第二十九話 刃を抜く覚悟
第二十九話
ただ刀を抜いただけだと思っていた。
殺傷性が高くなっただけで、俺は大したことないと鷹を括っていた。
だけど、実際は違った。
気づいた時にはもう、刃が喉元を迫っていた。
「――ッ?!」
既の所で横に避けることができた。
だが――
「……ガッ?!」
首元に鈍い打撃を受け、一瞬意識を失った。
刀に注意しすぎていたせいで、蹴りを入れてくるとは予想していなかった。
そして、隊長は俺が気絶した瞬間を逃すほど甘くはなかった。
俺の首めがけてその刃が振り下ろされる。
首に到達するまでわずかコンマ数秒。
絶体絶命の『死線』の間際、俺のなかの野生が吠えた――
「能力解放――『狂王の理』!!」
――――――――
鬼塚の首めがけて刀を振り下ろした直後、俺の刃は寸前で鬼塚に受け止められた。
「!?……やっとお前も本気を出したか。これは、今の俺を認めてくれたってことでいいんだな?」
「あぁもちろん……隊長のおかげで死にかけたからなぁ!!」
もちろん寸止めをするつもりだった。
だが、一切の油断なく、首を両断する勢いで斬ったつもりだったが、鬼塚は切傷一つもなく俺の刀を受け止めた。
なんだ、ただのバケモンか。
「こんなとこで負けたらもう隊長は名乗れないな」
次の瞬間、俺はフラッと後ろに体重をかける。
目の前を鬼塚の拳が通り過ぎた。
攻撃が単調すぎるんだよ。
「能力発動――『抑界』」
鬼塚の動きを抑え込む。
だが鬼塚は、それを上回る速度で旋回し、俺の顔面めがけて突きを放った。
鬼塚……お前の動きが手に取るようにわかるよ。
その程度の攻撃、予測していないわけがない。
後ろに倒れる前に、片足に力を込めてバネのように反発し、もう片方の足で回し蹴りを鬼塚の腹に決める。
一度だけでなく二度も剣士に体術で押し負け、鬼塚は苦悶の顔を浮かべている。
「俺も大概化け物だと思ってるけどさ、隊長もなかなかだぜ?」
「それは、こいつのおかげだからな」
実際そうだ。相棒がなければ、俺はコイツに身体能力で押し負けている。
だけど、どうしてだろう。
今も『天断』に生気を奪われ続けているはずなのに、なぜか体の内側から温かい力が湧き上がってくる。……疲労も痛みも、完全に消え失せていた。
だが、今はそれが好機だ。
「ちょっと力をつけたからって調子に乗んなよ?お前は昔のままだ」
「……」
これで決着をつける。
成功確率は、試したことがない。
けれど、抑界と組み合わせれば勝機はある。
まだ誰にも見せたことがないけど……
この技なら、鬼塚のあの硬さも破ることができる。
俺は抜刀の構えに入る。
呼吸を整え、今は相棒だけに集中する。
今持つすべての技術と力を、この一撃に叩き込む。
「必刀奥義――」
地を蹴り、鬼塚に詰め寄る。
刀が、鬼塚に迫る。
「『斬天一――』」
「そこまでです」
その時だった。
空間ごと全てを断ち切るはずだった俺の一撃は、いつの間にか割り込んだ鷹宮の、奇妙な小刀によって完全に受け止められていた。
「……は?」
そんな言葉しか出ない。
鬼塚も、唖然としている。
「お、おい!鷹宮!それはねぇぞ!せっかく隊長との一騎打ちを邪魔しやがって!」
一足先に我に返った鬼塚が抗議する。
「そんな状況ではなくなったのですよ」
鷹宮は、俺の方に振り向き、言葉を告げた。
「いいですか?隊長、落ち着いてください。先ほど、美雨さんが倒れたらしいです」
ドクン、と心臓が嫌な音を立てる。美雨の顔が脳裏によぎり、真っ白に染まって完全に途絶えた。




