第十三話 絆の調律、あるいは暴力
第十三話 絆の調律、あるいは暴力
俺達は、一度鬼塚のいる病院に向かった。
鬼塚が目覚めたという電話が来たからだ。
「鬼塚!無事か?俺のことわかるか?」
「わかるに決まってんだろ。何言ってんだ」
いつも通りの受け答えだ。
俺は心底安心する。
「ああそうだ。お前、月城ってやつ知ってるか?入院前にお前が戦った敵幹部らしいんだが……情報がなくてな。戦闘スタイルとか覚えてないか?」
鬼塚は一瞬考え込むような仕草を取る。
「ツキシロ?誰だそりゃ。それより、俺はなんで入院なんかしてるんだ?戦闘で怪我した記憶なんてないんだが」
心臓が、嫌なはね方をした。
「……は?いやいや、お前戦っただろ?捕まえた月城の部下が言ってたんだ。いや、それよりも、数日前のこと覚えてないのか?能力発動した時も」
「数日前?隊長、何言ってんだよ」
鬼塚の目は、一点の曇りもなく真っ直ぐに俺を見ていた。
嘘をついているようには見えない。
「……鬼塚。お前、最後に覚えてる任務は何だ」
「そりゃ、三日前の市街地での戦闘だろ?あの日の祝勝会を楽しかったよな。次の日からは仕事も特になかったはずだぜ」
――違う。
市街地での戦闘は一週間前だ。
鬼塚の記憶から、月城と戦った事実も、ここ数日間生死をさまよっていた記憶も、跡形もなく消え去っている。
鬼塚は不思議そうに首を傾げているが、俺の脳内では、あの時の光景がスローモーションで再生されていた。
暴走し、自我を失い、化け物へと成り果てようとしていた鬼塚。
鬼塚を繋ぎ止めるために、俺は自らの能力を鬼塚の精神に直接叩き込んだ。
あの時、確かに手応えがあった。
暴走を止めるために伸ばした俺の手が、鬼塚の内側にある『呪縛』を強引に鎮めたあの感覚。
だが、それは鬼塚の直近の記憶と深く癒着していたのだ。
(……俺が、消したのか)
「隊長?どうしたんだよ、そんなに黙り込んじゃって」
「……いや。なんでもない」
無理やり作った笑みが、顔に張り付く。
助かった。
命は、ここにある。
けれど、俺が必死に守ろうとした「鬼塚」は、俺自身の手で粉砕してしまったんだ。
(これで、よかったんだ……)
自分に言い聞かせる。
後悔はしていない。
あの時、止められなかったら、もっと酷いことになっていただろうから。
そう……これでいいんだ。
背中を向けたまま、俺は一度も振り返らずに病室のドアに手をかけた。
「……ゆっくり休め。復帰したら美味いもんでも奢ってやる」
「お、マジか!楽しみにしてるぜ、隊長!」
背後から聞こえる、以前と変わらない屈託のない声。
それが今の俺には、鋭利な刃物のように胸を抉る。
「……隊長」
隣に並んだ鷹宮が、絞り出すような声で俺を呼んだ。
「……分かっている、鷹宮。言うな」
俺は鷹宮の言葉を遮り、早足で歩き出す。
これでいい。
鬼塚が正気で生きていられるなら、俺との記憶なんて安い代償だ。
俺が一人で背負えば済む話だ。
――俺の能力は、救いではない。
ただ、最悪を避けるために、切り捨てるだけの暴力だ。




