第三百三十二話 『悪意の終わり』
ミネカの防御に動きを止めるジャーザンス。
その隙を突いた翔英の一撃が、胸に突き刺さった。
「ぐおおおおっ……!!」
積み重なった痛み。
流し続けた濁った血。
遂にジャーザンスは、倒れた。
歴代最強の肉体が誇る防御力で耐え続けてきたが、さすがに攻撃を貰い過ぎた。
ミネカが護り、翔英が攻める。
自分の役割を完全に理解した二人の連携には、つけ入る隙が無い。
「……長かったな。でも、やっと終わりだ……。お前も……」
最も因縁の深い彼の元へ。
翔英は無表情で剣を向ける。
「…………フフフフフ。それ以上動くなよ!! ショウエイ・キスギィ!!!」
ジャーザンスは顔とは呼べない顔を上げた。
只の虚勢。
そう思った翔英だが、彼の視線の先に危険を感じ取る。
「……!! ミネカ……!!!」
ミネカの周囲に、ジャーザンスの触手が伸びている。
ロジェの元に伸ばしたのと同じだ。
その分、ロジェの前にある物が半分程度に減っている。
「一歩でも動いてみ? 俺の腕があいつの身体にグルグル巻かれるぞォ!! 当然、有害だ。あの女の力じゃほどけない!!」
「……てめえ……!!」
「嘘だよ!! 動かなくてもやるよ!!!」
ミネカに巻かれていくジャーザンスの腕。
翔英の手は届かない。
「ミネカ!!! くそっ……!! ジャーザンス……!! お前……!!」
「ハハハハ……。……これであの女も終わり…………」
「大丈夫です!! ショウエイさん!!!」
「え?」
だが、ジャーザンスの包囲は、ミネカが力づくで剥がしていた。
驚くジャーザンス。
ロジェならまだしも、ミネカに剥がせる物ではない。
「ふっ……!!!」
「ぎえええ!!?」
剥がすだけでは終わらない。
引き千切った。
「……!! なんだ……このパワーは……!! ……まさか……まさかだろ……!!?」
「その、まさかのようですわ」
「……!! おいおいマジかよ……。なんてこった……」
ミネカの超パワーの理由。
それが自分にあることを理解するジャーザンス。
肉体改造だ。
翔英を殺すために、ミネカの力を強化させていた。
その力が、彼女の身体に残ったままになっている。
「複雑ですわ。あなたのせいで得た力で、あなたを倒すことができるなんて」
「……くそおっ……!!!」
これまで肉体を取り返されたことはなかった。
これからも起こり得ないと思っていた。
自分の手で、自分の首を絞めることになるとは。
「……よかった……ミネカ……」
ミネカの怪力を見た翔英はちょっと複雑。
ジャーザンスの力が残っているみたいで。
まあ、彼女が無事なのが一番だが。
「……もう終わりだな。ジャーザンス」
そして、決着の時。
ジャーザンスの悪あがきは失敗に終わった。
ミネカが後ろに居る限り、翔英を倒す手段はない。
「……くそっ!! やめてくれ!!! お願いだよお!!! やめてくれよ!!! 何も命まで奪う必要なんてないだろ!!? やめろ!! 君の心に傷ができるぞ!!!」
また始まった。
今回は随分オーバーなリアクションを取っている。
駄々をこねるように、床を叩きまくっている。
翔英はため息を一つつくと、剣を振り被った。
奴の言葉を聞く意味などない。
「……ショウエイ……。それに……ミネカも……」
その様子を、脱出したロジェもじっと見ている。
安堵と驚嘆が半分ずつだ。
まさか、ミネカが立ち上がっているなんて。
既にジャーザンスを追い詰めているなんて。
「本当に……!! 待って待って!!! いいじゃないか!! ミネカ・ベルギアは帰ってきたんだし、僕を殺す理由がどこにある!!? ないはずだ!!! やめろ!!」
「これ以上、お前に傷つけられる人を作らないためだ……!!!」
「……あっそ。じゃあ……死……!!」
一閃。
ジャーザンスが最後の足掻きをする前に、胸に雷剣を突き刺した。
「……ぎ……。いやっ……いやだあ……いやだあああ!!!!」
悪意の怪物、消滅。
これまで虐げてきた者たちに送る断末魔を上げながら、化物の肉体は塵となった。
「……これで……」
息を切らしながら、先を見つめる翔英。
最大の目的であるミネカの救出。
そして、最悪の魔物の討伐。
「…………終わったよね……父さん……ガロトさん……」
ここまで紡いでくれた、二人の先人に思いを馳せる。
因縁を、終わらせた。
翔英はミネカの方を振り返り、微笑んだ。
ミネカも、穏やかな笑顔を浮かべている。
「……これでやっと、ミネカとゆっくり話が……」
「ショウエイ!!!」
「……ん……? おお、ロジェ。無事だったか……!! よかった……」
「違う!! ……ショウエイ!!! おそらく奴は死んでいない!!!!」
「……!!? 何を……!!」
「何度も見てきたから分かる……!! 魔能を使った感覚があった……!! 奴は、何かに逃げ隠れている!!!」
一気に空気が変わった。
翔英は辺りを見回し、奴が入れるような肉体を探す。
だが、
「そんなバカな!! あいつ……最後だって……!! それにロジェ……!! 確かめてくれたんじゃないの……!!?」
「ああ、あそこには生物の肉体はなかった……!! この辺りにもない……!!」
「じゃあ、ロジェの勘違いじゃ……!!」
「……それならいいよ……。でもあいつは、悪意を持って生きるために存在している奴だ……!! 生きる執念は侮れない……!!」
「……なんだよそれ……。確証もないのに……」
不安を募らせる様なことを言わないでくれ。
どこにも生物の姿はないんだ。
気持ちよく、勝ったと思わせてくれよ。
「……確かに感じますわ……。彼の邪気を……」
「えっ……!? ミネカまで……!!」
「(……でも、どこか分からない……。どこ……どこにいるの……!?)」
二度と翔英を傷つけさせたくない。
ここでジャーザンスを逃せば、また翔英の命を狙いにやって来るだろう。
その時は確実に殺せるよう、万全の準備を整えて来る。
絶対に今日、ここで。
終わらせなくては。
「(……しっかりしてください私……!! ショウエイさんを護るのでしょう……!! あの人を許してはいけないでしょう……!! 私とショウエイさんを傷つけ合わせた……あの人だけは……!!!!)」
ジャーザンスへの強い憎しみを思い出すミネカ。
彼に身体を奪われ、大切な人を傷つけさせた時のことを。
「(……!! これは……!!)」
二度と思い出したくない記憶を呼び起こしていく。
すると、ジャーザンスが自分を動かしていた時の光景が、ミネカの脳内に映し出された。
「……分かりましたわ!! ショウエイさん!!!」
「……ミネカ……!?」
「彼が逃げ込んだのは……『虫』ですわ……!!!」




