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46歳の土方のオッサンが転生したら超美麗な伯爵令嬢に  作者: 山田✴ソラ


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第18話 伯爵令嬢、庭園の測量を始める


 翌朝。


 王宮の庭園に、朝早くから人が集まっていた。


 庭師たちに、建築作業員、それから測量を手伝うために呼ばれた職人たち。


 その中心に立っているのは、もちろんエレノアだった。


 銀色の髪をまとめ、上品なドレスの上から作業用の上着を着ている。


 頭には鉄兜。


 手には巻尺と図面。


 その姿を見た庭師長は、もう驚かなかった。


「皆さん、今日は庭園全体の測量を行います。通路の幅、石畳の状態、排水の位置、それから高低差も確認してください」


「承知しました!」


 庭師たちが元気よく返事をする。


 エレノアは満足そうに頷いた。


「よし。測量は正確にな。適当に測ると、後で寸法が合わなくなるからな」


「はい、親方!」


「……ん?」


 エレノアの動きが止まった。


 今、誰かが妙な呼び方をしなかったか。


「今、親方って言ったのは誰だ?」


 一人の庭師が、そっと手を挙げた。


「わ、私です」


「なんで親方なんだ?」


「以前、温室の建設現場で作業員の方々がそう呼んでいるのを聞きまして……。エレノア様の指示は分かりやすいですし、現場をまとめるお姿も立派でしたので、つい」


「いや、俺は伯爵令嬢だぞ?」


「もちろん存じております!」


「なら、お嬢様でいいだろ」


「ですが、現場では親方と呼んだ方が気合いが入るといいますか……」


 庭師は困ったように頭をかいた。


 エレノアは腕を組んだ。


「まあ、仕事がやりやすいなら好きにしろ。ただし、測量は正確にな」


「はい、親方!」


「おい、そこは返事だけでいいんだよ!」


 マリアが額を押さえた。


「お嬢様……。王宮の庭師にまで親方と呼ばれるようになってしまいましたね」


「別にいいだろ。呼び方より仕事の中身だ」


「そういう問題ではありません!」


 そんなやり取りをしながら、測量が始まった。


 エレノアは作業員たちと一緒に庭園を歩き、巻尺で通路の幅を測っていく。


「ここは二メートル弱か。人がすれ違うには少し狭いな」


「普段は問題ないのですが、使節団が来ると混雑するかもしれません」


「なら、拡張できるか確認しよう。隣の花壇を全部潰す必要はない。通路の曲がり角を少し変えるだけでも改善できるかもしれない」


 エレノアは図面に寸法を書き込んだ。


 次は石畳だ。


 彼女は石の表面だけでなく、目地や周囲の土の状態まで確認する。


「この辺りは雨水が集まってるな。地面の高さも測っておこう」


「そこまで調べるのですか?」


「当然だろ。表面だけ直しても、下に問題があればまた壊れる。原因を調べずに補修するのは、金を捨てるようなもんだ」


 作業員たちは真剣な顔で頷いた。


 その言葉に、庭師長も感心した様子だった。


「なるほど……。これまでは石が傷んだら交換することばかり考えていました」


「石が悪いとは限らないからな。水が原因なら、先に水の流れを直す必要がある」


「勉強になります!」


「いや、まだ調査中だ。結論を出すのは、全部確認してからだぞ」


 エレノアは念を押した。


 測量は順調に進んでいた。


 ところが、噴水の裏側を調べていた作業員から声が上がった。


「親方! こちらを見てください!」


「どうした?」


 エレノアが駆け寄ると、作業員が植え込みの一角を指差した。


 地面に、古い石の縁が見えている。


「これ、何かの基礎でしょうか?」


 エレノアはしゃがみ込んで、周囲の土を慎重に払った。


 すると、石が一直線に並んでいるのが分かった。


「……こりゃ、何かあるな」


「以前からあったのでしょうか?」


「分からん。庭師長、昔の庭園の図面は残ってるか?」


「古い資料なら、王宮の記録庫に保管されているはずです」


「よし。確認してくれ。勝手に掘り返すのはなしだ。何の構造物か分からないうちは、周囲を傷つけないようにしよう」


「承知しました!」


 エレノアは石の位置を図面に記録した。


 庭園の下に、何かが埋まっている。


 古い排水路か、それとも以前の庭園設備か。


 今の段階では判断できない。


 しかし、こういうものを見つけたときこそ、慌てずに調べる必要がある。


「面白くなってきたな」


「お嬢様、面白がっている場合ではありません!」


 マリアがすかさず突っ込んだ。


「いや、こういうのは大事だぞ。昔の構造を把握できれば、今回の工事にも役立つかもしれない」


「それはそうかもしれませんが……」


 そのとき、庭園の入口から王太子が歩いてきた。


「エレノア嬢。測量は順調か?」


「はい。通路や排水の問題を確認しているところです。それと、こちらに古い石組みが見つかりました」


「石組み?」


 王太子は地面を覗き込んだ。


「これは……見覚えがないな」


「昔の庭園の設備かもしれません。記録を確認してから、必要なら詳しく調べます」


「分かった。記録庫の使用許可はこちらで出そう」


「ありがとうございます」


 王太子は庭園を見渡した。


 庭師たちは巻尺を持ち、職人たちは測量の結果を記録している。


 その中心で、鉄兜をかぶったエレノアが指示を出していた。


「……ずいぶんと活気があるな」


「親方の指示が分かりやすいので、作業が進むんです!」


 近くにいた庭師が、誇らしげに答えた。


「親方?」


「はい! エレノア様のことです!」


 王太子は、ゆっくりとエレノアを見た。


「君はついに、庭師たちからも親方と呼ばれるようになったのか」


「本人たちが勝手に呼んでいるだけです」


「君はそれでいいのか?」


「仕事に支障がないなら、別に構いません」


「そうか……」


 王太子は苦笑した。


 そして、ふと思いついたように尋ねた。


「ところで、今回の庭園改修が終わったら、次は何をするつもりだ?」


「まずは庭園を完成させます。その後は、温室の運用状況を確認して、必要な改善を行います」


「その次は?」


「……まだ決めていませんが」


「本当か?」


「本当です」


 エレノアはきっぱり答えた。


 王太子は少し安心したように頷いた。


「それならいい。君が次々と新しい計画を持ち出すものだから、こちらも心の準備が必要でね」


「殿下。計画は必要になったら立てるものです」


「その必要が、君の場合は次から次へと生まれるんだが……」


 王太子のぼやきは、庭園の風に流されていった。


 昼過ぎ。


 測量が一通り終わると、エレノアは集めた記録を整理した。


 通路の幅。


 石畳の沈下。


 排水の位置。


 地面の高低差。


 そして、正体不明の石組み。


「よし。今日の調査結果をまとめよう。明日は記録庫で古い図面を確認する」


「親方、明日もよろしくお願いします!」


 庭師たちが声を揃えた。


「おう。今日の記録はなくすなよ。せっかく測った寸法が分からなくなったら、全部やり直しだからな」


「はい!」


 エレノアは図面を大切にしまった。


 こうして、王宮の庭園改修は次の段階へ進む。


 しかし、庭園の地下に眠っているものが何なのか。


 それを知るのは、もう少し先の話だった。




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