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ヴェルソレクト  作者: 高野翌
第五章
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第八十一話 『メデュン到着』

 休憩がてらに立ちよったレッドブランで食事を済ませた三人。

 

 メデュンまでは残り二時間だが、車内での二時間は中々長い。

 持ってきた分の携帯食を切らしてしまっていたジュンは、つなぐためのお菓子を買いにいった。

 その間、中央にあるベンチで翔英とケバローは待機していた。

 

 ジュンが戻ってきたら、メデュンへの再出発だ。


 「――――そういえばケバローさん。ケバローさんって、ちゃんと寝れてるんですか? メデュンまで後二時間ってことは、もう一日近く走り続けてたってことですよね? あれですか? 俺たちが寝ちゃってた間に、実は少し休んでたみたいな」


 聞きそびれていたことを、翔英は隣に座る男に聞いた。

 顔を見たところでは、あんまり疲れは感じられない。


 「いや、出発してから、全く寝てないよ。ショウエイくんとジュンが寝ている間も、ずっと止まらずに走ってたからね」


 大きめのリアクションを挟み、翔英は心配の言葉を掛ける。

 一日寝ないって、運転にも支障が出るだろう。


 そんな翔英の心配をケバローは笑って跳ね返した。


 「いやいや、全然大丈夫だよ。こういうことには慣れているからね」


 「………慣れてるか。そうなんですね………でも、気を付けてくださいね……体調には」


 ケバローの職業はコックだと聞いている。

 それにあれだけの子供たちを一人で育てているのだ。

 きっと、忙しくて中々ゆっくり寝る時間が取れていないのだろう。

 

 翔英は心の中でそう決めつけ、彼の身体を労わった。


 「ああ、ありがとう。……ところで、聞きそびれていたけど、ショウエイくんはなんでメデュンに行くのか、聞いてもいいかな?」


 「……ああ、えっと、助けたい人がいて……メデュンに行けば、治せる薬があるかもしれないって、教えてもらって……それで………」


 「助けたい人か。僕と同じだね」


 「……レイ君ですね」


 「ああ、ジュンに聞いていたんだったね。そう、レイだ。あの子を助けることが、今の僕の使命かな」


 少しばかりの沈黙。

 ジュンはまだ戻って来ない。


 「……ケバローさんは、メデュンに行ったことあるんですか? 俺、行ったこと無くて、どんな場所かもよく知らないんです」


 「うん……行ったことはあるにはあるんだけど、随分昔の話でね。僕がまだ小さな子供のころに、一回だけ母と行ったんだ。……僕はあまり覚えてないけど、僕が原因不明の病にかかったらしくてね。それで、向こうの薬を飲んだらすっかりよくなったんらしい。昨日、母に聞いたこの話を思い出してね。それで、メデュンに行くことにしたんだ」


 「……へえ。それじゃあ、期待できますね…………あっ、ジュン、帰ってきた」


 両手に荷物を持ったジュンがこちらに駆けてきているのが見える。

 翔英とケバローは、ジュンの言葉と荷物を受け取った。


 「じゃあ、行こうか」


 「うん! どんなとこかなあ、メデュンって!!」


 休憩を終えた三人は、いよいよメデュンへの最終航路に出発だ。

 と、思いきや、


 「……お前さんたち。メデュンへ行くつもりかの」


 ケバローとジュンの会話を聞いていた町の老人が話し掛けてきた。


 一番後ろにいた翔英が、老人の言葉に反応する。

 翔英の声を聞き、ケバローもまた立ち止まる。


 「……そうか。薬目当てじゃな。親切で言っといてやるが、あまりあの町には深入りせん方がいいぞ」


 「え……? どういうことですか?」


 「まあ、行って見ればわかる。……メデュンにはワーラスというわしの息子がおるんじゃが、全然帰って来んのじゃ。ついこの間様子を見に向かった娘も戻って来ない。まあ、大丈夫じゃろうが。もし二人に会ったら、よろしく言っといてくれ」


 「あっ!! ちょっと……!!」


 そう言うと、急に現れた老人はそそくさと帰っていった。


 「……何だったんだ…………まあ、あんまり気にしない方がいいですね………行きましょう、ケバローさん………」


 意味がわからないお爺さんに、翔英はやや腹を立たせる。

 ジュンは老人の後ろ姿をポカーンと見つめている。

  

 「……うん。そうだね」


 逆にケバローは、意味深な眼差しを向けていた。


 少し雰囲気が悪くなってしまったが、今度こそメデュンに出発だ。

 三人は、レッドブランを後にした。


※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 二時間後。


 遂に、メデュンに到着した。


 時刻は午後五時。

 日も暮れかけ、空はオレンジに光っている。


 メデュン。

 小さな町だ。

 町というよりは村に近いかもしれない。


 だが、町の外からも人々の話し声が聞こえてくる。


 「……着きましたね。ケバローさん。あ、送ってくれてありがとうございました」


 「いやいや、困ったときは助け合うものだよ。……それより、もう夕方になってしまったけど、夜になる前に薬をもらってこよう。今日中にここを出たいし」


 「……え? ……ああ、そうですね……」


 『後ろに乗っているだけの自分は全然いいけど、あなたは大丈夫なのか』と、頭の中で心配を寄せる翔英。

 ケバローのことはもちろん、帰りの馬車のことにも。

 まあ、こっちもあんまりゆっくりしている時間はないので、そっちの方が助かるけど。


 景色は普通の町とさして変わらない。

 見る限りでは、特にこれといって特徴もない。

 三人は、話しながら町に足を踏み入れた。


 「どこで売ってるんでしょうね? まあまだ売ってると決まったわけじゃないですけど」


 「町の人に聞いてみよう。まだ結構外にいるようだし」


 「そうですね。あっ、あの人に聞いてみます」


 町に入ってすぐ、すぐ目の前にいた男性に声を掛けようとする。

 しかし、翔英が声を掛ける前に、向こうの方から声を掛けてきた。


 「あれ? もしかして新規入居者ですか!? それとも、観光ですか!?」


 男は一流の接客のような百点満点の笑顔を浮かべながら、思ったよりでかい声で話し掛けてきた。 


 「いや……えっと、そうじゃなくて……いや合ってるか………あの、薬を買いに来たんです。ここでしか買えない薬があるって聞いて………」


 テンションの高さにびっくりした翔英は、やや口ごもりながら言葉を返す。

 「この人その辺の一般の方だよな?」と思いながら。


 「そうです。どちらで売っているか教えていただきますか」


 ケバローもまた、真剣な口調で彼に尋ねた。

 彼に驚いたジュンは、ケバローの大きな背中の後ろに隠れている。


 「ああ、そうだったんですね、薬を買いに!! わざわざお越しいただきありがとうございます!!」


 彼の想像以上の声量に反応した他の町人たちが、ぞろぞろとこちらに近づいてきた。


 屈託のない笑顔に苦い顔を浮かべながら、翔英は天を仰ぐ。

 しかし、


 「おおっ!! 馬車が見えますね!!! さあ、馬車はどうぞこちらに!!!」


 「ぜひっ!!! ゆっくりしていってくださいね!!!!」


 集まって来た人々もまた、眩しい笑顔を浮かべながら、翔英たちを歓迎する。


 「ようこそおいでくださいました!!! 最西の町、メデュンへ!!!!」


 凄まじい歓迎ムードの中、翔英たちは町に迎えられた。

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