↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46歳の土方のオッサンが転生したら超美麗な伯爵令嬢に  作者: 山田✴ソラ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

16/28

第15話 伯爵令嬢、透明シートの取り付けで大騒ぎ


 王宮の庭園。


 朝から温室の建設現場は賑わっていた。


 組み上がった木製の骨組みを前に、職人たちが材料を運んでいる。


 今日の作業は、透明シートの取り付けだ。


 スライムを薄く伸ばして乾燥させ、蜜蝋で表面を加工した新しい建材。ガラスほどの透明度はないが、軽くて扱いやすく、温室の採光には十分な性能を持っている。


 エレノアは現場に到着すると、真っ先に材料置き場へ向かった。


「おっ、昨日の差し入れはこれか!」


 そこには、パンや焼き菓子、それに大きな籠に入った果物が並んでいた。


「騎士団の皆さんからです。昨日のお礼だそうですよ」


 マリアが説明する。


「気が利くじゃねえか!」


「お嬢様、まずは作業の確認をお願いいたします」


「分かってるって。腹ごしらえも大事な段取りだろ」


「朝食はもう召し上がりましたよね?」


「現場に来たら腹が減るんだよ」


「……そうですか」


 マリアは、もはや反論する気力もなかった。


 エレノアは焼き菓子を一つ手に取ると、職人たちにも声をかけた。


「お前らも休憩時間に食えよ。差し入れはありがたくいただこうぜ」


「ありがとうございます、親方!」


 職人たちの返事が揃った。


 その後ろで、騎士団の若い隊員が小さく呟いた。


「……本当に親方と呼ばれているんだな」


「聞こえてるぞ」


「す、すみません!」


「別に怒ってねえよ。ほら、仕事を始めるぞ!」


 作業開始。


 透明シートは、職人たちが慎重に運んできた。


 薄く軽い素材だが、無理に引っ張れば破れる。固定する際にも、強く締めすぎないよう注意が必要だった。


 エレノアは見本を手に取り、全員に説明した。


「いいか。このシートはガラスと違って、力のかけ方を間違えると伸びたり破れたりする。取り付ける前に、端に傷がないか確認しろ」


「はい、親方!」


「固定金具も、強く締めればいいってもんじゃねえ。押さえる力が偏らないようにするんだ」


 職人の一人が質問した。


「では、どの程度の力で締めればよいのでしょうか?」


「そこは試験して決める。素材の厚さによっても違うからな。まずは端材で確認だ」


 エレノアは、用意していた小さな試験片を取り出した。


 金具で固定し、少しずつ力を加える。


 シートがずれないか。傷が入らないか。固定部分に無理がかかっていないか。


 職人たちは真剣に見守った。


「よし。この方法ならいけそうだな。実際の取り付けでも、最初の一枚は慎重に確認しながら進めるぞ」


「分かりました!」


 作業員たちは、シートを骨組みに合わせていった。


 ところが。


「親方! ちょっと来てください!」


 職人の声が響いた。


「どうした?」


「シートの端が、うまく合いません!」


 エレノアはすぐに駆け寄った。


 取り付けようとしているシートが、枠の一辺から少しだけはみ出している。


 職人は困った顔をしていた。


「寸法は確認したはずなのですが……」


「シートを無理に引っ張るな。まずは一度、外して確認しよう」


 エレノアは枠の寸法を測り直し、シートの幅も確認した。


 そして、原因に気づいた。


「こりゃ、枠の内側じゃなくて外側の寸法を基準にしてるな」


「えっ?」


「図面には両方の寸法が書いてある。どっちを使うか、取り付け方法と合わせて確認しなきゃ駄目だ」


 職人は顔を青くした。


「申し訳ありません、親方!」


「謝るのは後でいい。今分かったんだから、次から間違えなきゃいいんだ」


 エレノアは図面を広げ、必要な寸法を整理した。


「取り付け用の寸法を、別に分かりやすく書いておこう。シートの大きさも規格を決めておけば、量産するときに楽になる」


「なるほど……」


「同じ失敗を何度も繰り返さない仕組みを作る。それも現場の仕事だ」


 職人たちは深く頷いた。


 その様子を見ていた騎士隊長が、感心したように言った。


「失敗した者を責めるのではなく、失敗が起こりにくい方法を考えるのですね」


