第九十六話 『四者合流』
アボラに完勝したケバローは洞窟をグングンと進んでいく。
そんな彼の前に、慌てた様子で走っている人の姿が見えた。
「………えっ!! 君、ショウエイくん!? なぜ…………!!」
レランカに言われて連れを探していた男、ショウエイ・キスギ。
この町にある謎を解き明かすため、重い足を走らせてきた。
そんな翔英はようやく、探していた人と合流できた。
「ケバローさん!! よかった、探しましたよ!!!」
と、嬉しそうな様子の翔英とは対照的に、ケバローの方は信じられないといった面持ちだ。
――――なぜなら、翔英とこんなところで出会うことなど彼は、予想もしていなければ、望んでもいないのだから。
「………ショウエイくん。何故君がここにいるんだい………」
「あっ……すいません。……でも、なんだか嫌な予感がして……それに、ジュンにも言われたんです」
ケバローのテンションはだだ下がり。
彼は、この仕事を自分一人で終わらそうとしていた。
若者の心に、限りない負担と悲しみを与えてしまうと考えているからだ。
翔英とスリーラを会わせるのは、こちらとしても避けたい。
町で待っているジュンのことも心配だ。
「ショウエイくん……君は戻っ……」
「そうだ!! ケバローさん!! 着いてきてほしいところがあるんです!!!」
「え、なんだい? 『着いてきて欲しいところ』?」
ケバローは困惑しながら、いつもよりも大分余裕がなさそうに、翔英の後を追い始める。
ちなみに、ケバローの足は普通に超早い。
足の速さに自信のある翔英に、余裕で着いていけるほどだ。
「はい!! 着いてきてもらえれば分かります!! 理由も向こうに着いてから説明します!!! 見てもらった方が早い!!!」
ついに合流した翔英とケバローは、『二人の危険な女』が待っている牢屋へと走り出す。
ケバローにとっては、目的となっている人物が。
翔英にとっては、ここでは絶対に会いたくない人物が待っている場所へと。
――――そして、地下二階、牢屋。
レランカとスリーラ、二人だけの空間。
レランカと会話を楽しもうと、スリーラはずっと話を振り続けていた。
最近あったエピソードや常々思っていることなどを提示した後、レランカ側に質問するのを繰り返す。
しかし、レランカはただただ無言。
たまに睨みつけるか変顔するかで、ほとんどうつむいたままでいた。
そんな状態の人間にひたすら明るく話し掛けるスリーラは、なんと健気なのだろう。
――――だが、ここで初めてスリーラが喋らなくなった。
それを受けたレランカは思わず、
「――――どうした……? 話題が無くなったのか……?」
と、レランカから声を掛けてしまった。
頭を上げて様子を見るレランカ。
するとそこでは、スリーラが苦い顔をして入口の方を見ていた。
「(……なんでしょうか……この胸のざわめきは………………)
――――いえ、何でもありませんわ。少しボーっとしていただけです。……あっ! それよりも今、あなたから話し掛けてくださいましたね!! 嬉しいですわ!!」
一旦不安を胸にしまったスリーラは、再び笑顔を取り戻した。
その笑顔に辟易するレランカは、またガン無視モードに入る。
「早く消えてくれ」と、思いながら。
「……レランカ様……ちょっと冷たすぎますわ。そんなに嫌わなくてもいいではありませんか。いつまでもこのままでは、レランカ様もお辛いでしょう? それはわたくしも同じなのです。ですから――――」
スリーラはうつむくレランカの顔を覗きながら、悲しそうに語り掛ける。
だが、レランカの意識は既に、彼女に向いていなかった。
『ならばどこに向いているのか』
それは、正規の出入り口、その向こう。
誰かが近づいているのを、レランカはいち早く感じ取った。
そして、
「(………来ちまったか、あのガキ………この音……二人だな………連れとは合流できたか………だが、状況は『最悪』だ)」
と、これから起ころうとすることを予想し、頭の中で絶望に片足を突っ込む。
――――レランカの希望通りにはならなかった。
翔英がここに戻って来たとしても、状況が好転することはない。
なぜなら、彼が来たところでどうにもならないからだ。
翔英の実力、それは先のギーコとの戦いで、レランカは十二分に評価していた。
先も言った通り、二軍並みの実力があるだろうと。
しかし、この状況では、そんなことは関係ない。
『この女は倒せない』からだ。
翔英が連れてくるであろう相方にも、全く期待できない。
そもそも、そいつは『聖鳳軍ではない』という話だ。
一般人が来たところで、どうにかなるものじゃない。
仮にそいつが『ハチャメチャに強い一般人』だとしても。
「――――なんでしょう…………足音……が聞こえますわね。……アボラ様でしょうか…………」
と、スリーラの方も何者かの接近に気づく。
十五秒の沈黙の後――――出入り口に二人の男が現れた。
「えっ!?」「なっ!?」「あっ!?」「はっ!?」
と、四人同時に驚愕のリアクションが放たれる。
しかし全員、そのうちの『一人』に向けての驚きだ。
翔英とスリーラ、ケバローとレランカはそれぞれ、お互いの登場に驚き合っていた。
翔英とレランカは既に会っていたのだから、当然驚きなどはない。
ケバローとスリーラも互いに目を着けていたため、ここで出てくるのは別に予想の範疇だ。
だが、逆は違った。
まず、ケバロー・ホサルトン。
彼は、鉄格子の奥に捕らえられているレランカを見て、驚きの表情を浮かべる。
もちろん、女性がこんなところで捕まっていることへの驚きもある。
だがそれ以上にその女性の素性が大きい。
聖鳳軍二軍、レランカ・レルン。
彼女のことは、ケバローもよく知っていた。
対するレランカの方は、現れた大男が誰だか分かっていなかった。
じゃあなぜびっくりしたかというと、滅茶苦茶太っているおじさんが出てきたからである。
――――そして、翔英とスリーラ。
彼らの驚きは、もう一方の比ではなかった。
スリーラは驚きとショックのあまりに、今にも泣きそうになってしまっている。
数時間前に、スリーラは目の前の男と約束していたのだ。
『この洞窟に入ってはいけない』と。
あの時この男は、自分の言葉に深く頷いてくれた。
そんな約束を速攻破られたのだ。
しかもあんなに目を輝かせて自分を肯定してくれた男に。
純粋なスリーラの心にはひどい傷ができてしまったことだろう。
そして、アボラが寄り道した理由と戻って来ない理由も直感的に理解する。
翔英の後ろに立っている大男。
この男に、その原因があるのだろう、と。
対する翔英の驚きも計り知れない。
――――いや、本当は分かっていただろう。
レランカは嘘をついていないことも。
ケバローの判断が間違っていないことも。
しかし、信じたくなかった。
翔英の全てが、スリーラへの疑いを拒絶した。
――――だが、まだ分からない。
スリーラの話を聞いてみないことには。
もしかしたらもしかすると、まだレランカ側に問題があるという可能性もなくもない。
翔英はゆっくりと唾を飲み込み、冷たい沈黙を破ろうと、真相を聞こうと口を開いた。
しかし――――
「……あら……ショウエイ様………どうしてここに………」
――――悲しみの声色。
先に口を開いたのは、スリーラだった。




