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ヴェルソレクト  作者: 高野翌
第十章
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第三百二十九話 『害意の怪物』

 化物としか言い様がないジャーザンスの姿。

 彼の不快な口調もあり、より一層の不気味さを感じさせる。


 「ショウエイ……!! やるよ……!!!」


 再び剣を構えたロジェ。

 決着をつけるべく翔英に呼び掛ける。


 翔英は頷き、背中のミネカを出口近くに下ろす。

 固い床に寝かすことを詫びながら。


 「ごめんミネカ……。もう少し待っていってくれ……。必ず戻ってくるから……」


 ロジェの隣に並んだ翔英。

 剣を作り出し、眼前の怪物へと戦意を向ける。


 「待たせたロジェ……!!」


 「うん……!! もう一息だ……!! 頑張ろう……!!」


 敵の力は上がったかもしれない。

 だが、こんな化物の姿をしてくれると、さっきよりよっぽど戦いやすい。

 ミネカ状態の時よりも、よっぽど希望が見えやすい。


 翔英は容赦の欠片もない一撃を、ジャーザンスに叩き込んだ。


 「うっ……!! はははっ……!! 今度はちゃんと痛いな。だが……!!」


 「ショウエイ!!!」


 「ちょっとだけだ!!! さっきとは肉体の強度が全く違う!!! そんな攻撃では、お前の勝機は微塵もない!!!」


 触手の様な腕を丸めた拳骨が翔英を吹き飛ばす。


 更に襲い掛かるジャーザンスだが、すかさずロジェがブロックに入る。


 「ロジェェ!!! 俺のこの身体ならば、お前すら全く怖くない!!! 色々有った何十年に渡る俺の人生を詰め込んだ肉体だ!!! これでも受けろ!!!」


 「……っ……!!」


 元の肉体と言っても、最早その原型は留めていない。

 度重なる強化と実験の末に、元の肉体が耐えうるあらゆる力を施されている。

 それが、魔物とも一線を画す、化物そのものな姿の理由。


 その強さは、本気の翔英とロジェに、真向勝負を挑める程。

 搦め手を得意とするジャーザンスとは思えない、肉体の強さだ。


 だが、翔英とロジェも、そう簡単には倒れない。


 「……ああ、それでいいよ。どんどん来なよ!!!!」


 言われるまでもない。

 翔英はもう一度、ジャーザンスに斬り掛かっていく。


 「待って!! ショウエイ!!!」


 だが、ロジェがブレーキを踏んだ。

 翔英は振り返るだけでなく、ロジェの方に戻ってくる。


 「どうした……? ロジェ」


 「ジャーザンスを倒す前に、確かめなければいけないことがある。申し訳ないけど、ショウエイはその間、奴と一人で戦ってくれないか」


 「……なんだ、確かめなきゃ行けない事って」


 「あいつのストックさ。あいつは『最後の決着』って言ってたけど、本当かどうか分からない。まだ保険を用意している可能性が高い。それを見てくる」


 「……ああ、俺も絶対嘘だと思う。奴は逃げるカードを用意している筈だ。絶対ここでケリをつけたい……。……でも、どうすんだ?」


 「奴の能力の効果範囲はそう広くない。少なくとも、あの部屋から見える場所くらいの筈だ。見つけたら、手足を折っておく」


 「……そうか……分かった。じゃあ、頼むぞ、ロジェ」


 「うん。ショウエイも頑張ってくれ……!!」


 奥の部屋へと走り出すロジェ。

 と、同時に翔英も前線に飛び出していく。


 「作戦会議は終わったかあ!!? 待ちくたびれたぞ!!!」


 迎え撃つジャーザンス。

 細長い両腕をゴムの様に伸ばし、二人に向ける。


 当然、ロジェはスルー。

 ジャーザンスの後ろへと走る。


 「あ? どこ行くんだよロジェ!!!」


 ロジェの進行妨害に動くジャーザンス。

 だが攻撃が届く前に、翔英が腕を斬って見せる。


 「……!! 何ィ!? おい!! ロジェはどこ行くんだよ!!!」


 「さあな……!!!」


 ロジェの突破は成功。

 一対一となった状況で、翔英は余裕をアピールする笑顔を見せる。


 「ああ? そっか。ロジェの奴、あそこの捜索に行ったのか。俺のスペアがまだあると思って」


 理解が早い。

 イカれている様に見えて、意外と他者の行動心理を分かっている。


 こいつは、自分がイカれていると分かっているタイプのイカれている奴だったか。


 「そうだ……! だけど、向こうには行かせないぜ!! 俺が相手だ……!!!」


 剣を握り締め、ジャーザンスに立ちはだかる翔英。

 

 確かに今のこいつは強い。

 だが、決して戦えない相手ではない。


 これまでも、いくつもの試練や危機を乗り越えて来た。

 今なら、自分を信じることが出来る。


 ロジェがこうして託してくれたのも、翔英の強さを信じたからだ。

 ジャーザンスの一撃を貰った上で、翔英なら戦う事が出来ると判断したからだ。


 「はあっ……!!」


 あわよくば、一人で倒してしまおう。


 翔英は剣を地面に突き刺すと、雷の力を武器に宿らせた。

 ロジェ戦、ミネカ戦と、本気で戦う事が出来なかった為に使用することがなかった、翔英最大威力の形態だ。


 「来やがれっ……!! ジャーザンス……!!!」


 鋼鉄の様に固めた覚悟を胸に、敵を止めようと剣を向ける翔英。


 ――――だが、


 「クッ……。ククフフフ……フフフフハハハァッ!!!」


 化物は、爆笑していた。


 「な……!! 何笑ってやがる……!!」


 「だってさ!!! 君たちがあまりにも思い通りに動いてくれたからびっくりしちゃって!!!」


 「……なんだと……」


 「ハイッ!!!!」


 動揺する翔英を前に、ジャーザンスが動く。


 地面に腕を突き刺すと、先程自分が出て来た部屋の入り口に、何十本もの触手を向かわせた。

 ロジェが既に向かった場所だ。


 「何を……!! やめろ……!!」


 ロジェに攻撃を飛ばしたと判断する翔英。

 突き刺した腕を斬りに掛かるが、


 「もう遅いよ!!!」


 「!!?」


 ジャーザンスが飛ばした触手は部屋の前に固まっている。

 出入り口を塞いでいる様だ。


 「……何をしてるんだ……!!」


 「見ての通り。閉じ込めたんだよ。あいつを」


 「閉じ込めた……? あれでか……?」


 閉じ込めたというには壁が薄い。

 触手が重なって出来た扉は、ロジェなら軽く退かすことが出来そうだ。


 「あそこはね。生物が入れる様な場所じゃないの。人間があそこで息を吸えば、多分死ぬ。僕が長年保管されて、僕で遊んでいた部屋だからね。ロジェなら死にはしないだろうけど、間違いなく力は抜ける。あの触手を退かせないくらいにはね」


 「何っ……!!」


 「正直言ってね、二人相手だったら負けるかも知れなかった。君たちは強いからね。でももしかしたら、僕のスペアを探しに行くかも知れないって思ってた。見事にやってくれたね!! 全くバカで助かるよ!! さっき僕は本当の事を言ったのにさ!!! 『最後の決着』だって!!!」


 ここまで嘘しか言って来なかった。

 だが、ここに来て彼は、嘘を言わなかった。


 ロジェも翔英も、こいつは嘘を言っていると騙されてしまった。

 悪意から生まれた怪物が、二人の読みを逆手に取った。

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