第六十六話 『達人対武人』
ジックルの庭、別名、『破軍庭』。
この地で起こった戦いも終盤、両軍の主力同士の戦闘が勃発。
オー対ジックル。
互いに一切の油断もない戦いは、さらに激しさを増していく。
特にジックルの猛攻には目を見張るのがあった。
『格上』に食らいつこうとするジックルの気迫は凄まじいもので、ひたすら攻撃の手を止めない。
オーはひたすら防御を強いられている。
ここまではジックルのペースで戦況は進んでいた。
その戦況を見ていた翔英たち三人。
押されるオーを見て、若干慌て気味。
だが今は、この男を信じることにしたのだ。
現在の聖鳳軍の中で、ヴァナベールに次ぐ古参であるオー・ラッセがこのまま終わるはずがない。
「………うん、そろそろだね……」
オーが動く。
ジックルの攻撃を華麗に躱すと、肩から胸に掛けての一撃を決めた。
「……!! なんと……!! ……貴様……私の動きを……」
猛攻を崩されたジックルはすかさず間合いをとる。
ジックルは目を見開き、不本意ながらオーの動きに魅了された。
対するオーの方は、どこか余裕のある笑みを崩さない。
その風貌も相まって、達人のような圧倒的な『強者』のオーラを感じさせた。
「――――うん、まあね。それもある。けど、それだけじゃない。さっきまでの君は僕に攻撃の隙を与えなかった。が、今はその隙を与えてしまった。なぜなら、君の技のキレは少しずつ落ちているからさ」
「……くっ……!! ……やはり……」
ジックルは息が上がっている。
その自覚は、当然彼にもあった。
「ジックル君は最初から、全神経を注いで全力で僕に挑んできた。だが、いつまでもそんな状態でいることは不可能だ。おそらく君はそうしなければ僕に勝てないと思ったんだろう。……だけど、最初から全力で飛ばすなら君は、速攻で決めないといけなかった」
「……ふん、説教が長いな。……確かに貴様は強い。この私よりもずっとな。……だが、戦いというものは、強い者が勝つと決まっているわけではない。……私は負けんぞ……我が主レウラ様のため……!! そこで見ている部下たちのため……!! 絶対に負けるわけにはいかんのだ!!!」
ジックルは鎌を振り、魔能を使用した。
大気の割れ目が生まれ、翔英が食らったように、オーも吸い寄せられていく。
「もらったあっ!!!」
ブラックホールに吸い寄せられるように近づいてきたオーの首に狙いを定めるジックル。
タイミングを合わせて、彼は鎌をスイングした。
しかし――――飛んだのはオーの首ではなく、ジックルの右腕だった。
「……ば……ばかな……この私の魔能を受けながら……私よりも先に……攻撃を合わせただと………」
多大なダメージとショックを受けたジックル。
普通ならば体の自由が効かないほど吸引されながら、オーは最小限の動きで攻撃の手を斬った。
そんなことをされたのは生涯初めてだ。
ジックルは目の前の男の実力を思い知らされた。
「いやいや、なかなか面白い能力だね。腕しか動かなかったよ。だけどまあ、敵を刺すのに腕が回せれば事足りる」
「……何というやつだ……力の差がこれほどとは…………」
利き腕を失ったジックル。
満身創痍になりながらも、左腕で鎌を構えた。
「(……まだ、戦意を失わない。何か隠しているのか……?)」
片腕で何とか立ち上がるジックルに対して、警戒を敷くオー。
ジックルの目はまだ死んでいないからだ。
「…………完敗だ。オー・ラッセ。……信じがたいが、貴様は全てにおいて私の上をいっている。どうあがいても、私に勝ち目はない……だが、まだ『負けない』ことはできる……!! ……はあっ!!」
気合いの叫びと共に左腕で鎌を二回振るジックル。
すると、空間に十字に刻まれた大気の裂け目が開いた。
「……っ!! ……これはっ!!!」
通常通り、その裂け目へと吸い寄せられていくオー。
しかし、その吸引力は先ほどの比ではなかった。
ジックルの魔能。
鎌で振った箇所に指定したモノを吸い寄せる能力。
一定の距離以内ならば、大木をも吸い寄せることができるという。
だが、鎌をクロスさせ、十字型に振った場合。
その吸引力は数倍に跳ね上がり、もはや回避することは不可能となる。
だが、その恐ろしさは吸引力にあるのではない。
『大気の裂け目に閉じ込める』。
それがジックル最後の切り札。
ジックルが開いた空間は、まるで地球外のようになっている。
生物が飛ばされれば、数秒と持たない環境だ。
彼の美学に反するためにめったに使うことは無いが、窮地に追い詰められた時だけ使用することを決めている。
閉じ込められたら最後、彼がもう一度大気を裂かない限り、二度と日の目は拝めない。
「……く……!! なんて……パワーだ……!!」
今度は腕一本すら動かすことができない。
刀を地に差してこらえようとするが、数秒耐えるので精一杯だ。
オーはとうとう刀を手放し、次元の狭間に吸い込まれてしまった。
「…………すまんな、オー・ラッセ。――――私はまだ、倒れるわけにはいかんのだ」
『全ては主君のため』
彼は武人としての美学を捨て、強敵を彼方へ葬り去った。




