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46歳の土方のオッサンが転生したら超美麗な伯爵令嬢に  作者: 山田✴ソラ


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第24話 伯爵令嬢、セメントの強度を確かめる


 セメントの試験施工から数日が経った。


 俺は朝から王宮の庭園に来ていた。


 もちろん、鉄兜をかぶり、腰には工具袋を下げている。


「親方、おはようございます!」


「おう。壁の状態はどうだ?」


「今のところ、大きなひび割れは見られません。目地も崩れていません」


「よし。じゃあ、今日は試験を始めるぞ」


 俺は試験壁の前に立った。


 ここ数日、毎日状態を確認してきた。


 セメントは水と反応して固まる。表面が乾いたからといって、内部まで十分に硬化したとは限らない。


 そのため、施工後すぐに強度を調べるような真似はしなかった。


 水分を保ちながら、適切な期間を置いている。


「まずは外観の確認だ。ひび割れ、欠け、変形。気になるところがあれば記録しておけ」


「はい!」


 職人たちが壁を調べ始めた。


 俺も目地の部分を確認する。


「うん。今のところ問題なさそうだな」


「親方、こちらの従来のモルタルの壁も、問題ありません」


「そうか。両方とも記録しておけよ」


 今回の試験では、新しいセメントだけを褒めても意味がない。


 今まで使っていた材料と比べて、どこが優れているのか、あるいは劣っているのか。


 それを確認する必要がある。


「では、次は強度の確認だ」


 俺は職人たちに指示を出した。


 試験用に作っておいた小さな石材の板を持ってこさせる。


 同じ大きさの板を二種類。


 一つは従来のモルタルを使ったもの。


 もう一つは新しいセメントを使ったものだ。


「これを同じ条件で試してみる」


「どうやって確かめるんですか?」


「まずは少しずつ荷重をかけていく。どれくらいの力で変形したり、割れたりするかを見るんだ」


 俺は試験用の台を確認した。


 荷重をかけるための装置は、職人たちに作ってもらった簡単なものだ。


 重りを少しずつ載せられるようにしてある。


「重りを載せるときは、周囲に人を近づけるな。急に割れる可能性もあるからな」


「了解しました!」


 試験が始まった。


 まずは従来のモルタルを使った板。


 少しずつ重りを増やしていく。


 職人が記録を取り、俺は板の状態を確認する。


 続いて、新しいセメントを使った板。


 同じように重りを載せていく。


「……おお」


 職人の一人が声を上げた。


「親方、こちらの板は、かなり重くなるまで変化がありません!」


「まだ判断するな。何枚か作って、同じ試験を繰り返すぞ」


「はい!」


 俺は記録帳に目を落とした。


 一枚だけ良い結果が出ても、それが偶然かもしれない。


 材料の混ざり具合や、固まるときの環境でも結果は変わる。


 何度か試して、同じような結果が出るか確認する必要がある。


「それに、今回は小さな試験片だからな。これだけで建物に使えると判断するわけにはいかねえ」


「なるほど……」


 職人たちは真剣に頷いていた。


 午後からは耐水試験を行うことになった。


 試験用の石材板を、それぞれ水槽に入れる。


 水槽は二つ。


 片方には従来の材料を使った板。


 もう片方には新しいセメントを使った板を入れる。


「このまま一定時間、水に触れさせておく。取り出したら表面の状態を確認するぞ」


「水に入れるだけでいいのですか?」


「まずは基本的な確認だ。表面が崩れたり、目地が弱くなったりしないかを見る」


 俺は水槽の横に記録用の板を置いた。


「水に入れた時刻を記録。取り出す時間も決めておく。途中で勝手に触るなよ」


「分かりました!」


 その様子を、少し離れた場所から眺めている人物がいた。


 王宮の建築技術を管理する技術官だ。


 年配の男性で、これまで何度か庭園の改修工事で顔を合わせている。


「エレノア嬢」


「はい?」


「その粉末が、例の新しい建築材料ですかな?」


「ああ、そうです。石灰石などを焼いて作ったセメントです」


「石を焼いて、粉末にする……。それで石を接着する材料になるのですか?」


「正確には、水と反応して硬くなる材料ですね。砂などと混ぜて使います」


 技術官は興味深そうに試験用の壁を眺めた。


「従来のモルタルと比較しているのですな」


「そうです。新しい材料だからといって、いきなり王宮の建物に使うわけにはいきませんから」


「それは当然ですな」


 技術官は頷いた。


「しかし、もし本当に安定した品質で作れるのであれば、建築の世界が変わるかもしれません」


「まだそこまでは分かりませんよ。これから試験を重ねる必要があります」


「慎重ですな」


「建物は人が使うものですからね。壊れたら困ります」


 俺は当たり前のことを言ったつもりだった。


 しかし、技術官は少し驚いたような顔をした。


「……なるほど。エレノア嬢が現場の職人たちから信頼されている理由が分かった気がします」


「え?」


「材料の開発だけではなく、使う人間のことまで考えている」


 技術官は試験壁に目を向けた。


「私も結果を楽しみにしております」


「ありがとうございます」


 数時間後。


 水槽から試験用の板を取り出した。


「親方、表面に大きな変化はありません!」


「こっちもだな」


 俺は板の表面を確認した。


 新しいセメントを使った板は、見た目には大きく崩れていない。


 水に触れたからといって、すぐに溶けたり、目地が流れたりする様子もなかった。


「よし。これも記録しておこう」


「親方、かなり良い結果ではありませんか?」


「そうだな。少なくとも、今回の試験では悪くない結果だ」


 俺は水槽の中を覗き込んだ。


「ただし、これだけで水路に使えると決まったわけじゃない。長期間水に触れた場合や、凍結や乾燥を繰り返した場合も考えなきゃならん」


「まだ試験が必要なのですね」


「当たり前だろ。建築材料ってのは、長く使って初めて評価できるんだ」


 俺は記録帳に結果を書き込んだ。


 新しいセメントは、今のところ期待できそうだ。


 しかし、まだ課題は残っている。


 製造時の温度管理。


 材料の配合。


 粉末の細かさ。


 固まるまでの時間。


 そして、長期間使った場合の耐久性。


 どれも大切なことだ。


 試験が終わり、片付けをしていると、技術官が再びやって来た。


「エレノア嬢。少し相談があるのですが」


「何でしょう?」


「王宮の古い倉庫の壁が傷んでおりましてね。雨が降るたびに水が染み込む場所があるのです」


「壁の補修ですか?」


「ええ。大規模な改修ではありません。小さな補修で済むと思うのですが、従来の材料では何度直しても同じ場所から傷んでくるのです」


 俺は少し考えた。


「原因を調べないと、材料を変えても同じことになりますよ」


「やはりそうですか」


「まずは現地を見せてください。雨水の流れや壁の状態、屋根との取り合いも確認したいです」


「分かりました。案内いたしましょう」


 俺は記録帳を閉じた。


 セメントの試験はまだ続く。


 だが、実際に使える場所が見つかるのなら、それも大切な経験になる。


「よし。明日は倉庫の調査だな」


「お嬢様……」


 隣でマリアが呟いた。


「何だ?」


「今日はもう帰るのですよね?」


「もちろんだ」


「本当ですね?」


「ああ。帰ったら夕食だ」


 マリアはほっとした顔をした。


 だが、俺は続けた。


「その後、倉庫の図面を見せてもらおう」


「お嬢様!」


 夕暮れの庭園に、マリアの声が響いた。


 新しい材料ができた。


 試験結果も悪くない。


 そして、次の現場も見つかった。


 どうやら、俺の現場仕事はまだまだ終わりそうにない。




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