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46歳の土方のオッサンが転生したら超美麗な伯爵令嬢に  作者: 山田✴ソラ


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第22話 伯爵令嬢、ついにセメントを完成させる


 グランベル伯爵家の敷地内に、新しい作業場が用意された。


 中には石材や粘土を置く棚があり、奥には試験用の窯が設置されている。


 そして中央には、エレノアが職人たちに依頼して作らせた道具が置かれていた。


 大きな桶のような容器。


 その中央には回転軸があり、取っ手を回すと内部の羽根が動く仕組みになっている。


 材料を均一に混ぜるための、手動式混合器だ。


「よし、完成したな!」


 エレノアは混合器を見て、満足そうに頷いた。


「ご依頼どおり、内部の羽根が回転するようにいたしました。軸も補強しております」


 木工職人が説明する。


「ありがとう。これなら手作業よりも効率よく混ぜられそうだ」


「ただし、あまり大量の材料を入れますと、回転が重くなる可能性がございます」


「分かった。最初は少量から試そう。無理に回すと壊れるからな」


 エレノアは道具の状態を確認した。


 取っ手を回す。


 内部の羽根が動く。


 軸のぐらつきもない。


「よし、問題なしだ」


 彼女は満足そうに頷いた。


 その横で、マリアが腕を組んでいた。


「お嬢様。ついに道具まで完成してしまいましたね」


「これからが本番だぞ」


「……やはり、まだ終わりではないのですね」


「当たり前だろ。道具を作っただけでセメントが完成するわけじゃない」


 エレノアは机の上に並んだ材料を見渡した。


 石灰石。


 粘土。


 珪石。


 鉄原料。


 そして、仕上げに使う石膏。


 材料を集めることはできた。


 混ぜる道具も用意できた。


 しかし、本当に使えるセメントを作れるかどうかは、これからの試験次第だった。


「よし。始めるぞ!」


 まずは、原料の確認からだった。


 エレノアは鉱物職人と一緒に、集められた石灰石や珪石を確認した。


「同じ石灰石でも、産地によって性質が違うんだよな?」


「はい。見た目が似ていても、含まれる成分には違いがございます」


「なら、全部まとめて使うのはやめよう。産地ごとに分けて、記録しておいてくれ」


「承知しました」


 エレノアは手帳を開いた。


 石灰石の産地。


 粘土の産地。


 珪石の特徴。


 鉄原料の種類。


 それぞれの情報を整理していく。


 材料の配合を調べるには、何を使ったのかを正確に把握しておく必要がある。


 結果が良くても、材料が分からなければ同じものを作れないからだ。


「それじゃ、最初の試験を始めよう」


 エレノアは職人たちに指示を出した。


 まずは石灰石を中心に、粘土や珪石、鉄原料を組み合わせた原料を準備する。


 ただし、割合は適当に決めるわけにはいかない。


 原料に含まれる成分を確認しながら、専門家の意見も取り入れて調整する必要がある。


「一度に全部の条件を変えるなよ。何が原因で結果が変わったのか分からなくなるからな」


「承知しました!」


 原料を細かく砕き、混合器へ入れる。


 エレノアが取っ手を回すと、内部の羽根が動き始めた。


 ゴトゴト、ゴトゴト。


 材料が少しずつ混ざっていく。


「おお、いい感じだ!」


 エレノアは目を輝かせた。


 前世では機械が自動で混ぜていたが、今は自分の手で取っ手を回している。


 それでも、材料が均一になっていく様子を見ると、自然と気分が高まった。


「親方、混合が終わりました!」


 作業員が報告する。


「よし。次は焼成の工程だ。ただし、窯の温度管理は慎重にな。急いで温度を上げればいいってもんじゃない」


「分かりました!」


 試験用の窯に原料を入れ、専門の職人が温度を管理する。


 エレノアは窯の前で、記録を取りながら様子を見守った。


 やがて、試験が終わった。


 取り出された焼成物は、灰色がかった硬い塊になっていた。


「これが……」


 エレノアは慎重に観察した。


 だが、これだけではセメントとは言えない。


 焼成物を適切に処理し、細かい粉末にする必要がある。


 さらに、石膏を加えて仕上げなければならない。


「まだまだだな。次は粉砕だ」


 職人たちが焼成物を冷ましたあと、専用の道具を使って細かく砕いた。


 こうして得られた粉末に、適切な量の石膏を加えて混ぜる。


 ようやく、最初のセメント試作品ができあがった。


「よし。これで試験用のセメントができたぞ」


 エレノアは粉末の入った容器を見つめた。


 しかし、まだ喜ぶのは早い。


 肝心なのは、水と混ぜたときにどうなるかだ。


 翌日。


 作業場の一角に、試験用の台が用意されていた。


 エレノアは職人たちと一緒に、セメントの試験を始めた。


「まずは少量の水を加えて、練ってみよう」


 粉末に水を加え、専用の容器で混ぜる。


 最初は硬すぎた。


「水が足りないな」


 次の試験では、少し水を増やした。


 今度は柔らかすぎる。


「今度は水が多い。これじゃ扱いにくいぞ」


 エレノアは結果を手帳に書き込んだ。


 水の量を調整し、練り上がった材料の状態を確認する。


 そして、小さな型に詰めた。


「これで硬化の様子を見る。時間ごとに状態を記録してくれ」


「承知しました!」


 試験体には、材料の配合や水の量、製造条件を記した札が付けられた。


