第七十話 『最期を胸に』
「――――おそらく、彼らの攻撃だろうね……まさか、こんな遠距離攻撃を持っていたとは……」
兵士たちに肩を貸されるロジェが解説する。
だが、さすがのロジェですら予想外だった。
翔英とオーは近距離タイプだと分かっている。
まさかあの子供たちがこんな技を使うとは思わなかった。
「………あ……また来るぞ……!! さっきのが……!!!」
さらにもう一発。
先程と同じ威力を持ったあれが。
「回避しろっ!!! 避けてやり過ごすしかないっ!!!」
その言葉と共に動きだす魔物。
しかし、弾のスピードは予想以上に早かった。
一人は回避が間に合わず敗れ、さらにもう一人は動けないデゼスポを庇い散った。
「…………俺だけになってしまった……強すぎる…………反撃すら全くできない……」
二十人いた兵士も残り一人。
さすがに一人になるのは心が折れる。
「………彼らを侮ったな……聖鳳軍の若い力がこれほどまでに育っていたとは…………ははっ、こりゃあどっちが勝つのか読めないな……そこに僕がいないのは残念だけど……」
それはロジェも同じだった。
自身とデゼスポは戦闘不可能。
残っているのは兵士一人。
敵の姿も見えないままここまで追い詰められてしまっては、打開策も見つからない。
「………先ほどのペースだと、そろそろ…………き、来た……!!! ……ロジェ様!!!」
彼の最期をもって、この間まで二十五名いたレウラ軍は全滅した。
「――――よし……!! 今のも当たった、全弾命中だ……!! まだ行けるか? ソル」
合体遠距離魔法を計四発撃った二人。
纏わせた風の流れによって、生物に当たったことは感知できるが、誰に当たったかまではわからない。
ターゲットがまだ生きていることを考え、さらにもう一撃お見舞いしようと試みる。
「………うん……でも、後……二発が限界かな……これ以上は持たない……」
ミネカとオーを回復させたこともあり、ソルのマナはほとんど枯渇している。
だが、魔力を振り絞り、ラフェルの期待に応える。
「わかった……!! 敵は確か……丁度六人だったはず……!! うん、それで十分だ……!! じゃあ、これで最後だ、行くぞっ!!!」
二人は再び、炸裂魔法弾を発動させた。
一方、ロジェ。
あれはほんの少しだけかすっても巻き起こす風に触れただけでも爆発を起こす。
それに加えて、あのスピードだ。
万全でなければ避けられない。
次が来たら――――最後だ。
ロジェはその場にうずくまり、後ろで横たわる忠臣へと目を向けた。
音が近づいてくる。
レウラの部下たちを焼き切ったあの音が。
「……世話になったな、デゼスポ」
「…………ロジェ………様………」
ドンッと、激しい音が鳴り響いた。
「……よし、二発とも成功だ……!! 当たった感覚はある!! ソル、一応、俺が見てくるよ。ソルはしっかり休んででくれ」
「……うん、ありがとう」
ラフェルは、敵の確認に向け走り出した。
その距離は、およそ五百メートルほどだ。
「……ラフェルくん、向こうを確認しに行くようだね」
「……オーさん、すみませんが、ミネカを見ててやってくれますか。俺も、ラフェルと一緒に見てきます……!!」
「………いいよ、行ってきな」
翔英もラフェルを追って飛び出した。
あの技がどんなものかはわからないが、向かい合えば恐ろしいものだとはわかった。
それがどんな結末を招いたのか、ロジェがどうなったのか。
この目で確かめたいと考えていた。
何とかラフェルの背中を追い続ける翔英。
走り始めてから数分後、ラフェルが立ち止まったのが見えた。
「…………止まったか………………あっ!?」
「ショウエイも来たのか。……見ろよ、これ」
二人の目に入ったのは、一人立ち尽くす大男の姿。
何かを守るようにそびえたち、そこから全く微動だにしていない。
デゼスポ。
そこにいたのは、虚ろな目で立っている彼一人だった。
ラフェルが生死を確かめようとする前に、デゼスポは力尽き完全に消滅した。
その顔からは、辛さなどの負の感情は感じられなかった。
むしろ、何かをやり遂げたようだった。
「……死んだか、他の奴も同じはずだけど………あいつら、死んだら肉体を留めないのが厄介だな………まあ、多分倒したけど」
魔法は合計六発放った。
それらすべて、命中したのは確実だ。
普通に考えれば敵は全滅したと考えていいだろう。
「……ん? どうしたのショウエイ?」
と、一点を見つめながらボーっとしている翔英を心配するラフェル。
「……ああ、ごめん、ちょっと考えごとしてて………」
と、翔英は曖昧な回答だ。
「ふーん、そっか。……で、どうする? 一旦戻った方がいいかな?」
「……うん、そうだな。戻ろう」
二人は来た道を引き返すことに決めた。
ここは辺りがよく見渡せる場所であり、道は一本しかない。
あの負傷を抱えたロジェが、見えなくなるほど遠くへ行けるとは考えにくい。
これ以上、生きているかどうかも定かではない男を探すよりは、状況を共有する方がいいと思ったためだ。
数分後、二人はジックルの庭へと戻ってきた。
「おかえりなさい、ラフェルくん、ショウエイさん」
戻ってきた二人をソルが迎え入れる。
すぐ後ろには、目を閉じているミネカと、彼女をお姫様抱っこするオーの姿が見える。
「(……ミネカ………まだ目が覚めないのか………)」
敵がいなくなった今、当然翔英の一番の心配はミネカだ。
みんなは大丈夫だと言っているとはいえ、心配がなくなるわけじゃない。
原因は自分にあるのだから、なおさらだ。
「――――二人とも、ミネカちゃんをゆっくり休ませたい。今すぐに馬車に戻ろう。話は歩きながら聞かせてくれ」
長居は無用。
五人は、戦いの地をあとにした。




