレノア」


「はい」


「頼みがある」


「何でしょう?」


「この屋敷を全部見てくれ」


「…………」


「全部だ」


「…………」


「王宮も」


「は?」


「王宮も見てほしい」


「いや、それは――」


「報酬は出す」


「…………」


「かなり出す」


「…………」


 俺は腕を組んだ。


「ちなみに、王宮の規模は?」


「この屋敷の十倍だ」


「…………」


 俺の目が輝いた。


「やります」


「即答か!」


 こうして俺は――


 伯爵令嬢でありながら、王太子専属の建物点検係になった。


 その日の夕方。


 王太子から正式な依頼書が届いた。


 そこにはこう書かれていた。


『王宮内の建築物について、安全性の確認を依頼する』


 俺はそれを見て笑った。


「よし……」


 久しぶりに仕事らしい仕事ができる。


「腕が鳴るぜ」


 マリアが横から呟いた。


「お嬢様……」


「ん?」


「その顔、とても楽しそうです」


「そりゃそうだ」


 俺は胸を張った。


「現場だからな!」


 伯爵令嬢の優雅な生活は――


 また一歩、遠ざかっていった。




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