第八十三話 『特殊な一族』
「――――起きたかい、ショウエイ君」
ハッと目を覚ました翔英の目に、見慣れない部屋の景色と大男の顔が映る。
隣にはジュンの姿があった。
「……ああ、おはようございますケバローさん。ジュンも」
「うん、おはよう」
ジュンは自分の布団に寝転がりながら、自前の本を読んでいる。
ケバローの方は、翔英の前に果物とかパンを並べていた。
「さっき買いに行った食材だ。ほんとうは作りたいんだが、ここには厨房がなくてね。とりあえず今日は、これで我慢してくれ」
「ああ、ありがとうございます」
「少し外に出てくる。ジュンのこと任せてもらっていいかな? 何かあったらすぐに読んでくれ」
「はい、分かりました」
翔英が起きるのを待っていたのだろうか。
ケバローは部屋を後にして、外へと出て行った。
早速、翔英はケバローからもらった食べ物を頂いている。
現在時刻は十時前だ。
「それ、俺が選んだんだよ。どう?」
「おっそうなのか! ありがとなジュン。うん、美味しいよ」
そう感謝を告げながら、少年と笑顔を通わせる翔英。
その後もジュンと話しながら朝食を進めた。
食べ終わってからは、身支度を整え、ジュンとの談笑、持ってきていた教材での勉強(内容は全然入って来ない)を繰り返して時間を潰した。
午後一時を回ったころ、ケバローが部屋へと戻ってきた。
両手にはビニール袋を掲げている。
「お帰りなさいケバローさん。それは?」
「ああ、そろそろ小腹が空いたと思ってね。食材を買ってきたよ」
中身はさっきとほとんど同じだった。
ただし量がさっきの数倍はある。
五人前くらいか。
まあ、この見た目で三人前なのは少ないくらいだろう。
「……ケバローさん、さっきまでどこ行ってたんですか?」
三人、床に座って円になりながらの昼食。
そんな中、翔英がケバローに話題を振った。
「ちょっとね。町の人に聞き込みをしていたんだ。この町のことや人々のこと、例の薬についてね」
「そうだったんですね。さすがです。それで、何か分かったんですか?」
「うん、結構いろいろ分かったよ。……ただ少し、不可解なことがあってね……」
ケバローは得た情報を翔英に伝え始めた。
かつてメデュンには、代々メデュンを守護してきた少数民族が暮らしていた。
名は、『ゴアナ族』
彼らは先天の知恵か教えか、他所には真似できないような特殊な技術を持っており、その力で特別な薬を製作していた。
また、メデュンの近くには幅広い素材を採取できる不思議な庭があり、その存在も、彼らの技を大きく助けていた。
メデュンに住むことになるのは、ゴアナ族だけではなかった。
ゴアナ族と友好な関係を結び、共に住むことを選んだ者たちとその末裔。
そして、ワーラスのように、町の居心地のよさに惹かれてやってきた者たちもいた。
ゴアナ族は他所の文化にも寛容な一族だった。
そして何より、彼らは極めて善の心を持っていたのだ。
彼らは協力し合い、薬の町として、メデュンの名を広めていった。
だが、今から約数年前、ゴアナ族は絶滅したという。
ケバローが聞いた話では、彼らにも対応できないような病に突如襲われ、無念の内にその命を絶ったらしい。
その病は、ゴアナ族を中心に広がり、町に住む他の人たちにも危害が及んだ。
頼みの綱のゴアナ族もいなくなってしまい、薬の町メデュンに最大の危機が陥ったときに活躍したのが、今の町長だった。
ゴアナ族と特に親交が深かった町長は、なんと彼らの力を継いでいたのだ。
その病への特効薬を作り上げ、全滅の危機に遭っていたメデュンを救った。
何度もゴアナ族の力を見て、聞いて、感じていた結果として招かれたことだと町長は言ったが、町の人々は町長を『救世主』、『神の遣い』だと崇めた。
だが、町長はこう言ったという。
『私たちのこれからは、彼らのおかげで存在できる。それを決して、忘れてはいけない』
そうして、現在は町長がゴアナ族の意思を受け継ぎ、メデュンとしての役目を果たし続けている。
「――――と、まあ、だいたいこんな感じだね………」
翔英はケバローの話をじっと聞いていた。
彼が話しやすいように、適度な相槌を打ちながら。
ただ、ジュンは知らない人たちの話などにはあまり興味を持てなかったようで、昼食を取った後にすぐに昼寝に入ってしまっていた。
「………それで、ショウエイくん。今の話を聞いて、何か思ったことはないかい?」
「え、そうですね………町長めちゃくちゃすごいな!!って思いました。後、ゴアナ族って可哀そうだなって……」
小学生並の感想しか出てこない。
実際に自分が体験したことについて考察するのは得意だったが、口頭で伝えられただけの話の感想を伝えるのは、あまり得意ではなかった。
「うん……そうだね」
ケバローがポツンと呟く。
なんか向こうも返しに困ってそうなのが伝わり、翔英は何となく申し訳ない気持ちになった。
「……でもさ、ショウエイくん。この話、少し変に思うところがないかい?」
「……変に、ですか? ……誰からこんな話を聞いたのかって疑問はありますけど……」
「ああ、それは、町中を回って聞いた情報を組み合わせたんだ。一番詳しかったのは、向かい側に住んでいるっていう、高齢の方だったね。……それよりも僕は、ゴアナ族を襲った病を解決したっていう町長の話に違和感を覚えたよ」
「…………そうですか? 俺はなんだか、この町の歴史を知れた気がして、けっこう興味深い話だと思いましたけど」
「いやまあ、その話だけ聞けばそう思うかもしれないけど…………でも、一族の間で継がれてきた特殊な技術を、一族以外の者に使えるものなのか? ……それに、ゴアナ族を襲った病というのもなにか気にかかる………」
「………でも今は、その町長が薬を作って売っているんでしょ? ワーラスさんも昨日、町長なら欲しい薬を作ってくれるって言ってたし。まあだから、理由は分からないけど、使えてるんでしょうね。……病気の方は、その話だけじゃあんまりわからないですけど……町の人たちが言ってるんだから、ほんとうのことなんじゃないですか?」
「……うん、そうだね。……そうなんだよ。ショウエイくんの言っていることは正しい。………けどね、僕はなにか……なにかがあるような気がしてならないんだ……僕の気のせいだったらいいんだけど」
「…………大丈夫ですよ。きっと薬も無事にちゃんと買えますよ。……だから、今は待ちましょ」
ケバローが怖いことを言い出したせいで、翔英にも不安が生まれ始める。
そんな思いを抱きながら、そこから二時間が過ぎ去ったころ。
町が騒ぎ始めた。
「……どうしたんでしょう? なんだか町がにぎわっているような……」
「行って見よう。何かあったのかもしれない。ジュンはここで待っててくれ」
「うん、わかった」
町の中心に人だかりができているのが見える。
その人だかりは、ある一人を中心に構成されていた。
「あ、もしかして……あの人が……」
その者は明らかに他の人とは雰囲気が違った。
翔英は直感した。
この人が、噂の町長だと。




