第八十七話 『訪れる対談』
「――――うわっ!! これ懐かしいなあ! おっ、これも!!!」
年甲斐もなく店ではしゃぐ男、来生翔英。
彼は散歩途中で駄菓子屋のような店を発見、そのままその店に釘付けになっていた。
一緒に散歩に来ていたジュンも、すでに見えなくなってしまっている。
翔英は小さな店をぐるりと見て回ると、ポケットに入っていた財布を確認し始めた。
そのまま考えに浸る翔英。
買っていきたいものをまとめて、財布と相談だ。
結局、翔英はバリエーション豊かな六つのお菓子を購入した。
その中の一つは、ケバローとジュンの分を合わせて三つを買っている。
ラッキーなものを見れたと、翔英の気持ちはやや上機嫌になった。
ひとまず部屋に戻ると思いきや、翔英は近くにあったベンチに向かって行く。
理由は単純。
早く食べたいからだ。
そのベンチは、町の出口付近に置いてあるものだった。
つまり、ベンチからの景色は、町ではなく自然豊かな木々だ。
まあ、そんなことは翔英にとってはどうでもいいことで、彼は買ってきた駄菓子を早速食べ出した。
「……おっ……! ……似てる……いや、ほとんど一緒…………な気がする……!!!」
翔英がセレクションした駄菓子は、向こうにいたときから好きだったものに近いものだ。
それは見た目だけではなく、味もそうだった。
正確には一緒ではないのに、なんだか懐かしくなるような、そんな味だった。
駄菓子を食べていること五分。
木々が見える前方から、誰かが歩いてくるのが見えてきた。
目をこらす翔英の瞳に、青髪を揺らすドレス姿の少女が映る。
「……あら? まあ!! ショウエイさまではありませんの!! 何をなさっているのですか、こんなところで」
「ス、スリーラさん!!? スリーラさんこそ、何をしていたんですか!?」
また明日会う約束をしていたこの町の長、スリーラの出現に驚きを隠せない。
そもそも今、スリーラは素材を取りにいっていると思っていた。
「………戻っていなさいと、言われてしまいましたの。……ほんとうは、わたくしも行きたかったのですが」
「……ああ、例のやつですか……? じゃあ今はアボラさんが行ってくれていると…」
翔英は散らかっていた菓子のゴミを片づけると、そのゴミがあった方へと移動した。
そして、空いた隣に座るように、スリーラに声を掛ける。
「あら、ありがとうございますわ。……それで、なにをなさっていたのですか? ショウエイ様は」
翔英の隣に腰を下ろしたスリーラは、再び彼に同じ質問をする。
「いやあ、ちょっとここで、お菓子を食べていただけですよ。向こうにあった店に売っているやつなんですが」
「まあ、そうでしたの!! 嬉しいですわ!!! あなたにそれを食べていただけるなんて!!!」
翔英はまだ少しだけ残っているお菓子を彼女に見せた。
それを見たスリーラは両手を合わせ、緑色の綺麗な瞳をさらに輝かせながら、声を張り上げた。
驚いている翔英が言葉を返す前に、スリーラは続ける。
「そのお菓子は、薬と並んでこのメデュンに昔から継がれてきたもう一つの伝統品なのです。今はわたくしが製造に関わっているんですよ。ほら、これ!!! このビレというお菓子は、わたくしが作っております。ほかにもだいたい半分くらいは、わたくしが」
スリーラは翔英の持っていたお菓子を指差し、そう説明した。
そのビレというものは、四角型に小さくしたグミのようなもので、向こうで翔英が好きだったものによく似ていた。
「そうだったんですね!!! いや、めちゃくちゃ美味しいですよこれ!!! どうもありがとうございます!!!」
「感激ですわ!!! ここのお菓子を褒めていただけるなんてお久しぶりです!!!」
笑顔満点。
スリーラは心の底から嬉しそうな笑顔を浮かべている。
そんな彼女の姿を見ていると、翔英の心も癒されるようだった。
「あの、スリーラさん、よかったら食べますか? ……あっ、自分で作ってるから、いつでも食べられるか……」
翔英は袋に入っているビレを見せながら、スリーラに分けようとする。
既に五つの駄菓子を食べ終わっており、今持っているのは数粒のビレとケバローとジュンの分も購入した小さいカステラのようなものだけだ。
カステラは未開封だし一口サイズだしで、ビレの方を選んだ。
ただ、言っている途中で気づいたが、自分が作っているものを我が物顔であげるのも変な感じだと目をそらしてしまう。
しかし、スリーラはやはり笑顔を浮かべながら、彼の差し出した物に嬉しそうに答えた。
「いえ!! わたくしも大好きです!! 有難く頂戴しますわ!! ありがとうございます!!!」
「あっそうなの? よかったあ」
スリーラのリアクションを受けて安堵した翔英は、七つビレが残っている袋を彼女に渡した。
一粒取ったスリーラは、それを飲み込むとさらに口を開いた。
「うん!! やっぱり美味しいですわ!! ……これを食べられるのも……ゴアナ族様のおかげですわ……」
スリーラがつぶやいた単語に、ピンポイントで反応する翔英。
思い出した。
昨日、ケバローから聞いていた話を。
この人は、かつてこのメデュンに暮らしていたというゴアナ族の意思を継いでいる人物だった。
明日彼女が用意してくれるという薬も、特別な薬を製作する力を持っていたというゴアナ族の恩恵によるものだ。
翔英はここで初めて思った。
彼らのことを知っておくのが義務ではないかと。
このスリーラという女性に感謝するのはもちろんだが、彼ら無くしては薬を得ることはできなかったのだから、彼らが眠る天にも感謝すべきだろう。
翔英はスリーラに問うことに決めた。
ゴアナ族という一族について。彼らを襲ったという病について。
昨日ケバローの話を聞いた時には、出てこなかった気持ちだ。
その前に、翔英に一つの疑問が浮かんできた。
『なぜケバローはスリーラに聞かなかったのか』
あれほど、この町の過去について知りたがっていたのに。今も尚、おそらくこの町について調べているというのに。
この町で、いやこの世界で一番、ゴアナ族について詳しく知っている可能性がある、その歴史を体感した人間でもあるスリーラという女性が目の前にいたのに。
『なぜ、聞かない』
「……………ところで、ショウエイ様。わたくし、安心したことがありますの」
そんなことを考えていたせいで、翔英が質問をする前に、スリーラの方から口を開いてしまう。
「………え? なんですか? 安心?」
「ええ。わたくし、ショウエイ様が洞窟に行こうとしているのだと思ってしまいましたの。許してくださいまし」
「洞窟……? ……ああ、例の洞窟ですか?」
今アボラが素材を取りに行っているという洞窟のことだとすぐに察する翔英。
だが、それがなんで安心に繋がるのだろう。
そう思った翔英に、彼女はこう続けた。
「ええ、そうですわ。先ほど、ショウエイ様は手伝いたいと仰っていましたので、来てしまったのかと。言い忘れていたのですが、あの洞窟は、他所から来た方が入ることは許されていないのです」
「許されていない!? 何でですか?」
「……ショウエイ様はご存知ないと思いますが、その洞窟はかつてゴアナ族という一族が使っていた神聖な場所なのです。……ですので、彼らから許可を得てない者が入ろうとすると、彼らから天罰を受けてしまうのです」
翔英は目を細めながら、スリーラの話に聞き入った。




