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ヴェルソレクト  作者: 高野翌
第五章
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第九十六話 『四者合流』

 アボラに完勝したケバローは洞窟をグングンと進んでいく。

 そんな彼の前に、慌てた様子で走っている人の姿が見えた。


 「………えっ!! 君、ショウエイくん!? なぜ…………!!」


 レランカに言われて連れを探していた男、ショウエイ・キスギ。

 この町にある謎を解き明かすため、重い足を走らせてきた。

 そんな翔英はようやく、探していた人と合流できた。


 「ケバローさん!! よかった、探しましたよ!!!」

 

 と、嬉しそうな様子の翔英とは対照的に、ケバローの方は信じられないといった面持ちだ。


 ――――なぜなら、翔英とこんなところで出会うことなど彼は、予想もしていなければ、望んでもいないのだから。


 「………ショウエイくん。何故君がここにいるんだい………」


 「あっ……すいません。……でも、なんだか嫌な予感がして……それに、ジュンにも言われたんです」


 ケバローのテンションはだだ下がり。


 彼は、この仕事を自分一人で終わらそうとしていた。

 若者の心に、限りない負担と悲しみを与えてしまうと考えているからだ。


 翔英とスリーラを会わせるのは、こちらとしても避けたい。

 町で待っているジュンのことも心配だ。


 「ショウエイくん……君は戻っ……」

 

 「そうだ!! ケバローさん!! 着いてきてほしいところがあるんです!!!」


 「え、なんだい? 『着いてきて欲しいところ』?」


 ケバローは困惑しながら、いつもよりも大分余裕がなさそうに、翔英の後を追い始める。

 ちなみに、ケバローの足は普通に超早い。

 足の速さに自信のある翔英に、余裕で着いていけるほどだ。


 「はい!! 着いてきてもらえれば分かります!! 理由も向こうに着いてから説明します!!! 見てもらった方が早い!!!」


 ついに合流した翔英とケバローは、『二人の危険な女』が待っている牢屋へと走り出す。

 ケバローにとっては、目的となっている人物が。

 翔英にとっては、ここでは絶対に会いたくない人物が待っている場所へと。


 ――――そして、地下二階、牢屋。


 レランカとスリーラ、二人だけの空間。

 

 レランカと会話を楽しもうと、スリーラはずっと話を振り続けていた。

 最近あったエピソードや常々思っていることなどを提示した後、レランカ側に質問するのを繰り返す。

 しかし、レランカはただただ無言。


 たまに睨みつけるか変顔するかで、ほとんどうつむいたままでいた。


 そんな状態の人間にひたすら明るく話し掛けるスリーラは、なんと健気なのだろう。


 ――――だが、ここで初めてスリーラが喋らなくなった。

 それを受けたレランカは思わず、


 「――――どうした……? 話題が無くなったのか……?」


 と、レランカから声を掛けてしまった。


 頭を上げて様子を見るレランカ。

 するとそこでは、スリーラが苦い顔をして入口の方を見ていた。


 「(……なんでしょうか……この胸のざわめきは………………)

 ――――いえ、何でもありませんわ。少しボーっとしていただけです。……あっ! それよりも今、あなたから話し掛けてくださいましたね!! 嬉しいですわ!!」


 一旦不安を胸にしまったスリーラは、再び笑顔を取り戻した。

 その笑顔に辟易するレランカは、またガン無視モードに入る。


 「早く消えてくれ」と、思いながら。


 「……レランカ様……ちょっと冷たすぎますわ。そんなに嫌わなくてもいいではありませんか。いつまでもこのままでは、レランカ様もお辛いでしょう? それはわたくしも同じなのです。ですから――――」


 スリーラはうつむくレランカの顔を覗きながら、悲しそうに語り掛ける。

 だが、レランカの意識は既に、彼女に向いていなかった。


 『ならばどこに向いているのか』

 それは、正規の出入り口、その向こう。


 誰かが近づいているのを、レランカはいち早く感じ取った。

 そして、


 「(………来ちまったか、あのガキ………この音……二人だな………連れとは合流できたか………だが、状況は『最悪』だ)」


 と、これから起ころうとすることを予想し、頭の中で絶望に片足を突っ込む。


 ――――レランカの希望通りにはならなかった。

 翔英がここに戻って来たとしても、状況が好転することはない。

 なぜなら、彼が来たところでどうにもならないからだ。


 翔英の実力、それは先のギーコとの戦いで、レランカは十二分に評価していた。

 先も言った通り、二軍並みの実力があるだろうと。

 しかし、この状況では、そんなことは関係ない。

 

 『この女は倒せない』からだ。


 翔英が連れてくるであろう相方にも、全く期待できない。

 そもそも、そいつは『聖鳳軍ではない』という話だ。

 一般人が来たところで、どうにかなるものじゃない。


 仮にそいつが『ハチャメチャに強い一般人』だとしても。


 「――――なんでしょう…………足音……が聞こえますわね。……アボラ様でしょうか…………」


 と、スリーラの方も何者かの接近に気づく。


 十五秒の沈黙の後――――出入り口に二人の男が現れた。


 「えっ!?」「なっ!?」「あっ!?」「はっ!?」

 と、四人同時に驚愕のリアクションが放たれる。


 しかし全員、そのうちの『一人』に向けての驚きだ。


 翔英とスリーラ、ケバローとレランカはそれぞれ、お互いの登場に驚き合っていた。


 翔英とレランカは既に会っていたのだから、当然驚きなどはない。

 ケバローとスリーラも互いに目を着けていたため、ここで出てくるのは別に予想の範疇だ。


 だが、逆は違った。


 まず、ケバロー・ホサルトン。


 彼は、鉄格子の奥に捕らえられているレランカを見て、驚きの表情を浮かべる。

 もちろん、女性がこんなところで捕まっていることへの驚きもある。


 だがそれ以上にその女性の素性が大きい。


 聖鳳軍二軍、レランカ・レルン。

 彼女のことは、ケバローもよく知っていた。


 対するレランカの方は、現れた大男が誰だか分かっていなかった。

 じゃあなぜびっくりしたかというと、滅茶苦茶太っているおじさんが出てきたからである。


 ――――そして、翔英とスリーラ。


 彼らの驚きは、もう一方の比ではなかった。


 スリーラは驚きとショックのあまりに、今にも泣きそうになってしまっている。

 数時間前に、スリーラは目の前の男と約束していたのだ。

 

 『この洞窟に入ってはいけない』と。

 あの時この男は、自分の言葉に深く頷いてくれた。


 そんな約束を速攻破られたのだ。

 しかもあんなに目を輝かせて自分を肯定してくれた男に。

 純粋なスリーラの心にはひどい傷ができてしまったことだろう。


 そして、アボラが寄り道した理由と戻って来ない理由も直感的に理解する。

 翔英の後ろに立っている大男。

 この男に、その原因があるのだろう、と。


 対する翔英の驚きも計り知れない。


 ――――いや、本当は分かっていただろう。


 レランカは嘘をついていないことも。

 ケバローの判断が間違っていないことも。

 しかし、信じたくなかった。


 翔英の全てが、スリーラへの疑いを拒絶した。


 ――――だが、まだ分からない。

 スリーラの話を聞いてみないことには。


 もしかしたらもしかすると、まだレランカ側に問題があるという可能性もなくもない。


 翔英はゆっくりと唾を飲み込み、冷たい沈黙を破ろうと、真相を聞こうと口を開いた。


 しかし――――


 「……あら……ショウエイ様………どうしてここに………」


 ――――悲しみの声色。

 先に口を開いたのは、スリーラだった。

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