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46歳の土方のオッサンが転生したら超美麗な伯爵令嬢に  作者: 山田✴ソラ


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第17話 伯爵令嬢、王宮の庭園を改造する


 温室の試運転が始まってから、数日が経過した。


 エレノアは朝から鉄兜をかぶり、温室の中を歩き回っていた。


「温度よし。湿度よし。排水よし。植物の状態も……まあ、今のところ問題なしだな」


 手帳に記録をつけ、鉢植えの葉を確認する。


 その隣では、王宮の庭師たちが忙しそうに働いていた。


「エレノア様! 南方の薬草ですが、昨日より葉の色が良くなりました!」


「そうか。水やりの量は変えたか?」


「はい。昨日は少し減らしました」


「よし。その調子で記録を続けてくれ」


 エレノアは満足そうに頷いた。


 建物は建てて終わりではない。


 使いながら問題点を探し、改善していく。


 それが現場の基本だ。


 そんな彼女のもとへ、庭師長が慌てた様子でやってきた。


「エレノア様、大変です!」


「どうした? 温室が壊れたのか?」


「いえ、建物に問題はございません。陛下から、新たなご依頼が届きました」


「新しい現場か?」


「はい。王宮の庭園についてです」


 庭師長が差し出した書状を、エレノアは受け取った。


 そこには、王宮の庭園をより美しく整備したいという国王の意向が記されていた。


 来月には他国の使節団が訪問する予定らしい。


 それまでに庭園を整え、完成した温室も披露したいという。


「なるほど。来客に合わせた整備ってわけか」


「はい。陛下は、エレノア様に庭園全体の改善案を考えてほしいとお考えです」


「分かった。まずは現地確認だな」


「今すぐですか?」


「現場を見る前に図面だけで判断するわけにはいかないだろ」


 エレノアは手帳と巻尺を手に取った。


 そして、いつものようにマリアを振り返る。


「マリア、行くぞ」


「はいはい……と言いたいところですが、お嬢様。その鉄兜は必要でしょうか?」


「必要だ」


「庭園の確認ですよ?」


「庭園だって現場だ。石畳もあるし、枝も落ちてくる。安全第一だろ」


「……かしこまりました」


 マリアは、もはや反論しなかった。


 王宮の庭園は広かった。


 整えられた芝生、花壇、噴水、石畳の通路。


 遠目には美しい庭園だったが、エレノアの目には別のものが映っていた。


「そこの石畳、少し沈んでるな」


「えっ?」


 庭師長が足元を見た。


 エレノアはしゃがみ込み、石畳の端を指で押した。


「ほら。こっちが浮いてる。下の土が流れてるんじゃないか?」


「確かに、雨のあとに水がたまる場所ではあります」


「排水が悪いんだな。ここは一度、石を外して下を確認しよう」


 彼女は手帳に書き込んだ。


「それから、あっちの通路。幅が狭いな」


「普段は庭師が通る程度ですので、問題はございませんが……」


「使節団が来るんだろ? 人が大勢歩くなら、すれ違える幅が必要だ。車輪付きの荷車も通れるようにしたい」


「荷車まで考慮するのですか?」


「花や道具を運ぶだろ。人力で何度も往復するのは大変だぞ」


 庭師長は感心したように頷いた。


 さらに奥へ進むと、エレノアは噴水の前で足を止めた。


「この噴水、給水はどこから?」


「地下の水路からです」


「排水は?」


「……確認したことがございません」


 エレノアは庭師長を見た。


「水を出すことばかり考えて、流れた水の行き先を確認してないのか?」


「も、申し訳ございません!」


「いや、責めてるわけじゃない。今分かったんだから、これから確認すればいい」


 エレノアは噴水の周囲を歩き、排水口を探した。


 やがて、植え込みの陰に隠れた小さな溝を見つける。


「ここか。落ち葉が詰まってるな」


「確かに、掃除が行き届いておりませんでした……」


「定期的に掃除できるようにしよう。排水口も見つけやすい位置にした方がいい」


 彼女は手帳に、また一つ改善項目を書き加えた。


 その後も点検は続いた。


 花壇の水やりがしにくい場所。


 庭師の道具を置く場所が足りない区画。


 日陰が少なく、夏場の作業が厳しそうな通路。


 来客用の道が分かりにくい場所。


 見れば見るほど、改善すべき点が見つかった。


 マリアが、とうとう声を上げた。


「お嬢様! 何項目まで増えるおつもりですか!」


「まだ分からん。全部見てから決める」


「最初は庭園を整えるだけのお話だったのでは?」


「整えるんだよ。使いやすく、安全にな」


「その結果、庭園全体の工事になるのですね……」


「必要ならな」


 エレノアは真顔だった。


 そこへ、王太子が護衛を連れてやってきた。


「エレノア嬢。庭園の確認はどうだ?」


「問題点がいくつか見つかりました。石畳の補修、排水の改善、通路の拡張。それから庭師の作業場所も見直したいですね」


「……なるほど」


 王太子は手帳を覗き込んだ。


 そこには、びっしりと改善項目が書き込まれていた。


「これは、庭園を作り直すのと変わらないのでは?」


「全部を壊す必要はありません。使えるものは残して、問題があるところだけ直します」


「それなら安心だ」


「ただし、工事の順番は大事です。排水を直さずに石畳を敷き直しても、また沈む可能性がありますから」


「順番まで考えているのか」


「段取り八分、仕事二分です」


「それは君の国の言葉か?」


「……まあ、そんなところです」


 エレノアは誤魔化しながら、図面を取り出した。


「まずは測量して、現状の図面を作ります。その上で工事計画を立てます。使節団の訪問までに間に合わせるなら、早めに着手した方がいいですね」


「分かった。必要な人員と予算は手配しよう」


「ありがとうございます。では、資材置き場も確保していただけますか?」


「資材置き場?」


「石材や木材を置く場所です。搬入経路も必要ですし、作業員の休憩場所も用意したいです」


 王太子はしばらく黙った。


 そして、隣に立つ護衛へ小声で尋ねた。


「私は今、庭園の整備について話していたはずだよな?」


「はい、殿下」


「なぜ資材置き場と作業員の休憩所の話になっているんだ?」


「……私にも分かりかねます」


 エレノアは二人の会話を気にすることなく、手帳を閉じた。


「よし。明日から測量を始めよう」


「明日から!?」


 王太子とマリアの声が重なった。


 エレノアは不思議そうに首を傾げた。


「何か問題でも?」


「い、いや……問題はない」


 王太子は額に手を当てた。


 こうして、王宮の庭園改修計画が動き出した。


 その日の夕方。


 エレノアは自室の机に向かい、庭園の図面を描いていた。


 マリアが紅茶を置く。


「お嬢様。本日はもう十分に働かれたと思いますが」


「まだ測量前だ。現状の図面を作る準備をしてるだけだよ」


「それを世間では仕事と呼ぶのです」


「そうか?」


「そうです!」


 マリアは強く言い切った。


 エレノアは少し考え、それからペンを置いた。


「分かった。今日はここまでにする」


「本当ですか?」


「ああ。明日は朝から測量だからな。早く寝ないと」


「……お嬢様!」


 マリアの悲鳴が、伯爵令嬢の部屋に響いた。


 休むことにしたはずなのに、結局、明日の仕事の段取りを考えている。


 エレノア・フォン・グランベル。


 彼女の辞書に、休日という言葉が載る日は来るのだろうか。




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