第三百三十一話 『並ぶ』
顔を合わせる翔英とミネカ。
少しの間、二人の空間が形成されていく。
話したいことが山ほどある。
伝えなきゃいけないこともたくさんある。
全てを伝えるには、時間が足りなすぎる。
「……ミネカ…………俺……」
だが、翔英の肉体は既に限界を迎えている。
ミネカに手を差し伸べた途端に、バタンと倒れてしまった。
「ショウエイさん……!!」
彼に駆け寄るミネカ・ベルギア。
空気を読まないジャーザンスが妨害しに掛かる。
「どいてください……!!」
すぐさま巨大な光の盾を再び作り出す。
ジャーザンスは怯み、攻撃を防がれた。
「……硬いな……。うざいな」
その間に翔英の元へ。
毒と負傷で苦しんでいる彼に、全力の治療を施す。
聖鳳軍随一の回復魔法の使い手。
その腕は微塵も衰えていない。
翔英の顔色と体調は、どんどんと元気な状態に戻っていく。
「……ありがとう……。ミネカ……助かるよ……」
「ショウエイさん……。ゆっくり話したい所ですが、今は難しいですのでこれだけは。本当に、ありがとうございました、ショウエイさん……!! これでやっと……あなたに恩返しができますわ……!!」
「……ミネカ……恩を返さなきゃいけないのは俺の方だよ……。……でも、君の顔がもう一度見られて、本当に嬉しい。色々迷惑掛けたけど、これでやっと恩返しの第一歩目が踏み出せた……」
「……ショウエイさん……私……」
光の中で念願の会話をする二人。
この相手を立て合うのも、何だか懐かしい。
目の前に最悪の敵がいることも忘れそうだ。
だが、その敵そっちのけで、いつまでも話はしていられない。
「……俺の目の前で随分呑気だね。なんだって? 恩返し? 第一歩? ああ、ごめんごめん。そんなのないよ。お前ら二人とも、ここで永遠の別れなんだから」
ジャーザンスが光の盾を砕き、二人の領域へと侵入してきている。
「……ミネカ、ありがとう。さすがだよ。もう大丈夫だ」
彼の肉体がずっと強くなっていることも大きいが、それ以上にミネカの回復力。
この少しの時間で、戦闘可能な状態まで持ち直し、再び立ち上がった。
「……はい……」
ミネカも驚いている。
あの頃に比べて別人の様だ。
一番最初の彼を知っているからこそ。
翔英がここまで、数々の戦いと試練を乗り越えてきたことが分かる。
表情も大きく変わっている。
路頭の迷い人だったあの日とは全く違う。
迷いはない、覚悟を決めている顔。
その変化に、思わず目を奪われてしまう。
ミネカは溢れ出る涙を必死に堪え、翔英の隣に並んだ。
「ショウエイさん……!! 私も一緒に戦います……!! あなたと……一緒に……!!!」
「ミネカ……!! ……ああ……!! 頼りにしてるよ……!!!」
ミネカの横顔を目にした翔英も、込み上げてくる想いに目を擦る。
並んでいる。
二人が。
あの日からずっと、翔英は思っていた。
『ミネカの隣に並びたい』
と。
それはただ並ぶというだけではない。
実力でも肩書でも実績でも、偉大なあの子の隣に並べる様になりたいと、そう思っていた。
今はどうだ。
実績では到底及ばない。
戦力としても、ミネカの方がずっと重宝される存在だ。
……それでも二人は、同格。
ミネカの時が止まっていたとはいえ、聖鳳軍としての立ち位置の名称は、同じだ。
何一つ持っていなかったあの頃とは違う。
少しは、自分に誇りを持つことができている。
胸を張って、ミネカの隣に立つことができている。
――――伝えたい。
今いる場所を。
ミネカの隣に来られたことを。
でも、今はその思いを言葉にするのは止そう。
今はただ、彼女の隣に立てたことを誇りながら、護るために戦おう。
もう二度と、離れないように。
「援護を頼む……!! ミネカ……!!」
「はいっ……!!」
飛び出していく翔英。
その後ろでミネカが両手を構える。
迎え撃つジャーザンス。
両手を広げ、突っ込む翔英に叩き込んでいく。
「はあっ……!!」
「……!! 何っ……!!」
ジャストガードを決めるミネカ。
翔英の前に防壁を形成し、ジャーザンスの攻撃を阻む。
その隙に翔英が決める。
ジャーザンスの肉体は悲鳴を上げる。
「この……!! 卑怯だぞお前ら……!!」
「お前が言うな!!」
負けじと攻撃を出し続けるジャーザンス。
だが、ミネカが包むようにストップする。
翔英とミネカの連携は攻防一体。
見事なまでに、ジャーザンスを翻弄していく。
「(……ハハハ……。でも、どうせ結果はさっきと変わんないぞ。克服できたわけじゃないんだ。俺の力をな。フフフフ…………ん……?)」
しかし、翔英の動きは止まらない。
勢いは緩まず、毒を寄せ付けていない。
ミネカが解毒している。
無理やり身体を治している。
「なっ!!? なんだそりゃあ!!! どんな力だよそれえ!! ……でも、お前は?」
「いいえ。貰いませんわ」
「……? 効いてないの……?」
効いていない。
ミネカの前にうっすらと見える、透明の壁。
ジャーザンスの魔能を、遮断している。
「……あいつ……。やっぱり……デタラメだったなあ……。……ふざけんなよ!!!!」
ミネカはジャーザンスにとっての天敵と言える。
いや、誰かのサポートに付いている彼女は、ヒナノに匹敵する程に厄介な存在だ。
ミネカを手中に収めていたことは、翔英に精神的な攻撃を与えるだけではなかった。
戦況をひっくり返す程の回復と治療を封じることが出来ていた。
ミネカの復活。
一気に、戦況が傾いていく。
「くたばってくれ……!!」
更に翔英の一撃が決まる。
確実にダメージは溜まっている。
いよいよマズい。
得意としていた長期戦も封じられている。
「(とりあえずどっちかを殺せばまだ勝てる……。当然先に殺すのは、ショウエイ・キスギの方……!! あのタイミング完璧の防壁。破るなら連撃……!! ちょっと我慢して叩き続ければ、終わりは来る……だろ……!!)」
ジャーザンス、渾身の一撃。
両腕を組み合わせ、一発で翔英を仕留めに掛かる。
これまで同様、ミネカがブロックに入る。
初めて、盾にヒビが入った。
壁の後ろから飛んで来る翔英が首に一閃。
怯むジャーザンス。
だが、同じ強度の一撃を、翔英からの攻撃を貰いながら放った。
超、至近距離。
急所に飛んで来る。
「死になっ!!!」
「はあっ……!!」
「ええ?」
だが、速攻で形成されたミネカの壁が、翔英の身体を護った。
「おいっ!! おかしいだろそれ……痛ってえ!!!」
更に胸に一発。
倒れるジャーザンス。
「おかしくなどありません。ショウエイさんは私が絶対に護ります。もう二度と、ショウエイさんは傷つけさせませんわ!!」
大切な人を護るという思いを光に変えた盾。
彼の悪意じゃ壊せはしない。




