第八十一話 『メデュン到着』
休憩がてらに立ちよったレッドブランで食事を済ませた三人。
メデュンまでは残り二時間だが、車内での二時間は中々長い。
持ってきた分の携帯食を切らしてしまっていたジュンは、つなぐためのお菓子を買いにいった。
その間、中央にあるベンチで翔英とケバローは待機していた。
ジュンが戻ってきたら、メデュンへの再出発だ。
「――――そういえばケバローさん。ケバローさんって、ちゃんと寝れてるんですか? メデュンまで後二時間ってことは、もう一日近く走り続けてたってことですよね? あれですか? 俺たちが寝ちゃってた間に、実は少し休んでたみたいな」
聞きそびれていたことを、翔英は隣に座る男に聞いた。
顔を見たところでは、あんまり疲れは感じられない。
「いや、出発してから、全く寝てないよ。ショウエイくんとジュンが寝ている間も、ずっと止まらずに走ってたからね」
大きめのリアクションを挟み、翔英は心配の言葉を掛ける。
一日寝ないって、運転にも支障が出るだろう。
そんな翔英の心配をケバローは笑って跳ね返した。
「いやいや、全然大丈夫だよ。こういうことには慣れているからね」
「………慣れてるか。そうなんですね………でも、気を付けてくださいね……体調には」
ケバローの職業はコックだと聞いている。
それにあれだけの子供たちを一人で育てているのだ。
きっと、忙しくて中々ゆっくり寝る時間が取れていないのだろう。
翔英は心の中でそう決めつけ、彼の身体を労わった。
「ああ、ありがとう。……ところで、聞きそびれていたけど、ショウエイくんはなんでメデュンに行くのか、聞いてもいいかな?」
「……ああ、えっと、助けたい人がいて……メデュンに行けば、治せる薬があるかもしれないって、教えてもらって……それで………」
「助けたい人か。僕と同じだね」
「……レイ君ですね」
「ああ、ジュンに聞いていたんだったね。そう、レイだ。あの子を助けることが、今の僕の使命かな」
少しばかりの沈黙。
ジュンはまだ戻って来ない。
「……ケバローさんは、メデュンに行ったことあるんですか? 俺、行ったこと無くて、どんな場所かもよく知らないんです」
「うん……行ったことはあるにはあるんだけど、随分昔の話でね。僕がまだ小さな子供のころに、一回だけ母と行ったんだ。……僕はあまり覚えてないけど、僕が原因不明の病にかかったらしくてね。それで、向こうの薬を飲んだらすっかりよくなったんらしい。昨日、母に聞いたこの話を思い出してね。それで、メデュンに行くことにしたんだ」
「……へえ。それじゃあ、期待できますね…………あっ、ジュン、帰ってきた」
両手に荷物を持ったジュンがこちらに駆けてきているのが見える。
翔英とケバローは、ジュンの言葉と荷物を受け取った。
「じゃあ、行こうか」
「うん! どんなとこかなあ、メデュンって!!」
休憩を終えた三人は、いよいよメデュンへの最終航路に出発だ。
と、思いきや、
「……お前さんたち。メデュンへ行くつもりかの」
ケバローとジュンの会話を聞いていた町の老人が話し掛けてきた。
一番後ろにいた翔英が、老人の言葉に反応する。
翔英の声を聞き、ケバローもまた立ち止まる。
「……そうか。薬目当てじゃな。親切で言っといてやるが、あまりあの町には深入りせん方がいいぞ」
「え……? どういうことですか?」
「まあ、行って見ればわかる。……メデュンにはワーラスというわしの息子がおるんじゃが、全然帰って来んのじゃ。ついこの間様子を見に向かった娘も戻って来ない。まあ、大丈夫じゃろうが。もし二人に会ったら、よろしく言っといてくれ」
「あっ!! ちょっと……!!」
そう言うと、急に現れた老人はそそくさと帰っていった。
「……何だったんだ…………まあ、あんまり気にしない方がいいですね………行きましょう、ケバローさん………」
意味がわからないお爺さんに、翔英はやや腹を立たせる。
ジュンは老人の後ろ姿をポカーンと見つめている。
「……うん。そうだね」
逆にケバローは、意味深な眼差しを向けていた。
少し雰囲気が悪くなってしまったが、今度こそメデュンに出発だ。
三人は、レッドブランを後にした。
※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
二時間後。
遂に、メデュンに到着した。
時刻は午後五時。
日も暮れかけ、空はオレンジに光っている。
メデュン。
小さな町だ。
町というよりは村に近いかもしれない。
だが、町の外からも人々の話し声が聞こえてくる。
「……着きましたね。ケバローさん。あ、送ってくれてありがとうございました」
「いやいや、困ったときは助け合うものだよ。……それより、もう夕方になってしまったけど、夜になる前に薬をもらってこよう。今日中にここを出たいし」
「……え? ……ああ、そうですね……」
『後ろに乗っているだけの自分は全然いいけど、あなたは大丈夫なのか』と、頭の中で心配を寄せる翔英。
ケバローのことはもちろん、帰りの馬車のことにも。
まあ、こっちもあんまりゆっくりしている時間はないので、そっちの方が助かるけど。
景色は普通の町とさして変わらない。
見る限りでは、特にこれといって特徴もない。
三人は、話しながら町に足を踏み入れた。
「どこで売ってるんでしょうね? まあまだ売ってると決まったわけじゃないですけど」
「町の人に聞いてみよう。まだ結構外にいるようだし」
「そうですね。あっ、あの人に聞いてみます」
町に入ってすぐ、すぐ目の前にいた男性に声を掛けようとする。
しかし、翔英が声を掛ける前に、向こうの方から声を掛けてきた。
「あれ? もしかして新規入居者ですか!? それとも、観光ですか!?」
男は一流の接客のような百点満点の笑顔を浮かべながら、思ったよりでかい声で話し掛けてきた。
「いや……えっと、そうじゃなくて……いや合ってるか………あの、薬を買いに来たんです。ここでしか買えない薬があるって聞いて………」
テンションの高さにびっくりした翔英は、やや口ごもりながら言葉を返す。
「この人その辺の一般の方だよな?」と思いながら。
「そうです。どちらで売っているか教えていただきますか」
ケバローもまた、真剣な口調で彼に尋ねた。
彼に驚いたジュンは、ケバローの大きな背中の後ろに隠れている。
「ああ、そうだったんですね、薬を買いに!! わざわざお越しいただきありがとうございます!!」
彼の想像以上の声量に反応した他の町人たちが、ぞろぞろとこちらに近づいてきた。
屈託のない笑顔に苦い顔を浮かべながら、翔英は天を仰ぐ。
しかし、
「おおっ!! 馬車が見えますね!!! さあ、馬車はどうぞこちらに!!!」
「ぜひっ!!! ゆっくりしていってくださいね!!!!」
集まって来た人々もまた、眩しい笑顔を浮かべながら、翔英たちを歓迎する。
「ようこそおいでくださいました!!! 最西の町、メデュンへ!!!!」
凄まじい歓迎ムードの中、翔英たちは町に迎えられた。




