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ヴェルソレクト  作者: 高野翌
第四章
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第六十七話 『奥の手』

 ジックルの『奥の手』。

 それは、大気外への封印。


 全てを掛けた技で、オーを消すことに成功した。


 歓声で湧きあがるレウラ軍とは裏腹に、ジックルの表情には曇りが見える。

 彼は切り落とされた右腕を拾うと、翔英たちの方を確認した。


 「――――後はあの三人か……かなりきついが、あいつらを使えば、なんとか……」


 ジックルは引かない。

 レウラ軍二十名と共に、翔英たちに勝負を挑もうとする。

 主の望みを叶えるために。

 ジックルの最大の目的は翔英なのだ。


 そんな翔英は、消えたオーを見て震えあがっていた。


 「や……やばいぞ……オーさんが……助けに……助けにいかないと……!!」


 「待てショウエイ!! オーさんはまだ負けちゃいない!! あれを見てみろ!!」


 飛び出そうとした翔英を今度はラフェルの方が制止した。

 ラフェルの目には、ある『怪物』が映っていたからだ。

 その怪物は、ジックルの背後に突然現れていた。


 「……あっ!! あいつは……!!」


 その鬼のような怪物はオーの刀を拾うと、ジックルの首に殺意を向けた。

 「グルルルルァ!!」という、凶暴な野獣のような咆哮とともに。


 「なっ!? なんだこの化物は……!! いったいどこから――――」


 ジックルが振り向いてすぐ、彼の首は宙を舞った。

 突然のことに対応が遅れ、首へのガードが遅れてしまったのだ。


 「――――な……なにが……起こったのだ……首を……斬られたのか……」


 すると、再び大気に先ほどと同じ裂け目が生まれ、その中から重症を負った様子のオーが出てきた。

 服はあちこち破れ、体中からも出血が止まらない。

 

 しかし、死の空間から生還した時点でそんなことは些細なことに等しかった。


 「……危なかったね」


 オーはまずそう口にした。

 宇宙空間から生身で生還した様なものなのに、あまりに軽いシンプルな感想だ。 


 「……くそ……私の命が尽きようとしたことで、空間が崩壊したのか……しかし、こいつは一体……なんなんだ……」


 「この子は僕の刀が呼び出す鬼さ。ギリギリのところで呼び出しておいてよかったよ」


 「……あの時か……!! ――――しかし……鬼とは……どこまでも、追いつけない男だ……オー・ラッセ…………」 


 ジックルも把握していなかった魔能の破り方。

 次元を裂いてできる空間は、ジックルの能力により生まれたものだ。

 能力によって作られたものは、主が消えれば消滅する。

 そう予想したオーの読み勝ちだった。


 彼は吸い込まれる直前に刀を地面に刺し、特上の鬼を呼び出していた。

 

 その地で血が流れれば流れるほど強い鬼が生まれる。

 今日だけでも死人が出るほどの戦いがあった。

 あの時、翔英たちを襲った最大のと同じものが生まれるのは当然だった。


 「――――終わりだね。でも、まさかここまでやられるとは思わなかったよ」


 オーは刀を拾うと、恩人である鬼を地に戻す。

 そして、崩れていくジックルの顔を見送っていた。

 彼の幕を引いた者として、彼が見せた執念に応えようと。


 ――――しかし、オーの後ろに立つ影が、鎌を振り下ろした。

 即座に対応するオーは、鎌の持ち主の身体を斬り裂く。


 「……なんと、本当にどこまで……」


 振り返ったオーは、自分が斬った者の姿を見て衝撃を走らせる。

 そう、それは首と右腕がもがれているジックルの『肉体』だった。


 そんな肉体も形を失っていく。

 意識すらもう残ってはいない。


 残された身体が動いたのは、無意識のものだった。


 「……レ……ウラ……様………ど……う…か…………」


 消えた。

 腕一本も残さず、彼は完全にこの地から消え去った。


 ――――決着。


 勝者、オー・ラッセ。


 「――――終わった……オーさんの勝ちだ……!!」


 二人の勝負を見届けたラフェル。

 すぐさまオーの元に風のように駆けていく。

 

 「……私も……オーさんの傷を治さないと、ショウエイさんすいません、行ってきます」


 ソルも、ジックル最後の抵抗で負傷したオーを治しに向かう。

 一人残された翔英だが、彼はその場を動くことはできない。

 未だに目を覚まさないミネカの側を離れられないからだ。


 「……さすがです、オーさん。……これで、やっと帰れるかな……ミネカ」


 ジックルの敗北を確認したことで、ひとまず安堵する翔英。

 目を瞑って横たわるミネカへと目を向ける。

 

 もう敵という敵はいない。

 今日はもう早く帰りたい気持ちでいっぱいだ。


 「ま……まさか、ジックル様が……そんな……!! ……我々はどうすれば…………!!!」


 当然、レウラ軍の中でもざわめきが起こる。

 ロジェとデゼスポの応急手当ては終わっていたが、血止めなどを行っただけで、完治には程遠い。

 

 特にデゼスポはギリギリだ。

 

 だが、ジックルの敗北を受け、どこか悲しそうな顔をしていたことには、兵士たちが気づくことは無かった。


 ロジェの方はしっかりと意識は保てているが、依然苦しい状態だ。

 ラフェル、翔英、ソル、オーまで揃っている状況を突破できるような力はもうない。


 聖鳳軍VS魔凰軍の戦い。


 両陣営に死人すら出る凄惨な戦いとなったが、聖鳳軍の勝利が見えてきた。

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