第六十九話 『何が正義か』
――――正論。
だが、正論が常に正義とは限らない。
「…………はい。確かにその通りです。……でも……少なくとも『ロジェ』は………そんなに悪いやつじゃなかった………………」
「いや、今のミネカちゃんの様子を見て、それに頷くのはちょっと難しいよ」
「…………はい……」
それはそうだ。
自分でも言っていることの違和感に気づく翔英。
ロジェのあの言葉の印象が強すぎて、動揺していたのか。
確かに、彼らが来なければ、ミネカや自分が傷つくことはなかった。
ロジェをここで倒すこと。
それは、『正義』なのか少し迷ってしまった。
だが、オーに諭され冷静になってみると、ラフェルやソルを止める方がおかしい気がする。
でも、百パーセント納得できるかと言われれば、そうではないかもしれない。
「…………分かりました。……すみませんでした、生意気なこと言って」
「いやいや、気にしないで。君はまだ入ったばかりで、迷うことも多いだろうからね。……ただ、僕も含めて君を頼りにしている者は多いことも忘れないでくれ」
「……はい。ありがとうございます」
戦う二人の子供の背中を見ながら、翔英は決心した。
何が正しいか。
答えは自分で戦いの中で見つけると。
※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「――――ラフェルくんっ!!!」
戦うラフェルの元へ行き、ソルも参戦する。
十六人いた兵士たちもすでに七人になっており、半分以上がラフェルに倒されていた。
ただ、その間にもロジェたちは逃げ続けており、その姿は米粒程度しか見えなくなっている。
「ソル……!! 来てくれたか……!! こいつら意外としぶとくてな!!」
「うん……!! 私も……手伝う……!! はっ!!!」
ソルが見せる全体攻撃。
敵の中から炎が弾け、受けた全員がその場に倒れた。
「ナイスソル!!!」
ソルの攻撃魔法を合図に、風を纏わせた拳を打ち付けていく。
もはや嵐のようなその攻撃は、下位魔物には耐えられるものではない。
『嵐拳』
ラフェル自らが名付けたその拳で、道を切り開くことに成功した。
「く……くそ…………無念……」
残っていた兵士たちも全員敗北。
その最後の言葉通り、自身の無力さを恨むような、怒りと悲しみを顔に見せながらその姿を消した。
そして、ラフェルとソルは、ロジェとデゼスポに狙いを定めた。
「……あいつら、もう見えなくなっちゃってるな………追いつけるといいけど………そうだ、ソルっ!! あれやってみようぜ!!! ちょうど今なら、あれを試す絶好の機会だよっ!!!」
「え、ああうん、そうだね……!! やってみよう………!!!」
追いかけることはせず、その場で何かを始める二人。
まず、ラフェルが竜巻を起こす。
といっても、かつて見せたような巨大なものではなく、独楽のように回る、極めて小型の風の塊だった。
「よし……!! 頼むぞソルっ!! さっきみたいにな!!! 『炸裂魔法弾』だ!!!!」
「うん……!! 任せて……!!!」
ラフェルの指示でソルも動き始める。
炎魔法を唱えるのはこれまでと一緒だが、その出し方に違いがあった。
前回は外側から魔法をぶつけていたが、今回は内側から魔法を発生させた。
当然、姉からのアドバイス通り、ラフェルに合わせて威力は調整済みだ。
「……オーさん、あなたは行かなくていいんですか? もうロジェたちここからじゃ見えなくなりましたけど」
立ち上がったまま加勢しようとしないオーに、とりあえず質問する翔英。
自身はもう参戦する意思はない。
しかし、あれほど敵を逃がすことを良しとしていないオーが動かないことに疑問を持ったからだ。
「……ああ、行こうと思ってたけど、まだ少し頭が痛くてね。それに、大丈夫そうだ。あの二人なら。……それにね、ショウエイくんは見れなかったけど、あの二人にとっておきの技が出来たんだ。それを今から、見せてくれるよ」
「……とっておきですか?」
今まさに――――そのとっておきを披露しようとするラフェルとソル。
内側から発動した炎により、小型風はバチバチと火を帯びていく。
そしてその爆弾となった塊を、ラフェルが突風を起こして猛スピードで彼方へと飛ばした。
「――――どうやら、残った者は全員やられたようだな……」
「ああ……だが、何としてもお二人をその場所までお届けするのだ……!!」
ロジェとデゼスポ、そして四人のレウラ軍兵士たち。
同胞の死を感じ取りながらも、彼らは歩みを止めることはない。
「ん……!? なんだこの音は……!? な、何かが……!!!」
異様な音と気配に後ろを振り返る男たち。
そこには、小さいながらも凄まじい炎と風を起こしながら突っ込んでくるものがあった。
それを見た一人の兵士は危険を察知すると、身を盾にしてそれを受け止めた。
触れた瞬間、これまた小さな爆発が兵士を襲い、その兵士は言葉を上げることなく消滅した。
その余波も彼に留まらず、近くにいたロジェたちにも及ぶ。
「……な……!? なんだ今のは……!!? マーガの奴が……!!!」
また一人同志を、一瞬にして失ったことに動揺するのは無理ないだろう。
三人の兵士は、未知なる牙に恐怖した。




