8 盗賊ー1
リング
八 盗賊
ある日の午後、新太のもとに珍しい客が有った。それを見つけたのはルネだ。
ルネが庭の掃除や手入れをしていると、表の門扉の前でうろうろしている怪しい男がいた。
みすぼらしい服装ではなかったが、そうかと言って裕福そうでもない。
精悍な顔立ちをしていて、腰には短剣を携えていた。30代全般だろうか。
ルネが怪しみ、その男の近くへ寄って行くと、申し訳なさそうにお辞儀をする。
「何か、このお屋敷に御用ですか?」
するとその男は、その姿かたちに似合わず丁寧な言葉づかいで聞いてきた。
「こちらは、ロングバンテ様の御屋敷でございますか?」
「そうですが、何でしょうか?」
「あの、こちらにユウキ・アラタという名前の人がおいでになると思いますが、私はクレマン・ランベールと言う者です。お取次ぎをして頂く訳にはまいりませんでしょうか。」
ルネは、その名前に聞き覚えがあった。
あの日、王城から新太に連れられて初めてロングバンテ家へ来た時に、一緒に馬車へ乗っていたに男に違いない。そう言えば、その面影も記憶に残っていた。
「はあ、あのクレマン様でしたか。これは失礼いたしました。私は、あなたとは、一度お会いしています。」
そう言われてクレマンも、ルネの顔を改めて見ている。思い出したようだ。
「えっ、あの時の女の子?すっかり見違えてしまいました。」
そう言って、恐縮している。ルネは屋敷へ入って、クレマンの来訪を告げた。
新太はクレマンを、自分の部屋へ通すように言った。そこにはリリアも一緒に、茶を飲んでいる。
クレマンが部屋へ入って来た。若い女性が一緒だった事に驚いている。
ルネはクレマンにも茶の用意をしようと、その部屋にとどまっていた。
新太は、クレマンを椅子へ座らせると
「珍しいお方が訪ねて来られた。今日はどういった御用なのですか?」
と訊ねている。
クレマンは、話し出す前に、そっと新太へ耳打ちした。
「あの、このお二人はアラタさんの、あの不思議な魔法の力を知っているのですか?」
クレマンは、新太の事をまだ、魔法使いだと思っているようだ。
「ええ、知っています。もしそのお話なら、大丈夫ですから普通にお話しください。」
それを知って、クレマンは安心したようだ。饒舌に話し出した。
「実はギルドの依頼で、ある村へ護衛の仕事に行ったのですが・・・。」
そう切り出した。
「今年もその村は豊作で、収穫した作物やそれを金銀に代えた蓄えが豊富にあったのです。それを盗賊が狙い始めました。そこで、ギルドへ依頼して護衛役を雇いたいとの事で、私を含めて5人が護衛としてその村へ出向いたという訳です。」
クレマンは順を追って話すつもりでいたようだ。まだ話の本筋は見えてこない。
新太は黙って聞いていた。
依頼を受け、3日目の夜の事だ。クレマンたちが、村の入り口付近の小屋で見張っていると、10人程の賊が夜中に襲ってきた。忍び込むというのではなく馬に乗って松明をかざして、1軒の家に火を点けようとしている。
クレマンはそれを見つけると、その家に火を点けようとしていた馬上の男に襲い掛かった。一瞬遅く男の手から松明が放たれ、火は民家へと燃え移る。
クレマンは、馬の足を払い、男は地上へ転落する。他の護衛が、民家の火を消しにかかった。
男は怒って、クレマンに剣を向けた。
男は剣を振りかざして、クレマンに襲い掛かったが、クレマンはその剣を下から払って、返す剣で逆に男の肩口へ剣を振り下ろした。
百戦錬磨のクレマンの剣は、男を打ち取っていた。確かに手応えがあった。でもその男は、平気な顔をしている。
クレマンは一息ついて、話を続ける。
それでもクレマンたちは民家の火を消し、他の賊たちと応戦していく。
流石にギルドの護衛達だ。次々と賊を打ち負かしていったし、幸いなことに村にはその火災が一軒だけで、盗まれたものや攫われた娘などの被害は起きなかった。
最後に残ったのは、二人だけの賊になった。その一人が、最初に打ち取ったと思った男だ。クレマンは、再度その男と剣を交える。
今度は、相手も慎重になっている。怒りを抑え、じりじりと間合いを詰めて来た。
すると突然、地面を蹴って空中高く跳びあがったのだ。
クレマンは、《あっ》と声を上げて、驚いた。その高さはクレマンの頭を軽く越えている。その高さから、大剣を振り下ろしてきた。クレマンは必死で、その剣を受ける。
二つの剣はぎりぎりと音を立てての押し合いになったが、力勝負では、クレマンに軍配が上がった。
相手の体ごと後方へ押しやると、男の体がふらついた隙に、剣を相手の胸元に突き刺した。今度も剣は間違いなく賊の胸に突き刺さった筈なのに、その男はまたもや平気な顔をしている。今度も、確かに手応えはあった筈だ。
クレマンは、信じられないものを見たように、呆気に取られている。そうしている間にもう一人の男も倒れ、その男も諦めたようだ。
賊は逃げようとしていたが、クレマンもその男に渾身の力を振り絞って、剣を横殴りに振った。賊の男は、その剣の上を飛び越えてかわしてしまう。
