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ヴェルソレクト  作者: 高野翌
第十章
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第三百三十一話 『並ぶ』

 顔を合わせる翔英とミネカ。

 少しの間、二人の空間が形成されていく。


 話したいことが山ほどある。

 伝えなきゃいけないこともたくさんある。


 全てを伝えるには、時間が足りなすぎる。


 「……ミネカ…………俺……」


 だが、翔英の肉体は既に限界を迎えている。

 ミネカに手を差し伸べた途端に、バタンと倒れてしまった。


 「ショウエイさん……!!」


 彼に駆け寄るミネカ・ベルギア。

 空気を読まないジャーザンスが妨害しに掛かる。


 「どいてください……!!」


 すぐさま巨大な光の盾を再び作り出す。

 ジャーザンスは怯み、攻撃を防がれた。


 「……硬いな……。うざいな」


 その間に翔英の元へ。

 毒と負傷で苦しんでいる彼に、全力の治療を施す。


 聖鳳軍随一の回復魔法の使い手。

 その腕は微塵も衰えていない。


 翔英の顔色と体調は、どんどんと元気な状態に戻っていく。


 「……ありがとう……。ミネカ……助かるよ……」


 「ショウエイさん……。ゆっくり話したい所ですが、今は難しいですのでこれだけは。本当に、ありがとうございました、ショウエイさん……!! これでやっと……あなたに恩返しができますわ……!!」


 「……ミネカ……恩を返さなきゃいけないのは俺の方だよ……。……でも、君の顔がもう一度見られて、本当に嬉しい。色々迷惑掛けたけど、これでやっと恩返しの第一歩目が踏み出せた……」


 「……ショウエイさん……私……」


 光の中で念願の会話をする二人。

 この相手を立て合うのも、何だか懐かしい。

 目の前に最悪の敵がいることも忘れそうだ。


 だが、その敵そっちのけで、いつまでも話はしていられない。


 「……俺の目の前で随分呑気だね。なんだって? 恩返し? 第一歩? ああ、ごめんごめん。そんなのないよ。お前ら二人とも、ここで永遠の別れなんだから」


 ジャーザンスが光の盾を砕き、二人の領域へと侵入してきている。

 

 「……ミネカ、ありがとう。さすがだよ。もう大丈夫だ」


 彼の肉体がずっと強くなっていることも大きいが、それ以上にミネカの回復力。

 この少しの時間で、戦闘可能な状態まで持ち直し、再び立ち上がった。


 「……はい……」


 ミネカも驚いている。

 あの頃に比べて別人の様だ。


 一番最初の彼を知っているからこそ。

 翔英がここまで、数々の戦いと試練を乗り越えてきたことが分かる。


 表情も大きく変わっている。


 路頭の迷い人だったあの日とは全く違う。

 迷いはない、覚悟を決めている顔。

 

 その変化に、思わず目を奪われてしまう。


 ミネカは溢れ出る涙を必死に堪え、翔英の隣に並んだ。


 「ショウエイさん……!! 私も一緒に戦います……!! あなたと……一緒に……!!!」


 「ミネカ……!! ……ああ……!! 頼りにしてるよ……!!!」


 ミネカの横顔を目にした翔英も、込み上げてくる想いに目を擦る。

 

 並んでいる。

 二人が。


 あの日からずっと、翔英は思っていた。


 『ミネカの隣に並びたい』

 と。


 それはただ並ぶというだけではない。


 実力でも肩書でも実績でも、偉大なあの子の隣に並べる様になりたいと、そう思っていた。


 今はどうだ。


 実績では到底及ばない。

 戦力としても、ミネカの方がずっと重宝される存在だ。


 ……それでも二人は、同格。


 ミネカの時が止まっていたとはいえ、聖鳳軍としての立ち位置の名称は、同じだ。


 何一つ持っていなかったあの頃とは違う。

 少しは、自分に誇りを持つことができている。


 胸を張って、ミネカの隣に立つことができている。


 ――――伝えたい。


 今いる場所を。

 ミネカの隣に来られたことを。


 でも、今はその思いを言葉にするのは止そう。

 今はただ、彼女の隣に立てたことを誇りながら、護るために戦おう。


 もう二度と、離れないように。


 「援護を頼む……!! ミネカ……!!」


 「はいっ……!!」


 飛び出していく翔英。

 その後ろでミネカが両手を構える。


 迎え撃つジャーザンス。

 両手を広げ、突っ込む翔英に叩き込んでいく。


 「はあっ……!!」


 「……!! 何っ……!!」


 ジャストガードを決めるミネカ。

 翔英の前に防壁を形成し、ジャーザンスの攻撃を阻む。


 その隙に翔英が決める。

 ジャーザンスの肉体は悲鳴を上げる。


 「この……!! 卑怯だぞお前ら……!!」


 「お前が言うな!!」


 負けじと攻撃を出し続けるジャーザンス。

 だが、ミネカが包むようにストップする。


 翔英とミネカの連携は攻防一体。

 見事なまでに、ジャーザンスを翻弄していく。


 「(……ハハハ……。でも、どうせ結果はさっきと変わんないぞ。克服できたわけじゃないんだ。俺の力をな。フフフフ…………ん……?)」


 しかし、翔英の動きは止まらない。

 勢いは緩まず、毒を寄せ付けていない。


 ミネカが解毒している。

 無理やり身体を治している。


 「なっ!!? なんだそりゃあ!!! どんな力だよそれえ!! ……でも、お前は?」


 「いいえ。貰いませんわ」


 「……? 効いてないの……?」


 効いていない。


 ミネカの前にうっすらと見える、透明の壁。

 ジャーザンスの魔能を、遮断している。


 「……あいつ……。やっぱり……デタラメだったなあ……。……ふざけんなよ!!!!」


 ミネカはジャーザンスにとっての天敵と言える。

 いや、誰かのサポートに付いている彼女は、ヒナノに匹敵する程に厄介な存在だ。


 ミネカを手中に収めていたことは、翔英に精神的な攻撃を与えるだけではなかった。

 戦況をひっくり返す程の回復と治療を封じることが出来ていた。


 ミネカの復活。

 一気に、戦況が傾いていく。


 「くたばってくれ……!!」


 更に翔英の一撃が決まる。

 確実にダメージは溜まっている。


 いよいよマズい。

 得意としていた長期戦も封じられている。


 「(とりあえずどっちかを殺せばまだ勝てる……。当然先に殺すのは、ショウエイ・キスギの方……!!     あのタイミング完璧の防壁。破るなら連撃……!! ちょっと我慢して叩き続ければ、終わりは来る……だろ……!!)」


 ジャーザンス、渾身の一撃。

 両腕を組み合わせ、一発で翔英を仕留めに掛かる。


 これまで同様、ミネカがブロックに入る。


 初めて、盾にヒビが入った。


 壁の後ろから飛んで来る翔英が首に一閃。

 怯むジャーザンス。


 だが、同じ強度の一撃を、翔英からの攻撃を貰いながら放った。

 

 超、至近距離。

 急所に飛んで来る。


 「死になっ!!!」


 「はあっ……!!」


 「ええ?」


 だが、速攻で形成されたミネカの壁が、翔英の身体を護った。


 「おいっ!! おかしいだろそれ……痛ってえ!!!」


 更に胸に一発。

 倒れるジャーザンス。


 「おかしくなどありません。ショウエイさんは私が絶対に護ります。もう二度と、ショウエイさんは傷つけさせませんわ!!」


 大切な人を護るという思いを光に変えた盾。

 彼の悪意じゃ壊せはしない。 

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