第十七話 不破の狂王
第十七話 不破の狂王
俺は先手を取る。
大振りだった拳は、さっきまでとは比べ物にならない、重く、速い一撃に変わっていた。
心なしか、身体も軽い。
身体につきまとっていた何かが剥がれ落ちたみたいだ。
狂王の理……
理性を保った狂戦士の王か。
いいじゃねぇか。
今の俺にはぴったりだ。
だが、前より力が落ちている……?
理性を保っているから、弱体化してるのか?
「……全く。昇華とは、これはまた珍しい現象を引き起こしてくれたものですね」
かなりの威力で殴ったが、月城は平然と立っている。
「ですが、前より威力がありません。これなら、前のほうが良かったのでは?」
「うるせぇ。昇華ってのが何か知らねぇが、俺はこれは進化したと思っているぜ」
そうだ。今の俺は理性を保ってるだけで成長と言える。
自分の能力を理解した今なら、負ける気がしない!
「話は終わりか?じゃあ、こっちから行くぞ」
言い切った瞬間、地面を踏み込み月城に突進する。
素直に正面から殴る……と見せかけて、側面に周り、足を狙う。
だが、月城は見切っていた。
俺が突進してくるのを見越して、殴りに来ると予想した場所に、奴はナイフを投げていたのだ。
避けなければナイフが脳に刺さる。
無理だ。止まれない。
思考が加速する。
いや、俺は何を迷っている?
俺は狂王だ。
最強の狂戦士だ。
そんな俺が、こんなに冷静に考えて戦って、それが狂王のすることか?
そんな役目、隊長にでも任せておけばいい。
俺は、俺の思う存分に暴れるだけだ。
ここでは死なねぇ!
能力を――本当の力を理解しろ。
深淵を覗け。
――――――――
鬼塚の頭にナイフが突き刺さる。
明らかに致命傷だ。
「……鬼塚ッ!」
だが、鬼塚の様子が変だ。
いや、正確にはナイフだ。
「突き刺さって……ない?」
硬質な音とともに、月城の放ったナイフが、ひしゃげた。
鋼の刃が鬼塚の額に触れた瞬間ポッキリと折れ、無惨に地面へ転がったのだ。
鬼塚の頭には、傷一つついていない。
「……は?」
月城は呆気にとられている。
途端、鬼塚が狂ったように笑い出した。
「ハッ……ハハハハッ!そういうことかよ、狂王!思考は冷静に、肉体は最強の『暴威』のまま。――理を捻じ伏せるのが、お前の正体だったんだな!」
能力の昇華。
未知の現象が鬼塚に何をしたのかは知らない。
だがそれは、明らかに人と能力者の領域を超えるものだった。
最初は鬼塚の葛藤は外そうかなって思いましたけど、ただ覚醒するだけだとつまらないなって思ったので、
能力の昇華の条件を『自分の能力が存在する意味を理解する』
昇華後の真の力の解放は、『自分の能力にある『何か』と意思疎通し、能力の深淵を知る』というものになります。
これでも無理やりなご都合主義にならないように、考えているんですよ。




