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46歳の土方のオッサンが転生したら超美麗な伯爵令嬢に  作者: 山田✴ソラ


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第20話 伯爵令嬢、石灰石を見つけて大興奮する


 王宮の庭園東側。


 古い地下水路の調査は、慎重に進められていた。


 入口付近の土を取り除き、石組みの状態を確認した結果、地下水路の一部が今も残っていることが分かったのだ。


 ただし、長年使われていなかったため、内部の状態は分からない。


 そこで、専門の職人たちが安全を確認しながら、少しずつ調査を進めていた。


「親方、内部の足場は問題ありません。空気の状態も確認できました」


「よし。無理はするなよ。少しでも異常があれば、すぐに戻ってこい」


「承知しました!」


 エレノアは入口の外で、職人たちの報告を聞いていた。


 もちろん、頭には鉄兜をかぶっている。


 隣ではマリアが、心配そうに地下水路を見つめていた。


「お嬢様、本当に中へ入らないのですね?」


「許可もないのに勝手に入るわけないだろ。それに、専門家が確認してるんだ。俺たちは報告を待てばいい」


「……そのお言葉を、ぜひ今後も忘れないでくださいませ」


「なんだよ。俺だって危険な場所に無茶して入るほど馬鹿じゃないぞ」


「そうであればよろしいのですが……」


 しばらくして、地下水路から職人たちが戻ってきた。


「親方、報告があります!」


「どうした?」


「内部は思ったより広く、壁もかなり頑丈です。ただ、途中で崩れた箇所がありまして、先へ進むには追加の調査が必要です」


「分かった。崩落している場所には近づくな。まずは現在の状態を記録してくれ」


「はい!」


 エレノアは図面を広げた。


 古い水路の位置と、職人たちが確認した内部の構造を照らし合わせる。


「なるほど……。ここで水路が分かれているのか」


「はい。こちらの通路は庭園の噴水方面へ、もう一方は王宮の外壁近くへ続いているようです」


「排水のための分岐だろうな。昔は今より広い範囲で水を流していたのかもしれない」


 エレノアは頷きながら、記録を取った。


 そのときだった。


「親方、こちらの壁をご覧ください」


 別の職人が、地下水路の入口近くに置かれた石材を指差した。


 工事の邪魔にならないよう、すでに崩れた箇所から取り出されていたものらしい。


 灰色がかった白い石。


 表面には細かな模様があり、ところどころに小さな穴が見える。


 エレノアは、その石を見た瞬間に固まった。


「……おい。ちょっと待て」


「はい?」


 彼女は石に近づき、じっくりと観察した。


 表面の特徴。


 色合い。


 質感。


 そして、地下水路の周囲に残る古い石材。


 前世で何度も見た、あの材料に似ていた。


「これ……石灰石じゃないか?」


「石灰石、ですか?」


 職人が首を傾げる。


 エレノアは別の石も確認した。


 こちらにも似た特徴がある。


 もちろん、見た目だけで断定はできない。


 だが、もし本当に石灰石なら。


 彼女の頭の中で、前世の知識が一気につながった。


 石灰石。


 焼成。


 消石灰。


 そして、建築現場で当たり前のように使われていたセメント。


 この世界には、まだ一般的なセメントが存在していない。


 石材を積み、粘土や石灰系の材料を使って固定することはあっても、現代のようなセメント施工は普及していなかった。


 だからこそ、エレノアは今まで石材や木材を使った建築を中心に考えていたのだ。


 しかし。


 もし、石灰石を利用できるなら。


 建築の可能性が大きく広がる。


「……やばい」


 エレノアの口元が、ゆっくりと緩んだ。


「お嬢様? どうかなさいましたか?」


 マリアが不安そうに声をかける。


 エレノアは石を両手で持ち上げた。


 そして、地下水路の入口に響き渡るほどの大声で叫んだ。


「セメント施工が出来る!」


「「「えっ!?」」」


 職人たちが一斉に振り返った。


 庭師長も、何事かと駆け寄ってくる。


「エレノア様、いったい何があったのですか!?」


「見ろ、この石だ!」


 エレノアは石灰石らしき石を掲げた。


「これが本当に石灰石なら、建築用の結合材を作れる可能性がある!」


「結合材……?」


「石と石を、もっと強固に固定するための材料だ。うまくいけば、今までより丈夫な構造物を作れるかもしれない!」


 職人たちは顔を見合わせた。


 石材を固定する方法なら、彼らにも経験がある。


