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7 紛争-1

隣国の侵略


            七     紛争


 あの冒険が終わってから、半年が経とうとしている。近頃はリリアとルネの仲もすこぶるいい。ルネは、何やかやと新太の世話をしてくれる。


それを見て、リリアがやきもちを焼く事も有るが、その後でリリアが必ず新太に甘えて来る。それで時々、母親のエレオノールにたしなめられている。


そんな平常が戻っていたある日、ジェルマンが経営している商社に、王都からクレームが来た。その報をもたらしたのは、今度もあのアド・ウィストリア卿だった。


事の始まりは、新太も同席した最初の商談だった。隣国アンバシドの迎賓館建設の入札の件だ。

あれから、迎賓館は滞りなく建設がすすめられ、引き渡しも済んでいる。


その請け負った報酬も、何の障害もなく受け取っている。いまさら、王都からクレームが来る余地は無いと思われた。

用向きを詳しく聞くと、あまりにも理不尽なクレームだった。


執務室に訪れたアド・ウィストリア卿が、困惑した顔でジェルマンと対峙している。

新太も、あの入札に携わっていた事から同席をしていた。


アド・ウィストリア卿が話し出した。

「王城の執政長官を務めているオレリアン・ブーレーという方が、今度の苦情の発端のようです。」


新太はあの漂流者の件で、オレリアン・ブーレーと言う人を、思惑があってのことだったが、無視してしまった事を思い出していた。


「隣国アンバシドの迎賓館を請け負って、建造したのはジェルマン殿で間違いないのですね?」

「それは間違いのない事です。」


ジェルマンが答えた。

「ブーレー執務長官が言うには、その迎賓館が迎賓館としての役目を果たしていないというのです。」


「それが何か、問題なのですか?アンバシドの都合なのではないのですか?」

苦情の意味がつかめない。


「現在、その迎賓館は、兵士の宿舎や武器の貯蔵庫になっているという事のようです。」

ジェルマンは、なんとなく苦情の内容がつかめて来た。


アド・ウィストリア卿は、ジェルマンに遠慮してか、歯切れが悪い。ジェルマンが、ウィストリア卿に訊ねた。


「今、我が国とアンバシド国との関係が良くない事と、何か関係が有るのですか?」


「ええ、はっきり申し上げますと、あの迎賓館は国境近くに建てられていますから、我が国に対する最強の砦になりうる、と言うのです。」


やはりそうかと思う反面それでも、なお疑問が残る。

「でもそれはそうとして、何故、私どもに苦情が来るのでしょうか?」


「はぁー、其処が理不尽なところですね。商人ともあろう者、先を見越して我が国に不利益な建物は建てるべきではなかった、と言うのが趣旨のようです。」


とんだ濡れ衣だ、ジェルマンは思った。あの時点で、セルレイとアンバシドの紛争が起こり得るとは、誰も予想をしていない。


「それで、私どもにどうしろと言うのです?」

「ええ、もし両国がこの先戦争になって、この国に被害が出るような事が有れば、その費用の一部を負担しろ、という事のようです。」


要するに、戦争費用を出せ、という事のようだ。

ジェルマンは、あまりの事に笑いそうになってしまった。


利益に対しての税金は、滞りなく納めている。労働使役も協力をしている。

王室とは良好な関係だと思っていた。


これは命令になっているが、なんで今になって、こんな理不尽な要望を言い出してきたのか分からない。


横で聞いていた新太が、口を開いた。

「あの、お話をさせて頂いても構いませんか?」

先にそう断わった。


「ああ、構わないから、思う所が有ったら話してみなさい。」

ジェルマンが答えた。


「実は、ルネを預かる話になった時、ルネと会話が出来た事で、その会話やあの地図の内容が執政官や執政長官では判断が難しすぎるだろうと考えて、宰相のクリスチーヌ・カステル様に直接話をさせて欲しいと、そのブーレー執務長官に言ってしまった事が有ります。


