第七十一話 『戦闘終結』
二人は、先程の顛末について報告する。
また、その際に翔英は、鍛錬場の鍵をオーに渡し、戦いの経緯や対峙した魔物についての話もした。
「――――そうか。……本当によくやってくれた。ショウエイくん、ミネカちゃん、ラフェルくん、ソルちゃん。……この戦いは、みんなの勝ちと言っていい」
話を聞いたオーは、一行に労いの言葉を掛ける。
翔英とミネカが最初に魔物を迎え撃ち、後から合流した三人へとつないだ。
そして、受け取った彼らがその役目を果たした。
なにより、こちらは一人の犠牲も出さなかった。
この中年は、もっと胸を張っていいと、若者たちに伝えたかったのだ。
ソルとラフェルは顔を合わせて微笑み合う。
一方翔英の表情は、どこか曇りが見えるままだった。
「……オーさん、それにラフェルとソルも。……これは、俺の根拠のない予想でしかないんだけど………ロジェ……あいつはまだ、何となく生きている気がするんだ」
馬車へ向かう道中、翔英は彼らに告げる。
ラフェルはまたしてもソルと顔を合わせ、少し眉をひそめる。
あの状況で自分たちの技をやり過ごした。
そんなわけがないとでも言いたげだ。
「――――うん、最後を確認できなかった以上、僕らもその可能性を考慮しなければならない。その彼は、魔王の血族なんだろう? ならなおさら、生きている可能性は否めない。本当は、ここで確実に倒しておきたかったけどね」
オーの方は、翔英の意見に同調する。
彼は、決めつけることは致命的になるとよくわかっているからだ。
「…………それにしても、まさかこの場所に現れるとは………鍛錬場のことも………」
今度は、ロジェらが鍵を狙ってやってきた事実に頭を悩ませるオー。
鍛錬場を使い始めてからずっと、その詳細が敵にバレることはなかった。
これは、最悪の可能性を考えなくてはならない。
「――――なんでわかったんだろうな。鍛錬場のこと、あいつらが」
「………さあ………でも、戻ったらすぐにこのことを共有しないとね。奴らに場所がバレてしまった以上、もしかしたら、もうあそこは使えなくなるかもしれない………」
純粋な疑問を投げかけるラフェルに対して、オーは答えることはできない。
頭の中にはいくつか答えがあるが、確定していないことを今はまだ、若き彼らに伝えるべきではないと判断した。
「…………おっ、そろそろだね。この辺りだ、鍛錬場は」
翔英の前に、懐かしの景色が広がる。
実際には数時間しか経っていないが、心のどこかでもう戻って来れないと思っていたこともあり、なんだか久しぶりに帰って来たような感覚だ。
「今日はもう帰ろう」
翔英たちは鍛錬場の姿を見ることもなく、馬車に乗り込み、本部へと帰還しはじめた。
運転を務めるのは、疲労や負傷がもっとも少ない最年少のラフェルだ。
幼少から家庭の事情で馬術を身に着けていた彼にとっては、馬車の操縦などお手の物だ。
座席には眠りながら座るミネカ、翔英、ソル、オーの四人が詰まっている。
ミネカが倒れないように、その側では翔英とソルが見守っている。
「………オーさん………ミネカは、大丈夫なんですよね? なんどもすいませんが、まだ少し不安で……」
馬車が走り出してすぐ、沈黙が訪れる前に口を開いたのは翔英だ。
「……うん、話を聞く限り、ミネカちゃんは自身の魔力を使いきったのだろう。僕も聞いたことの無い魔法だけど、莫大な魔力を必要とするのは明らかだ。……そのため、回復して意識を取り戻すのに時間がかかってしまっているのだと思うよ。……大丈夫、その内目を覚ますさ」
「……ですよね。ありがとうございます」
今はオーの言葉を信じるしかない。
早く礼を伝えたい翔英は、気持ちを落ち着かせようと、窓から見える景色に目をやった。
そして、馬車を走らせること小一時間。
一行は、ようやく本部へと帰ってきたのだった。
「――――よし、みんな。今日は本当にお疲れ様でした。本来の予定なら、明日からも訓練を行う予定だったけど、その予定は大きく変わると思う。また後日、連絡があるだろうから、それまでは各々自由に過ごしてくれ。まあ、今日は大変だったし、明日はゆっくりしてほしいけどね。……じゃあ、解散で」
本部の前でこれからの話がされる。
翔英たち三人は並んで話を聞いているが、ミネカはまだ荷台の中だ。
ソル、ラフェルと少しばかり言葉を交わすと、彼らは帰路についた。
二人の姿が見えなくなると、彼らを共に見送ったオーに、翔英は声を掛ける。
「あの、オーさん。ミネカは、どうするんですか?」
「うん、これからすぐに病室に連れて行くよ。多分、今は空きがあるはずだからね」
本部に隣接するある施設。
そこには、身体を崩したものが休めるための病室がいくつか設備されている。
翔英も一度覗いたことがあるので、場所は知っている。
「分かりました。……じゃあ、明日また、ミネカの様子を見に行きます」
「わかった。……って、僕が返事してもしょうがないけどね」
「……オーさん、今日はありがとうございました。また今度、よろしくお願いします」
「うん。こちらこそ」
翔英はオーに別れの挨拶を告げ、スエリア荘へと向かった。
もうすっかり愛着が湧いている自分の部屋に入ると、汚れた身体を洗い流した。
晩御飯は買いだめしていたパンで済まし、長かった一日を振り返りながら、翔英は眠りに落ちた。
――――今日のこの戦いは、やがて訪れる、翔英最大の試練の引き金となる。




