第八十八話 『重なる面影』
「――――天罰……? ゴアナ族の……?」
スリーラと話す翔英は、彼女が言った単語をそのまま返した。
そんな翔英に、スリーラは話を続ける。
「ええ、そうですわ。……あの洞窟に無断で入ってしまった旅人様が、帰ってこないことがあったのです。……それも……一度ではなく………ですのでわたくしは、これ以上の犠牲を増やさないために、洞窟への立ち入りを禁止にしたのです」
「………なるほど」
スリーラの話に対して翔英は答える。
しかし、それだけで『天罰』というのはいかがなものか。
そう思った翔英だが、とりあえず彼女の言うことを受け入れた。
「……もしショウエイ様が洞窟へ入ってしまったら、何か不幸に見舞われていたかもしれません。そんなことは、絶対に起こしたくないのです」
スリーラは翔英の目をしっかりと見ながら、いつもより強い口調で話す。
翔英はもう少し、洞窟について深堀しようと試みる。
「……ありがとうございます。……でも、スリーラさんとアボラさんは大丈夫なんですか?」
「はい、大丈夫ですわ。おそらくわたくしたちは、ゴアナ族様と直接関わっておりましたので、そのことが関係しているのかと」
「……そうだ、スリーラさん。そのことで聞きたいことがあるのですが……」
このタイミングだ。
「……ゴアナ族について、少し知りたいと思っていて……」
翔英は先程聞こうと思っていた、この町に住んでいた一族についての質問をする。
「………そうですか。……わかりました。では、彼らについて少しお話しましょう」
スリーラは両手を組み、記憶に浸る。
その表情は、苦い。
「……と言っても、何を話せばいいのでしょう……」
「……………っていうかあれですよね? スリーラさんって、そのゴアナ族と実際に交流してたんでしょ? 彼らがどんな人たちだったのかとか、聞かせてもらえれば」
「ああ、わかりましたわ。……そうですわね。……彼らは、どんな方でも快く迎え入れる器をお持ちで……本当に、素晴らしい方たちでした」
翔英は耳を立て、相槌を打ちながら、スリーラの話をじっと聞き入る。
今の言葉で浮かんだ疑問はまだ胸の中にとっておく。
「……わたくしが彼らと初めて出会ったのは……何年か前に、偶然この町を訪れたときです。……他所から来たわたくしを歓迎してくださったのを今でもよく覚えていますわ……………でも、もうあの人たちはここにはいません……………」
スリーラはどこか悲しそうな目をしながら、過去の話を続けていく。
「………ああ、その話なら、少しだけ聞いています。……ゴアナ族を原因不明の病気が襲ったとか………」
「…………なぜ………そのことを知っているのですか………? この町の誰かから、聞いていたのですか………?」
「……まあ、そうですね。正確には、町の人の話を聞いたケバローさんに、ですが」
スリーラは納得した表情を浮かべると、空を見上げながら昔話を再開する。
「……………その通りですわ。ゴアナ族は新種の疫病に襲われました。もともと人口の少なかった彼らは、この病気が要因となり、絶滅することとなってしまいました………彼らを中心に流行したこの病は、当時の技術では対応する術がなかったのです………」
「………やっぱりそうだったんですね。………俺も、会ってみたかったですよ、ゴアナ族に。それで、直接礼を言いたかった。スリーラさんの今の薬も、彼らから継がれたものなんですよね?」
このスリーラにここまで言わせるゴアナ族という一族に、翔英は心からの敬意を表した。
さらに翔英は、この町の歴史について掘り下げようとする。
この少女が関わっていると知っただけで、途端に興味が湧いてくる。
「……はい。彼らはわたくしに、救う力を与えてくれました。……今のわたくしの使命は、彼らに代わってこの町を守ることですわ。…………でも……………」
「………? スリーラさん、どうしました………?」
立派な目標を掲げたスリーラだが、突然、涙目になりながらうつむいてしまった。
そんな彼女に動揺する翔英は、心配の声を掛ける。
スリーラは滲み出る涙を拭くと、いつもよりか細い声で答えた。
「………いえ、すみません。大丈夫ですわ。………ただ、この村をほんとうによくしていけているのか不安なのです………」
スリーラが吐露した思いを、翔英は真剣な顔持ちで受け止める。
ただ、スリーラは彼の顔を見ることなく続ける。
「………わたくしは、彼らの犠牲を無駄にしないために………ああ……すいません……ショウエイ様……」
今度はポロポロと涙を零す。
翔英はここで、痛いほど彼女の思いを理解した。
まだこんな若いの少女が、偉大な一族の思いを一人で継ぎ、村を守るという決心したことには、どれほどの重責があったのだろう。
まだ遊んでいたい年ごろだろうに、村のことを第一に考えながら働いていることには、どれほどの負担があるのだろう。
こんなに涙を溜め込んでいた彼女を見て、翔英は尊敬の眼差しを向けるとともに、少しでも彼女の力になれるよう、元気づけられるよう、精一杯の言葉を掛け始めた。
「スリーラさん、あなたは凄いですよ。こんなに若いのに、村のみんなの幸せを考えるなんて、そのことで涙を流すなんて、簡単にできることじゃない。……それに、スリーラさんは少し似ているんです、俺の好きな人に。あの子も、考えられないような優しい心を持っている。……だから、胸を張ってください」
翔英はスリーラと初めて話したときから、彼女が纏う雰囲気から、ミネカに近いものを感じ取っていた。
話す度に、かつてミネカからもらっていたような暖かいものを、スリーラから受け取っていた。
まるで、優しさという衣で、心を包まれるような感覚だった。
そのこともあり、翔英は個人的にスリーラには好意的な感情を抱いていた。
もちろん、ミネカ一筋であることは言うまでもないが。
「……そんなお言葉、嬉しいです……!! ありがとうございます、ショウエイ様……!! ……わたくしに共感してくださるのですね……!!」
「もちろん!! 俺にできることがあったら何でも言ってくれ!! できるだけ力になるから!!」
スリーラの涙を見せながらの笑顔に、翔英は満面の笑みで応えた。
翔英の心は、彼女の優しさに満たされていた。
「……ほんとうにありがとうございます……!! わたくし、ショウエイ様とお話できてよかったです……!!」
「うん、俺もだよ」
「あ……!! アボラさん……!!」
翔英と心を通わせたスリーラは、向こうから歩いてきている男の名前を呼んだ。
どうやら、素材を取り終わったようだ。
「……な……!! スリーラ様……!? それにあなたは、ショウエイさん。………なるほど、そういうことでしたか」
ベンチに座る二人を見たアボラは、その脅威の瞬間察知能力で状況を把握した。
翔英はアボラに礼を告げると、彼はなんでもないという感じで首を横に振った。
「……では、スリーラ様。戻りましょう。明日までにこの方たちへの薬を作らねば」
「そうですわね。……また明日お会いしましょう、ショウエイ様。今日は、ありがとうございました」
「ああ、うん。こちらこそありがとうございます。じゃあまた、明日」
翔英はもう少しここに残ることにすると、スリーラの後ろ姿を見送った。
そして再び、彼女の背中を最愛の少女に重ねたのだった。




