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46歳の土方のオッサンが転生したら超美麗な伯爵令嬢に  作者: 山田✴ソラ


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第19話 伯爵令嬢、古い図面を発掘する


 翌朝。


 エレノアは王宮の記録庫を訪れていた。


 もちろん、頭には鉄兜をかぶっている。


 手には手帳と筆記具。


 そして、なぜか巻尺まで持っていた。


「エレノア様。記録庫で測量をする予定はございませんよね?」


 案内役の文官が、不安そうに尋ねた。


「いや、必要なら測るぞ」


「必要になることがあるのですか?」


「古い図面と実際の寸法が合わなかったら、確認する必要があるだろ」


「……そうですか」


 文官は、それ以上何も聞かなかった。


 この伯爵令嬢に常識を求めても無駄だと、すでに噂で聞いていたからだ。


 記録庫の中には、長年保管されてきた書類や図面が並んでいた。


 エレノアは案内された机に座り、庭園に関する資料を探し始めた。


「ええと、現在の庭園が整備されたのは……三十年ほど前か」


「はい。その際に大規模な改修が行われたと記録されています」


「それ以前の図面は?」


「こちらです」


 文官が古い箱を机に置いた。


 中には、何枚もの図面が丁寧に保管されていた。


 エレノアは一枚ずつ広げ、現在の庭園の形と比較していく。


「この噴水は昔からあるんだな。こっちの花壇は位置が変わってる……」


 図面を見比べながら、手帳に気づいた点を書き込んでいく。


 そして、一枚の古い図面を広げたところで手が止まった。


「……ん?」


 現在の庭園には存在しない、細い線が描かれていた。


 噴水の下から伸び、庭園の端を通り、さらに王宮の建物の近くまで続いている。


「これ、水路か?」


 エレノアは図面を机に近づけた。


 線の横には、小さな文字が記されている。


 古い表記だったが、何とか読み取れた。


「地下排水路……か」


 文官が隣から覗き込む。


「確かに、そのように見えますね。しかし、現在の庭園にはそのような水路はございません」


「図面にはあるぞ」


「三十年前の改修工事で埋められたのかもしれません」


「埋めた理由は?」


「そこまでは……」


 エレノアは腕を組んだ。


 地下水路を使わなくなった理由はいくつか考えられる。


 老朽化したのか。


 詰まりが発生したのか。


 それとも、新しい排水設備を作ったために不要になったのか。


 図面だけでは分からない。


「よし。改修工事の記録も調べよう」


「まだお調べになるのですか?」


「当然だろ。使われなくなった理由が分からないまま工事を進めるのは危ないからな」


 エレノアは別の資料を取り出した。


 しばらくして、改修工事の記録が見つかった。


 しかし、そこに書かれていた内容は予想外だった。


「……地下水路の一部を閉鎖。以後、地上排水設備を使用する?」


 エレノアは記録を読み返した。


「一部を閉鎖ってことは、全部を埋めたわけじゃないのか?」


「そのようですね」


「閉鎖した場所は?」


「記録には、庭園東側とあります」


 エレノアは顔を上げた。


 庭園東側。


 昨日、古い石組みが見つかった場所に近い。


「これだな」


「何がでしょうか?」


「昨日見つけた石組み。地下水路の一部かもしれない」


 文官が驚いた顔をした。


「では、庭園の地下に古い水路が残っている可能性があるのですか?」


「そう考えるのが自然だな。ただ、まだ確定じゃない。現地で確認する必要がある」


 エレノアは図面を丁寧に巻き、箱に戻した。


「庭師長に連絡してくれ。昨日の場所をもう一度確認する」


「かしこまりました」


 記録庫を出ると、マリアが廊下で待っていた。


「お嬢様。何か分かりましたか?」


「地下水路が残っている可能性がある」


「地下水路ですか?」


「そうだ。昨日見つけた石組みと関係があるかもしれない」


 マリアは少し考えた。


「つまり、庭園の地下を調べるということでしょうか?」


