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46歳の土方のオッサンが転生したら超美麗な伯爵令嬢に  作者: 山田✴ソラ


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第14話 伯爵令嬢、王宮の騎士を現場作業員にする


 王宮の庭園。


 温室の基礎工事は、予定どおりに進んでいた。


 地盤を確認し、排水の経路を整え、基礎を設置する位置も決まった。


 職人たちは、エレノアの指示に従って作業を進めている。


 そして本日、いよいよ温室の骨組みを組み立てることになった。


「よし。材料は揃ってるな?」


「はい、親方! 木材、金具、固定用の部品、すべて確認済みです!」


「寸法は?」


「図面と照合しました!」


「よし。じゃあ、組み立てに入る前に、もう一度だけ確認だ」


「またですか、親方!」


 職人の一人が思わず声を上げた。


 エレノアは鉄兜の下から、じろりと視線を向けた。


「おい」


「は、はい!」


「現場じゃな、確認を面倒くさがる奴から失敗するんだよ」


「……すみません!」


「謝る必要はねえ。覚えときゃいい」


 エレノアは木材の束を指差した。


「長さが合ってるか、傷んでる部分がないか、金具の数は足りてるか。組み始めてから足りねえって気づいたら、作業が止まるだろ」


「おっしゃるとおりです、親方!」


 職人たちは一斉に返事をした。


 その様子を少し離れた場所から見ていたマリアが、深いため息をついた。


「……もう、誰もお嬢様を伯爵令嬢として扱っていませんわ」


「いいことじゃねえか。仕事が進む」


「そういう問題ではございません!」


 骨組みの組み立てが始まった。


 温室の柱は、透明なシートを取り付けられるように設計されている。今回は試験区画なので、建物の大きさも材料の量も、今後の本格的な建設に比べれば控えめだ。


 それでも、組み立てには複数の職人が必要だった。


「柱を立てるぞ! 支える者は位置につけ!」


「はい!」


「固定するまでは手を離すなよ!」


 エレノアは作業を見守りながら、次々と指示を出していく。


「そこ、柱が少し傾いてる!」


「えっ?」


「垂直を確認しろ。目で見ただけで大丈夫だと思うな!」


 職人が道具を使って確認すると、確かにわずかな傾きが見つかった。


「親方、直しました!」


「よし。次だ!」


 作業は順調だった。


 しかし、問題は屋根の骨組みに取りかかったところで起きた。


 柱と柱をつなぐ横木が、想定していた位置までうまく持ち上がらないのだ。


「おかしいな。図面どおりの寸法なんだが……」


「こちら側を持ち上げれば、反対側がずれます!」


「力任せにやるな! 一度下ろせ!」


 エレノアが声を上げた。


 職人たちは慎重に横木を下ろした。


 彼女は柱の位置、固定金具、横木の寸法を順番に確認していく。


「……なるほどな」


「原因が分かったんですか、親方?」


「いや、まだ断定はできねえ。けど、柱の位置と金具の取り付けをもう一度確認する必要がある」


 エレノアは周囲を見回した。


 横木を持ち上げる作業には、もう少し人手が欲しい。


 職人たちだけで無理に作業を続けるわけにもいかない。


 彼女はふと、庭園の入口に目を向けた。


 そこには、王宮を警備する騎士たちが立っていた。


「……あいつら、暇そうだな」


「お嬢様?」


 マリアが嫌な予感を覚えた、その瞬間。


「おーい! そこの騎士さんたち!」


 エレノアが大声で呼びかけた。


 騎士たちが一斉に振り向く。


「こちらへ来てくれ!」


「はっ!」


 呼ばれた騎士たちは、何事かと駆け寄ってきた。


 そして、鉄兜をかぶった美しい令嬢を前に、姿勢を正した。


「エレノア様。何か御用でしょうか?」


「ちょっと人手が足りねえ。手伝ってくれ」


「……手伝い、ですか?」


「そうだ。あの横木を支えるのを手伝ってほしい」


 騎士たちの視線が、組み立て途中の温室へ移った。


 彼らは互いに顔を見合わせた。


「我々は警備の任務中なのですが……」


「そうか。じゃあ、警備の責任者に確認してくれ。許可が出たら頼む」


「はっ!」


 エレノアはあっさり引き下がった。


 無理に仕事を押しつけるつもりはない。


 安全と役割分担は大切だ。


 ところが、騎士たちの一人が妙なことを言い出した。


「エレノア様。我々の隊長は、以前から貴女のことを気にかけておられます。事情を説明すれば、協力を認めてくださるかもしれません」


「そうか。じゃあ、頼んでみてくれ」


 騎士は敬礼すると、仲間を一人連れて走っていった。


 マリアは頭を抱えた。