 しかし、エレノアの口から出てきた言葉は、聞き慣れないものだった。


「お嬢様、それは今まで使われてきた石灰の材料とは違うのですか?」


「違うものを目指したいんだ。石灰石を加工して、建築に使える材料を作る。まずは性質を調べて、試験を重ねる必要があるけどな」


 エレノアは興奮を抑えながら説明した。


 セメントは、石灰石をただ砕いただけで完成するものではない。


 原料の配合や焼成の条件、粉砕の細かさなど、さまざまな要素が関係する。


 この世界で同じものを作れるかどうかは、まだ分からない。


 それでも、原料になり得る石を発見できたことは大きな一歩だった。


「よし。まずは石の鑑定だ。それから採取できる場所を調べる。勝手に大量に掘り出すのは駄目だぞ」


「かしこまりました!」


 職人たちの返事に、エレノアは満足そうに頷いた。


 しかし、マリアは頭を抱えていた。


「お嬢様……。今回は庭園の排水を調べていたのではありませんでしたか?」


「そうだぞ」


「どうしてセメントのお話になっているのですか!」


「石灰石があったからだ!」


「理由になっておりません!」


 エレノアは気にせず、石をじっくりと眺めていた。


 頭の中では、すでにいくつもの計画が動き始めている。


 石材を固定する。


 水路の補修に使う。


 基礎工事に応用する。


 条件が整えば、より複雑な構造物にも利用できるかもしれない。


 ただし、何にでも使えると考えるのは危険だ。


 水に触れる場所での耐久性も確認しなければならないし、材料が固まるまでの時間も調べる必要がある。


「まずは小さな試験からだな」


 エレノアは手帳を取り出し、新しい項目を書き加えた。


 その様子を見ていた庭師長が、恐る恐る尋ねた。


「エレノア様……。その材料が完成したら、庭園の工事にも使えるのでしょうか?」


「試験の結果次第だ。うまくいけば、石畳の補修や水路の修復にも役立つかもしれない」


「それは素晴らしいですね!」


「まだ喜ぶのは早い。材料の性質が分からないうちに、本番の工事へ使うわけにはいかないからな」


 エレノアはきっぱりと言った。


 新しい技術を生み出すことと、安全に使えることは別の話だ。


 だからこそ、試験と記録が欠かせない。


 そのとき、地下水路の調査報告を聞いた王太子が、護衛を連れてやってきた。


「エレノア嬢。何やら大きな声が聞こえたのだが……」


「殿下! 大発見です!」


 エレノアは石灰石を掲げた。


「この石を利用できれば、セメント施工を実現できる可能性があります!」


「せめんと……?」


 王太子は聞き慣れない言葉を繰り返した。


「石材を強固に固定するための、新しい建築材料です。まだ実現できると決まったわけではありませんが、試験する価値は十分にあります!」


「なるほど。それは確かに大きな発見だな」


 王太子は石を眺め、真剣な表情になった。


「必要な調査や試験には、協力しよう。ただし、費用と安全面については十分に検討してくれ」


「もちろんです!」


 エレノアは元気よく返事をした。


 そして、すぐに手帳へ新しい計画を書き込んだ。


 石灰石の鑑定。


 採取場所の調査。


 試験用の設備。


 材料の製造方法の研究。


 強度と耐久性の確認。


 書き込む項目は、あっという間に増えていった。


 王太子はその手帳を見て、静かに尋ねた。


「……エレノア嬢。ちなみに、これが成功した場合、次は何をするつもりだ?」


「そうですね。まずはセメントの製造方法を確立して、それから建築現場での施工方法を検討します」


「その先は?」


「実際に使えるようになったら、基礎工事や水路の補修に応用したいですね」


「……そうか」


 王太子は空を見上げた。


 また一つ、王宮に新しい計画が生まれてしまった。


 その横で、マリアが小さく呟く。


「お嬢様……。今度は石から建築材料を作るおつもりなのですね」


「ああ。せっかく材料が見つかったんだ。可能性を調べないともったいないだろ」


「……せめて、今度は温室のように、建物が増えすぎないことを願っております」


「何を言ってる。材料が進歩すれば、建物だって進歩するんだぞ」


「そういうところでございます!」


 地下水路の入口に、マリアの悲鳴が響き渡った。


 こうして、王宮の庭園改修計画は、思いがけない方向へ進み始めた。


 古い地下水路から見つかった石灰石。


 それは、エレノアにとって単なる石ではなかった。


 この世界の建築を変えるかもしれない、新たな可能性だったのである。




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