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7 紛争ー4

王の決断


アンバシド軍は渡山の疲れも見せず、意気盛んだった。セルレイ軍の数を見て、作戦勝ちだと確信したのだろう。戦闘が始まると、セルレイ軍を圧倒していく。


それでも、セルレイ軍も必死で抵抗する。乱戦になったが、多勢に無勢。

戦闘は丸一日続いて、付近はセルレイ軍兵士の屍に、埋め尽くされる事になってしまった。


雨は降り続き、その雨がセルレイ軍兵士の血を洗い流していく。

知らせを受けた西の守りの本隊が、急いでクラウドリーバを横切り戦場へ着く前に、既に戦闘は終わっていた。


本隊は戦場へ到着しても、まだ体制は整っていない。

河の向こうにアンバシド軍が盾を前に、槍を立てて整然と並んでいる。


軍旗が雨に濡れ、風になびいている。馬に乗った指揮官が、その並んだ兵列の少し後ろで何か叫んだ。


「大勢は決まった。セルレイ軍、降伏しろ。クラウドリーバは貰い受ける。」

セルレイの指揮官も、負けてはいない。


「何を言う。アンバシドは、今回の戦で二度も負けている。我が軍の力を思い知るがいい。」


すると、アンバシドの指揮官は勝ち誇ったように高笑いをした。

「いいのか?そんな強がりを言って、後を見てみろ。」


その時に、斥候の一人が指揮官に何かを伝えに来た。

「申し上げます。西の国境からも約1万のアンバシド軍が、こちらへ迫っています。我が軍は、挟み撃ちになっています。」


西の備えを固めていた本隊が、北へ転戦を始めたのを見定めて、それまで潜んでいたアンバシドの分隊が、西の国境を越えて追随して来ていたようだ。


指揮官の顔色が変わった。それが兵たちにも伝わったのだろう。一様にそわそわし始めた。指揮官は、大声で叱咤(しった)する。


狼狽(うろた)えるな。ここでセルレイの底力を見せないでどうする。陣営を整えよ。」

その声で、兵たちも覚悟を決めて戦闘態勢に入って行く。


一発触発の空気が、辺りを支配した。

ホルンが鳴らされ、進軍の太鼓が鳴らされようとしていたその時、アンバシドの指揮官は信じられない者を見た。


遠くで《まてーっ》と言う声を聴いたからだ。

雨に(かす)む中、白馬に乗って、赤に金糸の刺繡が施されたマントを羽織り、王冠を(かぶ)った男だ。


誰有ろう、アンバシドの王であるルイーズ・ルオンヌ、嵐のように雨風が強くなった中を、必死の形相で叫んでいた。


その隣には、同じように馬に乗り、紺の生地にアンバシドの紋章をあしらった国旗を手に持った従者も居る。河の手前、アンバシド軍の前を2騎で疾走してくる。


アンバシド軍の中央の最前列へ到着すると、疾走して来たにも(かかわ)らず息も切らせていない。その王が、セルレイの指揮官へ叫んだ。


「兵を引かれよ。我はアンバシドの王ルイーズ・ルオンヌだ。我が軍はこれから兵を引く。セルレイの領民、領土には一切手を付けない。後方の兵にも、そう伝えに走らせた。王の名において約束する。」


続けてアンバシドの兵たちにも、馬上から振り向いて叫んだ。

「皆の者も盾と槍を納め、帰途に就け。王の命令じゃ。セルレイ領内での狼藉は許さぬ、断罪だ。」


それを聞いた兵たちは、一斉に構えていた槍を立てて、直立不動の姿勢をとった。それを見届けた王は、ゆっくりと今来た道を帰って行く。その後には2万の兵が続いて帰還していった。


セルレイにとっては、吉報だった。

敵軍を二度も押し返し、国境の砦も壊したと聞いていたが、この先戦争が長引けば国力の差が顕著になる。そうなっては、ますます苦境に立たされることになってしまう。


なぜ、アンバシド軍が撤退したのかは、不明だったが色々な憶測が流れだしていた。一つは、天変地異。例の西の砦が壊れたのは、大きな地震が原因だという説だ。それだけではなく、国のあちこちで大きな被害が出たようだとの噂も出た。