その時に、ブレード殿に舌打ちされたように思いましたので、その趣旨返しも有るのだと思います。そうだとすれば、これは私の責任です。大変申し訳ありません。」


新太は頭を下げたが、ジェルマンは少し考えて答えた。

「もしそうだとしても、それはアラタの責任ではない。私が何とかする、心配はしないように。」


そう諭すように言ってくれた。

それから、その話がどうなったのか、新太には分からない。


ただ、王都からの苦情が有り、要請が有ったとすれば、それに従うほかは無い。理不尽この上ないと思われてもだ。

ジェルマンの商社にとっては、多大な損失になるに違いなかった。



 その話から又、半年が経った。隣国アンバシドが、あの迎賓館を中心とした地域に大軍を集めている、という情報が入って来た。


もし、最初に狙われるとしたら、国境に近いクラウドリーバと言う町だろう。セルレイ国には、アンバシドに対する侵略の意図がない。その事は、何度も交渉をして、アンバシド側も分かっているはずだ。


それが進行してくるという事は、アンバシド側の侵略に他ならない。国力はアンバシドが(まさ)っていた。

兵の総数もセルレイが6万に対して、アンバシドは10万の兵士を揃えている。


まともに戦えば、長い戦争になりアンバシドが有利だと思われてきた。

そのアンバシドは、クラウドリーバの穀倉地帯を狙っている。


クラウドリーバは、豊かな土地が広大に有り、交通の要所に位置している。

もしそこを占領されれば、セルレイとっては喉元に(やいば)を向けられたと同然になってしまう。


セルレイの王都から、兵力を増強するために兵士の徴兵と、募集が掛けられた。若い新太にも徴兵ではなく募集として要請が来たが、新太は無視してルネと姿を(くら)ましてしまった。


ジェルマンは、新太が責任を感じて、あの力を使おうとしているのではないかと思っている。ただ新太は、リリアには信じて待つようにと、その趣旨を手紙に残していた。

リリアが、それを父ジェルマンに伝えているかどうかは分からない。



ついに、アンバシドが兵3万を擁してクラウドリーバへ侵攻してきた。セルレイの軍隊も、急遽クラウドリーバへ集結した。


現地には砦に匹敵する建物は無い。広大な平地が広がっているだけだ。今は農閑期になっているため、作物に被害は出ないだろうがその、食料が不足するかもしれないタイミングを狙って、侵攻してきたのだ。必然と野戦になる。


アンバシドを出発した兵列は、その数からしてクラウドリーバへ到着するまでに4日は掛かる。セルレイ軍は、その前に2万の兵をクラウドリーバへ集結させた。


セルレイ軍は4千の兵を5隊に分け、前面へ3隊、後方へ2隊という布陣を執っている。


そして、アンバシド軍とセルレイ軍は、ラウンドリーバの西30キロ地点の大草原で対峙した。


アンバシド軍の兵士は、手に盾と長い槍を持って、横と縦にそれぞれ100人が並んでいる。それと同じ隊列が、少し間を空けてその後ろにも2隊という布陣だった。


その大部隊が、平然と並んで進行し始めた。太鼓が歩く速さで鳴らされ、ホルンが高らかに進撃を告げている。太鼓の音に合わせて、隊列を崩す事無く一斉に動き始めた。


大軍の足音が不気味に迫ってくる。セルレイ軍は、その場で留まっている。

攻撃は、セルレイ軍から始まった。後方に待機していた隊列が、一斉に弓に矢を(つが)え、それを天空へと一斉に放射した。


無数の矢は空を埋め尽くすかのように、距離を違える事無くアンバシド軍の兵士の頭上へ雨のように降り注ぐ。


それを見た兵士たちは、揃って盾を頭の上へ(かざ)して防御していく。最前列の盾は前面へ立てかけ、全兵士が盾のバリアーの中に隠れた。


ほとんどの矢は敵軍の兵士には当たっていない。所々に負傷する兵士も見られたが、その隙間にはその後方の兵士が埋めていく。


そして、矢の雨が途切れるとまた前進してくる。両軍が衝突すれば、隊列を整え攻めて来るアンバシド軍にアドバンテージが有る。セルレイ軍の矢による攻撃は、何度となく繰り返されているが、あまり効果がない。


その間にはセルレイ軍と同様に、敵軍からも()(ぶすま)の応酬が有る。その犠牲になった兵士は何百人もいた。


敵軍の攻撃が速まってきた。太鼓の音が少しずつ速くなる。それにより、兵士たちの歩く速さも強まった。後50メートルで両軍が接触する、という距離に近づいた。


敵軍の兵士たちは、長槍を一斉に前へ出し始めた。



続きは明日。 破壊工作

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