「そりゃそうだろ。人間なんだから、間違えることもある。大事なのは、同じ間違いを繰り返さないことだ」


 騎士隊長は、何度も頷いていた。


 どうやら、騎士団にも持ち帰りたい教訓だったらしい。


 昼過ぎ。


 問題を解決した職人たちは、再びシートの取り付けに取りかかった。


 今度は寸法を統一し、端から順番に固定していく。


 最初の一枚を取り付けたところで、エレノアは少し離れた場所から全体を確認した。


「よし。歪みもねえし、固定も問題なさそうだな」


「親方、次のシートも取り付けてよろしいですか?」


「その前に、固定部分をもう一度確認だ。問題がなければ次に進め」


「はい!」


 作業は順調に進んでいった。


 透明シートが一枚、また一枚と取り付けられ、木の骨組みが少しずつ温室らしい姿へ変わっていく。


 やがて、庭園の責任者が嬉しそうに近づいてきた。


「エレノア様! 外からでも中が見えるようになりました!」


「おう。光の入り方も確認しようぜ」


 エレノアは温室の中に入り、壁や屋根を見上げた。


 日差しは十分に入っている。


 ただし、透明シートを通した光は、普通の窓ガラスを通した光とは少し違う。


「植物を置く前に、しばらく温度を測ろう。朝と昼、それから夕方でも変わるはずだ」


「そこまで調べるのですか?」


「当たり前だろ。日差しが入れば温室の中は暖かくなる。でも、暖かくなりすぎても植物にはよくねえ」


「なるほど……」


「温度計を置く場所も決めるぞ。入口付近だけ測っても、奥の方がどうなってるか分からねえからな」


 庭園の責任者は、慌てて手帳を取り出した。


「記録を取るための帳面を用意いたします!」


「頼む。毎日同じ時間に測ってくれ。できれば天気も記録しておくといい」


「承知しました!」


 エレノアは満足そうに頷いた。


 建物を造って終わりではない。


 実際に使い、問題がないか確かめる。


 それが、彼女の考える仕事だった。


 夕方。


 透明シートの取り付けは、予定していた範囲まで完了した。


 エレノアは温室の外に立ち、完成に近づいた建物を眺めていた。


「よし。今日はここまでだな」


「親方、お疲れさまでした!」


 職人たちが声を揃える。


 騎士たちも、すっかり現場の雰囲気に馴染んでいた。


「エレノア様。明日もお手伝いに来てもよろしいでしょうか?」


 騎士隊長が尋ねた。


「警備に支障がなければ、頼む。あとは無理のない範囲でな」


「ありがとうございます!」


 隊長は嬉しそうに頭を下げた。


 その様子を見ていたマリアは、遠い目をしていた。


「……王宮の騎士団が、いつの間にかお嬢様の工事を楽しみにしているなんて」


「いいことじゃねえか。仕事は協力してやった方が早い」


「そうかもしれませんが……」


 マリアは温室を見上げた。


 美しい透明な壁。


 木の骨組みも整っており、庭園の景色にもよく馴染んでいる。


 そこには、これまで王宮で見たことのない建物が形になりつつあった。


「お嬢様。完成したら、きっと素晴らしい温室になりますね」


「まだ完成じゃねえよ」


「えっ?」


「これから植物を入れて、温度や湿度を確認する。排水も、雨が降ったときに問題がないか見なきゃならねえ。使い始めてからが本番だ」


「……そうでしたわね」


 マリアは苦笑した。


 この令嬢にとって、建物の完成とは、単に見た目が出来上がったことではないのだ。


 実際に使えること。


 安全であること。


 そして、長く使い続けられること。


 それらすべてが揃って、ようやく完成なのだろう。


 エレノアは道具袋を肩にかけた。


「さて、明日は温度計の設置と、換気の確認だな」


「お嬢様。明日も朝からですか?」


「そりゃそうだろ」


「……せめて、朝食はゆっくり召し上がってくださいませ」


「現場に出る前に食えばいいだろ」


「そういう意味ではございません!」


 マリアの声が、夕暮れの庭園に響いた。


 こうして温室は、完成へ向けて一歩ずつ進んでいく。


 しかし、翌日。


 温室の中に設置した温度計を確認したエレノアは、予想外の数値を目にすることになる。


「……おい。ちょっと待て」


 彼女は鉄兜を押さえながら、温室の中を見回した。


「これ、昼間はかなり暑くなるぞ」


 温室の建設は、次の問題へと進もうとしていた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。