一つは、国内の政変。戦争の裏で、貴族や領主の裏切りが発覚して、国王の地位が危うくなった、そんな流言飛語だった。


ところがその地位が怪しくなった、と噂されたアンバシド国王ルイーズ・ルオンヌから、セルレイ国王へと後日になって親書が届いた。


その内容は、侵略を始めたのは王ではなく、宰相のバンサン・ボードリーで、王には無許可で始めたと説明が有った。


バンサン・オードリーは、その地位を不動のものにするためや、クラウドリーバの穀倉地帯を含むその一帯を征服し、自分の領地とする目論見が有ったとしていた。


王は、その上でバンサン・ボードリーを解任し、既に斬首の刑に処したとも書かれてあった。


さらに、その件が露見したのは、セルレイ国のユウキ・アラタと言う若者が、国王に謁見して真相を調査するようにとの進言をしたからだ、と有り、国王とユウキ・アラタは後日になって親交を結び、セルレイ国への補償も支払うと約束する仲になったと記載されていた。


その親書が渡された数日後、アンバシド国から大使が来訪し、補償金を携えてセルレイ国王に謁見した。こうして、両国は和解し改めて国交を結ぶこととなった。


これらは、ロングバンテ家と所縁(ゆかり)が深いアド・ウィストリア卿によって、知らされたのだった。


そうした一連の出来事が終息した後で、ロングバンテ家に戻っていた新太は、またまた王家へと召喚された。今度は国王自らの謁見だった。


初めて国王の前に立った新太は、緊張で足が震えた。アンバシド国王には何の躊躇もなく接近しただけではなく、誘拐して話もしたのにだ。


「ユウキ・アラタと言うのはそちか?」

国王は、50代のまだ壮年だった。ただ、髪は薄かった。新太は頭を下げた。


「今回、アンバシド国王からアラタの活躍は聞いた。戦争の被害を最小限に収めてくれて、なお且つ補償金まで勝ち取ってくれた。礼を申す。この後は、貴族たちとの晩餐会が予定されている。ゆっくりと楽しむがいい。」


そう言っただけだったが、何故か新太は感激していた。惑星と国は違っていたが、父親と同じように国王に謁見した、と言う事実が感激させたのかも知れない。


その晩餐会の席上に、リリアの姿も有った。

二人は酒を飲みダンスを踊り、貴族や官僚の称賛を浴びていた。


すると、宰相のクリスチーヌ・カステルが新太に近寄ってきた。

「アラタ殿、私を覚えておいでですか?」


笑顔だった。それに前回会った時よりも、丁寧な言葉遣いのように思われる。

新太も笑顔で応じた。


「はい、カステル宰相。よく、覚えております。その節は大変お世話になりました。」

そう挨拶を返す。


「隣のご令嬢は、婚約者ですか?」

酒のせいか、新太の顔が赤くなった。


「いいえ、婚約はしておりません。恋人です。」

臆面もなく、恋人だと明言した。


この世界では、婚約をしなければ交際を許されていないらしい。

「ほおー。婚約をされていないのに、交際をしていると?父上は、それを許されておられますのか?」


今度は、リリアに問いかけた。リリアの父が、ジェルマン・ロングバンテであることは承知しているようだ。


「はい。父は寛大な人です。それにアラタを信頼していますから。」

そう答えている。宰相は、本題に入ろうとしていた。


「ところでアラタ殿。アラタ殿とロングバンテ家には、大層な迷惑をかけました。」

今回の戦争における、理不尽な苦情についてのようだ。


「いいえ、とんでもない事でございます。王室からのご命令であれば、それに従わなくてはと、主人のロングバンテも申しておりました。」


「それについては、正式に私の方から撤回させて頂きます。納められた徴収金も、直ぐに変換します。


実は、私の監督不行き届きでもあったのですが、あの苦情は執政官長のオレリアン・ブーレーが、勝手に命令書にサインをして提出していたようなのです。


今回、このようになって戦後処理を行っていたところ、その命令書が出て来てこれはどういうことかと問い合わせてみたのです。」


ブーレーは、その賠償金を自分の懐へ入れていたようだ。

「そう言う事で、ブーレーは免職にしました。私にも何らかのペナルティを課すつもりでいますから、それでご容赦ください。」


カステル宰相は、軽くであったが頭を下げた。


「いいえ、カステル宰相へのご処分は不要だと考えます。それより早速、ロングバンテに伝えさせて頂きます。きっと喜ぶに違いありません。」


こうして、晩餐会の夜も更けていった。


続きは明日。 八 盗賊

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