そうして、近くの家の屋根へ飛び上がっていった。屋根の上までは4~5メートルは有るはずだ。それを難なく飛び上がるとは、通常ではありえない。
男はそのまま、逃げ去ってしまった。
そのクレマンの話は、新太が装着しているブレスレットの力に似ていた。
「あんな魔法のような力を見たのは、アラタさんの他には有りません。」
新太はその内容に驚いたが、それを隠して聞いた。
「それで私を疑ったのですか?」
「とんでもない。疑ったりはしていません。火災の火の明かりで男の顔は見ています。あの男は、アラタさんよりももっと年かさでした。」
「そうですか。それで、その時に何か感じませんでしたか。例えば、回りが少し明るくなったとか、何かに体が包まれていたようだったとか?」
シールドの存在を確認したかった。
「いいえ、そんな感じは無かったのですが・・・。それで、これは一度、アラタさんにお話ししておいた方がいいのではないかと思って、それでお訪ねしたんです。」
クレマン来訪の趣旨は分かった。新太には、もう一つ訊ねたい事が有った。
「それともう一つお聞きしたいのですが、その男は何か特殊な武器は使いませんでしたか?遠くから離れていても、武器を使わずに相手を倒すような?」
「いいえ、それは無かったですね。そういう魔法が有れば、私達も無事では済まなかったと思います。」
レーザーの装備はなさそうだった。
そんな話の中、リリアが突然口を開いた。
「これはミツキさんにも、知らせた方がよくないですか?もしかしたら、ミツキさんが何か知っているかも知れないから。」
それを聞いて、クレマンが質問して来た。
「ミツキさんとは、何方なのですか?」
新太の力を知っている者だと、察しがついたようだ。
新太は、クレマンにはまだ美月の事を話さない方がいいと思った。
言いにくそうにしている新太を見て、クレマンには分かったようだ。
「いえ、それはいいのですが、あの魔法の力は何処から来るものなのでしょうか?もし教えて頂けるようなら有り難いのですが。」
その質問にも答えられない。
「すみません、クレマンさん。此方でもう少し、調べさせて頂きます。今日はわざわざお知らせ頂いて、有難うございました。」
その後の雑談の後で、クレマンにはお礼のつもりで、銀貨と土産を持たせた。
「また何か、分かりましたらお知らせ頂けますか?私の方も、お話しできる時が来たらお知らせしたいと思っています。」
意味ありげな新太の言葉を背に、クレマンは帰って行った。
新太はアローに居た。美月と、盗賊が装備していたと思われるパーソナルシールドの事を話し合う為だ。事の顛末は、分かる範囲で知らせた。
美月はその上で言った。
「そのシールドと、跳躍機能は間違いなくブレスレットと同様な装置なのでしょう。でもそれをだれが造って、誰が渡して誰が使っているかは私には分からないわ。
心当たりがないから。ただ、あの装置は少しの知識が有れば、大抵は作る事が出来るのよ。」
美月は、新太が分かるように説明してくれているが、少しの知識で出来る、と言うのはどうだろう。
「レーザーが装備されていないようだったけど、それも説明ができますよ。レーザーはブレスレットから、手の甲の表面を伝わって行くから、その甲を伝わる時の一瞬に、人の体に与えるダメージは、それは凄まじいものなの。
ダメージと言える範疇を越えているわね。人の体を、焼けつくす位のエネルギーがその甲の上を走るのよ。少し電流に触れただけで人は痺れてしまうでしょ。
レーザーは、その何千倍ものエネルギーが発生するのよ。都合の悪い事にシールドの上は、そのエネルギーは伝わらないから、そのエネルギーが、人に作用しないようにするのに、何十年もの研究が必要だったの。
私達はそれを成し遂げたけれど、そんな研究をするより、レーザー銃を作る方がよほど簡単でしょ。だから、不可能とは言わないけれど、まず作らないわね。」
その賊は、レーザー銃も持っていなかったのであろう。持っていれば、それでクレマンたちを攻撃していた筈だ。
新太が、疑問に思っていた事を質問した。
「このパーソナルシールドだけれども、今までこのシールドで何度も助けられたよ。けど、どうにかすれば、このシールドも破られることが有るの?」
その答えも、美月は持っていた。
「悲しい事を云いますが、ハルトとミツキが乗っていたアローも、シールドを装備していたでしょ。でも、敵のレーサーと魚雷に破られてしまった。当然のことですが、シールドより強い力で攻撃されれば、このパーソナルシールドも破られてしまいますよ。
でも安心して。あのブラックボックスのエネルギーで、前よりも何十倍も威力は増しているから。」
そう言えばシャトルの魚雷も、あの砦と化した迎賓館を一発で壊滅させていた。
「それじぁ、盾と矛の問題じゃないけど、このレーザーで前のシールドを狙うとどうなると思う?」
「それは当然、シールドは破られるわね。」
ミツキの答えは簡潔だった。
クレマンが話していた盗賊の動向は、座っていても分からない。新太はクレマンを探すために、初めてギルドへ行ってみようと思った。
続きは明日。 討伐