 あとは、時間を置いて確認するだけだ。


 数時間後。


 エレノアは試験体の前に戻ってきた。


「どうだ?」


 作業員が慎重に確認する。


「表面は固まり始めています。ただ、まだ十分な強度はありません」


「そうか。無理に力をかけるなよ。時間を置いて、引き続き確認しよう」


 エレノアは頷いた。


 セメントは、表面が固まれば完成というものではない。


 時間をかけて水と反応し、強度を増していく。


 だから、早い段階で結果を決めつけるわけにはいかなかった。


 翌日も、その次の日も、試験は続いた。


 ある試作品は固まるのが早すぎた。


 別の試作品は、表面こそ硬くなったものの、内部の状態が良くなかった。


 水を増やしすぎたものは、強度が十分に出なかった。


 エレノアは、そのたびに記録を見直した。


「うーん……。原料の配合だけじゃなく、焼成の状態や粉砕の細かさも関係してるな」


「一つの原因だけではないのですね」


 鉱物職人が言った。


「そういうことだ。だから、結果が悪かったからって、すぐに材料を全部変えるのは駄目だ。どこに問題があるのか、順番に調べていこう」


「なるほど……」


 職人たちは真剣に頷いた。


 試験を繰り返すうちに、少しずつ傾向が見えてきた。


 原料の配合を調整すると、焼成後の状態が変わる。


 焼成条件を見直すと、できあがった粉末の性質にも違いが出る。


 石膏の量を変えると、水と混ぜたときの固まり方が変わる。


 もちろん、まだ十分な強度が得られない試作品もあった。


 それでも、記録を積み重ねることで、改善すべき点が明らかになっていった。


「よし。次の試験では、原料の配合を少し調整しよう。焼成条件は前回と同じにして、違いを確認する」


「承知しました、親方!」


 作業場には、いつの間にか職人たちの活気ある声が響くようになっていた。


 そして、何度目かの試験の日。


 エレノアは、これまでの記録を机いっぱいに広げていた。


 材料の産地。


 原料の配合。


 焼成の条件。


 石膏の量。


 水と混ぜたときの状態。


 時間ごとの硬化の様子。


 それらを一つずつ比較していく。


「……これだ」


 エレノアは、ある記録を指差した。


「この試作品は、今までで一番状態がいい。硬化の進み方も安定してるし、強度試験の結果も改善してる」


「本当ですか!」


「ああ。ただし、まだ長期的な耐久性は確認する必要がある。水に触れる場所で使えるかどうかも、別に試験しなきゃならない」


 エレノアはそう言いながらも、顔には笑みが浮かんでいた。


 ここまで来るのに、何度も失敗した。


 材料を集め、配合を変え、道具を使って練り、焼成し、粉砕して、また試験する。


 その繰り返しだった。


 しかし、ようやく手応えのある結果が出たのだ。


「よし。もう一度、同じ条件で作ってみよう」


「同じものを、ですか?」


「そうだ。偶然うまくいっただけじゃ意味がない。何度作っても同じような結果になるか、確かめるんだ」


 職人たちは頷いた。


 材料を量り、混合器で均一に混ぜる。


 窯で焼成し、冷ましてから細かく粉砕する。


 石膏を加えて仕上げ、試験用の粉末を作る。


 その後、水と混ぜて試験体を成形した。


 そして、数日後。


 エレノアは試験体の状態を確認した。


 結果は良好だった。


 複数の試験体で、同じような硬化の傾向が確認できたのだ。


「……よし」


 エレノアは試験体を見つめた。


 そして、勢いよく立ち上がった。


「セメントの完成だああああ!」


 作業場に、彼女の叫び声が響き渡った。


「「「おおおおっ!」」」


 職人たちも歓声を上げた。


 マリアは驚いて、持っていた書類を落としかけた。


「お、お嬢様! ついに完成したのですか!?」


「ああ! 試験を繰り返して、ようやく使える見込みのあるものができた!」


 エレノアは満面の笑みを浮かべた。


「これで、石材を固定するための新しい材料が手に入った。あとは用途ごとに強度や耐久性を確認して、施工方法を確立するんだ!」


「……完成したのに、まだ試験があるのですか?」


「そりゃそうだろ。作れることと、安全に使えることは別だからな」


 エレノアは堂々と答えた。


 マリアは一瞬だけ安心した顔を見せたが、すぐに表情を曇らせた。


「ということは……次は実際の建築現場で試されるのですね?」


「その通りだ!」


「お嬢様!」


 マリアの悲鳴が、再び作業場に響き渡った。


 エレノアは気にしなかった。


 彼女の頭の中には、すでに次の計画が浮かんでいた。


 石材の接合。


 水路の補修。


 基礎工事への応用。


 ただし、いきなり大規模な工事に使うつもりはない。


 まずは小さな試験施工から始め、強度や耐久性を確かめる。


 その結果を見て、少しずつ使える範囲を広げていくのだ。


「よし。次は試験施工だな!」


「……お嬢様、お願いですから、少しくらい休んでくださいませ」


「休憩なら今から取るぞ。腹も減ったしな!」


「本当ですね!?」


「ああ。飯を食ったら、施工計画を考える!」


「結局、お仕事ではありませんか!」


 マリアの声が、作業場に響き渡った。


 こうして、エレノアは異世界でセメントの試作に成功した。


 しかし、これはまだ始まりにすぎない。


 新しい材料が本当に建築現場を変えるのか。


 その答えは、次の試験施工で明らかになる。




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