第十九話 事の裏側
第十九話 事の裏側
隊長たちとの合流、三時間前――。
「定刻の一時間前に現着。……ふふ、あのお人好しの隊長でも、私のこの『早すぎる到着』は計算外でしょうね」
そう、私はこの日、偶然早い時間に集合場所に来ていた。
おそらく三十分後に鬼塚さんが来るので、それまで待ちましょうか。
プルルル……プルルル……
誰かからの電話だ。
「はい。こちら、天衡機関匿秘情報部所属、黒鋼隊の鷹宮透です」
『鷹宮、俺だ。急だが、すぐにこの廃工場に潜入して、月城の動向を探ってくれ』
そこで電話は切れる。
……全く、人使いの荒い上司ですね。
隊長の方がよっぽどマシですよ。
私は一足先に目的地の廃工場に向かった。
――――――――
「あれですね。月城は……」
私は月城の姿をとらえる。
このまま始末してもいいのですが、隊長たちがいないこの場で殺るのは、少しめんどくさそうです。
命令通り、月城の動向を探りましょうか。
――――――――
あれは、何をしてるんでしょう。
鉄骨を積み上げて……。
……ッ後ろから気配が――。
「キサッ……」
背後から迫る鼠を麻酔銃で即座に打ち抜く。
階下の月城は……ふむ、鉄骨のギミック設置に夢中で、こちらには一向に気づく気配もありませんね。
おそらく、今の奴は鉄骨を落とす係なのでしょう。
となると、どうしましょう。
まぁ、隊長たちが来た時に合図が来るでしょうし、その時に落としましょうか。
そのほうが面白いですしね。
どうせ、隊長が全部斬るんでしょうけど。
――――――――
隊長と鬼塚さんから電話が来ましたが、無視です。
っと、そうこうしているうちに来ましたね。
「どういうつもりだ!月城!」
「おや?零動の剣士。あなたとは『初対面』のはずですが……。その瞳、まるで私を深く恨んでいるかのようだ」
こんなに近いのに、隊長ですら私の隠密を見抜けないとは。
私の能力も、捨てたもんじゃないですね。
――止水という大して強くない能力なのに、なぜ私がこの特殊部隊に配属されて、さらには情報部まで所属しているのか。
理由は一つ。
「能力発動――『寂影』」
対外的なカタログスペックは『止水』。
ですが、真の能力――『寂影』こそが私の本体です。
「まんまとこの廃工場にあなたたちは来てしまったのです。私たちのテリトリーに入ったのですから、それなりの覚悟をしてもらわないと」
月城が、指を鳴らした。
おそらく、これが合図なのでしょう。
月城の指パッチンに合わせて、音を消した弾で鉄骨の吊り手を狙撃。……さすがです、隊長。一太刀でそれを断つと信じていましたよ。
鬼塚さんの様子がおかしいですが、しばらく様子を見ましょうか。
―――――――
まさか、鬼塚さんが覚醒するとは。
月城が昇華だなんだと言っていましたね。
これは情報部に要報告です。
戦況は圧倒的に黒鋼隊が優勢。
これは、私が入らなくても大丈夫でしょうね。
情報部にも、あまり手助けをするなと言われてますし。
いつも通り、寝坊ということで後で合流しましょう。
―――――――
状況は……悪いですね。
鬼塚さんが暴れているせいで、廃工場がボロボロ。
今にも崩れそうです。
それに、隊長が負傷状態で鬼塚さんを逃がそうとしている。
その鬼塚さんも、能力の反動で動けないようです。
ですが……組織の命令は絶対。
手出し無用と命令されている以上、命令を破って二人を助けるわけには……。
「もういいですか?それが時間稼ぎってことは分かってるんですよ。とっとと死んでください」
その言葉と、スイッチを押すような音を聞いた瞬間、衝動的にスナイパーライフルの照準を瞬時に合わせ、引き金を引いた。
指が、勝手に動いた。
……規律を重んじるスナイパーにあるまじき、純粋な『感情』による衝動。
――ははっ、一線を越えたのなら、もう遠慮はいりませんね。
私は開き直る。
月城の様子を見て、もう一度スナイパーライフルの照準を合わせる。
同時に、寂影も解除して、止水の出力を上げる。
「……ターゲット、右腕を破壊。……次で、終わらせます」
私は、月城の頭部に照準を合わせ、引き金を引いた。
生命停止を確認。
……オーバーキルでしたが、今の二発が崩落の引き金になったようですね。
すぐに二人を連れて脱出しないと。
私はその場から飛び降りて、二人の前に降り立つ。
「……遅れてすみません、隊長。少し野暮用を済ませていました」
私は何事もなかったかのように告げる。
「……おい、鷹宮。お前、今までどこで何してたんだよ……!」
鬼塚の絞り出すような問いかけに、私は小さく息を吐いた。
「……それを話すには、少し長くなります。この廃工場はもうすぐ崩れます。まずは脱出を」
私たちは、廃工場から急いで脱出した。