「お嬢様……。まさか、本当に騎士様まで動員なさるおつもりですか?」


「許可が出ればな。人手が足りないなら、手伝ってもらえると助かるだろ」


「温室の工事なのですよ?」


「温室の工事だな」


「……もう何も申しません」


 しばらくして、騎士隊長がやってきた。


 立派な鎧を身につけた大柄な男で、いかにも歴戦の騎士といった雰囲気だ。


「エレノア様。部下から事情を聞きました」


「おう。急に悪いな」


「いえ、王太子殿下からも、貴女の仕事には協力するようにと話がありました。警備に支障がない範囲であれば、問題ありません」


「助かる。無理はさせねえから安心してくれ」


 隊長は温室を見上げた。


「しかし、我々は建築の経験がありません。お役に立てるでしょうか?」


「力仕事ができりゃ助かる。ただし、やり方はこっちの職人に聞いてくれ。勝手に動くのは禁止だ」


「承知しました!」


 こうして、王宮の騎士たちが温室建設に加わることになった。


 エレノアは作業内容を説明し、職人たちと騎士たちの役割を分けた。


「騎士さんたちは、指示があるまで横木を動かさない。合図を確認して、全員の動きが揃ってから持ち上げる。いいな?」


「了解!」


「職人たちは固定金具の確認だ。支えが安定するまでは、絶対に手を離させるなよ」


「はい、親方!」


 エレノアの指示で、作業が再開された。


 今度は無理に持ち上げず、柱の位置を調整し、固定金具を確認してから作業を進めた。


 やがて横木は、予定していた位置に収まった。


「よし! 固定を確認しろ!」


「固定できました!」


「傾きは?」


「問題ありません!」


「よし、次に進め!」


 エレノアが頷くと、職人たちから歓声が上がった。


 騎士たちも、どこか誇らしげな顔をしている。


「これはなかなか、やりがいがありますな!」


 騎士隊長が笑った。


「普段の訓練とは違いますが、仲間と息を合わせる点では同じです」


「そうだな。どんな仕事でも、連携が取れなきゃうまくいかねえ」


 エレノアは満足そうに頷いた。


 そのときだった。


「エレノア様!」


 庭園の入口から、王太子が現れた。


 そして、温室の骨組みを見上げ、目を丸くした。


「……騎士たちまで、何をしているんだ?」


 騎士隊長が姿勢を正す。


「殿下。エレノア様の温室建設に、人手を提供しております」


「人手を……?」


 王太子はエレノアに視線を向けた。


「君は、いつの間に騎士団まで動かせるようになったんだ?」


「いや、許可をもらっただけですけど」


「そういう問題なのかな……」


 王太子は苦笑した。


 そこへ、マリアが疲れ切った声で付け加えた。


「殿下。お願いですから、これ以上お嬢様にお仕事を増やさないでくださいませ」


「分かった。今は増やさないでおこう」


「今は、ですか……?」


 マリアの顔から、さらに表情が消えた。


 夕方。


 温室の骨組みは、予定していたところまで組み上がっていた。


 エレノアは作業を終えた職人たちと騎士たちを集めた。


「今日はご苦労さん。全員、道具と材料の数を確認してから片づけてくれ。使った道具を放置するなよ」


「はい、親方!」


 騎士たちまで、すっかり返事が揃っていた。


「明日も作業がある。疲れが残ってる奴は無理をするな。怪我をしたら元も子もねえからな」


 騎士隊長が、感心したように頷いた。


「エレノア様は、作業の管理まで徹底されているのですね」


「当たり前だろ。人が働くんだから、休むことも仕事のうちだ」


 その言葉に、職人たちも騎士たちも深く頷いた。


 エレノアは最後に骨組みを見上げた。


 まだ透明なシートは取り付けられていない。


 完成までは、もう少し時間がかかる。


 それでも、建物の形が見えてきたのは大きな進歩だった。


「よし。明日は透明シートの取り付けだな」


 彼女は図面を丸め、道具袋を肩にかけた。


「お嬢様。明日は王宮の騎士団からも、手伝いを申し出る者がいるそうです」


 マリアが、半ば諦めた様子で報告した。


「そうか。助かるな」


「……騎士団の方々にまで、親方と呼ばれるようになったらどうなさるのですか?」


「別に困らねえだろ」


「私は困ります!」


 王宮の庭園に、マリアの悲鳴が響いた。


 そして翌日。


 温室の現場には、騎士団から差し入れまで届くことになる。


 その中身を見たエレノアが、思わず目を輝かせるのだった。


「おっ、こりゃいい差し入れだな!」


「お嬢様! 食べる前に、まずは作業の確認をなさってくださいませ!」


 温室の建設は、まだまだ続く。




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