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ヴェルソレクト  作者: 高野翌
第五章
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第八十二話 『最西での一幕』

 メデュンへと足を踏み入れた翔英たちは、町の人々から好意的に迎えられた。

 次々と歓迎の言葉を投げかけられるばかりで、話が進まない。

 長居するつもりはない翔英は声を張り、話を本題に戻した。


 「あ、あのっ!! 薬はどこで売っているのか、教えていただきますか!? 僕たち、あんまりゆっくりしている時間はなくて」


 翔英の言葉を受けた町人たちは、申し訳なさそうに喋るのを止める。

 そして、一番最初の男がやはり笑顔を浮かべながら説明を始めた。


 「そうでしたね……! ですが、申し訳ありません。今日は薬を売って差し上げることができないのです」


 予想外の回答に、翔英は開いた口が塞がらない。

 ジュンも不安な眼差しを翔英とケバローに向けている。


 「売ってもらえない? どういうことですか?」


 あんなに歓迎しておいて、さすがにそれはないだろう。

 翔英の前に出たケバローが、さらなる説明を求める。


 「只今説明いたします! しかし、少々長くなる故、向こうの集会所までご同行願いますか?」


 「ああ、はい、それは構いませんが……」


 そう言い出した男に連れられ、町の中央にある集会所へ招かれる三人。

 集まってきていた町の人々は翔英たちの背中を見送ると、それぞれの屋根へと帰っていく。


 「皆さんこちらにお座りください!!」


 集会所に入った翔英たちは、少し進んだ部屋のイスに座らされた。

 何を聞かされるか、翔英は心配と不安でいっぱいだ。


 「すいません、今お茶をお出ししますね。暖かいのと冷たいの、どちらがよろしいでしょうか?」


 「いや、せっかくのところ申し訳ないが、先に話を聞かせていただきたい」


 「ああそうですか!! では」


 男もまた、翔英たちに向かい合うように腰を下ろした。


 「――――それで、どういうことなんでしょう? 薬を売ってもらえないというのは?」


 ケバローが切りだす。

 その姿を見て翔英は思った。

 彼が一緒で本当によかったと。


 「ええ、まあ結論から言うと、許可が必要なんですよ。薬を売るのにはね」


 「許可? 誰のですか?」


 「町長です。このメデュンの宝を正しく使うかどうかを見るために作られたルールらしいです。うちの薬を悪用するものがいるそうで」


 翔英とケバローは互いに目を合わせる。

 そして、再び彼に質問をする。


 「なるほど、許可が必要な理由は分かりました。それで、その町長さんはどこにいらっしゃるのですか? 私たちは、大切な人を助けたいという理由で、薬を求めているのです。悪用するつもりはありませんので、許可をいただきたいのですが」


 「はい。残念ながら今丁度、町長はメデュンにいらっしゃらないのです。なんでも、大切なご用事ができたそうで、遠方に行っておりまして。ですから、先ほど『今日』は売ることができないと、申し上げたのです」


 「……そういうことですか。では、町長さんはいつごろ戻って来られるのですか?」


 「そうですね……早ければ明日の昼頃には、遅くとも明後日には戻られると思いますよ」


 「ああ、そうですか……!! それなら、一晩か二晩、こちらに泊まらせてもらってもいいですかね?」


 「おお、もちろんでございます!!! メデュン一団となって歓迎いたしますよ!!!」


 「ありがとうございます!」


 とりあえず、今後の動きが決まった。

 一日二日消費してしまうが、最大の目的である薬をもらうことはできそうだ。


 「では、泊まっていただく部屋を紹介しますね。……そうだ、お三方、まだお名前を聞いていませんでしたね? せっかくの客人です。ぜひ、教えていただいてもよろしいですか!?」


 翔英たちはイスから立ち上がり、各々の名前を伝えた。


 「ショウエイさん、ケバローさん、ジュンさんでありますか! 私はこの町の駐在、ワーラスと申します。よろしくお願いします」


 その名前を聞いた翔英は、あの老人のことを思い出す。


 「……ワーラスさん。あの、ご出身はどちらですか?」


 「出身ですか? 出身はこの町の東にある、レッドブランという町ですよ」


 あの老人が言っていたことは本当だった。

 面倒くさいので翔英は少し迷ったが、老人のことを彼に伝えることにする。


 「……えっと、俺たち、メデュンに着く前にレッドブランに寄ってて、そこでワーラスさんのお父さんとちょっと話したんです。息子にあったら、よろしく言っといてくれって」


 「ああ、そうだったんですね。元気にしてましたか? 父は」


 「まあはい、元気そうでしたよ」


 「そうですか、それはよかった。もうしばらく戻っていませんからね。ありがとうございます。父の話を聞けてよかったです」


 一行は集会所を出て、宿に向かい始めた。

 道中、翔英はその話をつなぐ。


 「……あの、ワーラスさん。ワーラスさんはなんで、メデュンに住むことにしたんですか?」


 「この町が好きだからですよ。レッドブランにいるよりもこの町にいる方が、幸せを感じることができるんです。このメデュンという町は、笑顔に溢れているんですよ。――――はいっ着きましたよ!! こちらになりますね」


 三人はお世話になる空き家へと案内された。

 外観はやや地味だが、三人で泊まるのにはちょうどいい広さだ。


 「では、私はこれで失礼いたします!!」


 「ああ、すいませんワーラスさん。もう一つだけ聞いてもよろしいですか?」


 立ち去ろうとしたワーラスを呼び止めたのはケバローだ。


 「もし分かればでいいんですが、私たちの求める薬があるかどうか聞きたいのです。強いトラウマによって乱れた精神を安定させ克服させるものと、深い眠りについている人間を強制的に目覚めさせるものです。どうですかね?」


 翔英はケバローの巨大な背中を尊敬の目で見つめた。

 確かにここでそれが分かれば、明日への不安も完全に消え去る。


 「なるほど。それはなかなか強めのものですね。ですが、それに近いものは必ずございますよ。それに町長ならば、その用途に沿った新しい薬を調合することができます。そこは、安心していただいて大丈夫ですよ」


 「おお、ありがとうございます」


 ケバローに続いて、翔英とジュンもワーラスに頭を下げた。

 それから、ワーラスも自宅へと戻っていった。


 後で気づいたことだが、この建物には部屋は二つしかなく、片方の部屋には誰も済んでいない。

 つまり、この建物にいるのは、翔英たち三人だけだった。

 来客が来たとき用の部屋だと、ケバローは予想した。


 その後、ジュンが買い込んでいた携帯食で一夜を過ごした。

 その際に、中央都市に戻ったらまた、ケバローの料理を子どもたちと一緒に食べることを約束した。

 数時間立ったころ、三人は部屋に備えてあった布団にくるまって眠りについた。


 もちろん、布団は一人一つずつだ。


 ケバローにとっては、一日ぶりの睡眠の時間だった。

 支障はないとはいったものの、ゆっくり眠れるに越したことはない。

 ジュンもすぐに眠った。

 彼はまだ、十二歳の少年なのだ。

 

 ただ、翔英は眠るのに時間がかかってしまった。


 二日前のロジェとの戦いの前には、こんなことになるなんて思わなかっただろう。

 

 逆に、もうメデュンに着けたのはラッキーだった。

 出発したときの予定では、まだ町を転々としている最中だ。


 まあ、何はともあれ目的地には無事に辿り着き、目的物も手に入ろうとしている。


 向こうに戻ったときには望みが叶うことを祈りながら、彼は夢の世界へと入っていった。


 そして、翌日。

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