「必要な範囲だけな。いきなり掘り返したりはしないぞ」


「それを聞いて安心いたしました」


「まずは図面と現地を照らし合わせる。位置が合えば、専門の職人に調査してもらう」


「お嬢様ご自身で入るおつもりではありませんよね?」


「まだ何も言ってないだろ」


「今のお顔で分かります!」


 エレノアは、少しだけ目をそらした。


 実際、地下水路と聞いて気にならないわけがなかった。


 土木の仕事をしていた頃も、地面の下に何があるのかを調べるのは重要だった。


 地上からは見えない配管や排水路。


 それらの状態を把握していなければ、工事を始めてから問題が発生することもある。


 だが、ここは王宮だ。


 勝手な調査は許されない。


「……まずは許可を取る。これが先だな」


「ぜひ、そうしてくださいませ」


 その日の午後。


 エレノアは王太子に地下水路の件を報告した。


「古い地下水路か。そんなものが残っているとは知らなかった」


「現在の図面には載っていませんでした。三十年前の改修記録に、一部を閉鎖したと書かれています」


「それで、どうしたい?」


「まずは位置を確認したいです。残っているなら、排水設備として再利用できる可能性もあります。ただし、状態が悪ければ触らない方がいいでしょう」


 王太子は頷いた。


「分かった。庭園の管理責任者にも話を通しておこう。調査に必要な職人も手配する」


「ありがとうございます」


「ただし、危険がある場合は調査を中止すること。君が直接地下に入る必要はないからな」


「もちろんです」


 エレノアは素直に答えた。


 王太子は、ほっとした表情を見せた。


「君がそう言ってくれると安心するよ」


「安全確認ができていない場所に入るのは、現場の基本に反しますから」


「……うん。君の場合、そこから説明しなければならないと思っていた」


「どういう意味ですか?」


「気にしないでくれ」


 王太子は笑顔で話を切り上げた。


 数日後。


 必要な許可と職人の手配が整い、庭園東側の調査が始まった。


 昨日見つかった石組みの周囲を、職人たちが慎重に確認する。


 表面の土を少しずつ取り除くと、石の並びが奥へと続いていることが分かった。


「親方! こちら、さらに石が続いています!」


「分かった。無理に掘るなよ。周囲の状態を確認しながら進めてくれ」


 エレノアは図面を広げ、石組みの位置を確認した。


 古い図面に描かれた水路の位置と、おおよそ一致している。


「やっぱり、地下水路の一部かもしれないな」


 庭師長も興奮した様子で近づいてきた。


「これが本当に昔の水路なら、王宮の歴史に関わる発見かもしれませんね」


「そうだな。ただ、今は建築物としての状態を確認するのが先だ」


 エレノアは職人たちに指示を出した。


 そして、露出した石の表面をじっくりと観察する。


 石には長い年月を経た跡があった。


 しかし、目立った崩落は見られない。


「……思ったより、しっかりしてるな」


「親方、どうしますか?」


「まずは水路の内部を確認できるか、専門の職人に判断してもらおう。入口が見つかっても、すぐに入るのは駄目だ。空気や足場の状態も確認する必要がある」


「承知しました!」


 職人たちが頷いた。


 エレノアは図面を見下ろした。


 古い地下水路。


 三十年前に閉鎖された設備。


 そして、現在の庭園で起きている排水の問題。


 もし、これらがつながっているなら。


 庭園の改修計画そのものを見直す必要があるかもしれない。


「こりゃ、ちゃんと調べる価値がありそうだ」


 エレノアは鉄兜の位置を直した。


 その横で、マリアが深いため息をついた。


「お嬢様……。庭園を整えるだけだったはずなのですが」


「何を言ってる。地下の排水設備も庭園の一部だろ」


「そういう意味ではございません!」


 王宮の庭園改修は、地上だけでは終わらなくなりそうだった。


 そしてエレノアは、まだ知らない。


 この古い地下水路が、王宮の思いがけない秘密につながっていることを。




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