第三百二十七話 『応援』
対抗し得る武器を手にし、翔英の前に駆け付けたロジェ。
翔英は彼の言葉に起こされるように再び立ち上がる。
そして、同じ力を宿す剣を持った二人が、並んだ。
「ショウエイ。今度は一緒に戦おう……!! この力で……!!」
「ああ……!! 頼りにしてる……!!」
互いに輝く剣を構え、悪意の塊に戦意を向ける。
種族の垣根を越えた共闘が今、実現した。
「……ふっ。お前ら二人が揃ったって全然怖くないよ」
対するミネカとジャーザンス。
焦りを感じさせない様に振る舞ってはいるが、二人の力に違和感を隠せない。
常識から遠く離れたジャーザンスともあろう者が、二人が引き起こす力に疑問を抱き始めていた。
常識を、疑い始めていた。
このまま、さっきのあれをやられるのは気分が悪い。
早く、終わらせなければ。
「行くよ、ショウエイ!!」
「おう……!!」
再開。
声を掛け合う二人。
同時に斬り掛かっていく。
「舐めるなよん!!」
迎え撃つジャーザンス。
二本の剣をその肉体一つで対応していく。
だが、斬る覚悟を決めた二人。
そして、初めてとは思えないコンビネーション攻撃を前に、やや戦況が傾いていく。
二度に渡る戦いが影響を与えているのか。
それとも彼らの生まれ持った連携センスによる物なのか、共闘は上手くハマっていく。
しかし、当然ジャーザンスを倒すことは出来ない。
彼の肉体に、ダメージは入らないのだから。
「はあっ……!!」
また、翔英の一撃が入る。
ジャーザンスは顔をしかめながら動きを一瞬止める。
「……ちぃ……ちっちっちっちっ!!! 何なんだそれは……!! 気持ちが悪い!!」
続けてロジェが斬る。
翔英と同じように肉体は傷つけず、ジャーザンスの精神に作用する。
「……ロジェも!! 二人揃って妙な技を……!!! 俺に理解できない技を……!! 不愉快だよ不愉快!!」
精神を斬る。悪意を斬る。
今は不可能だ。
だが、迷いはない。
これを続ける。
斬った時の奴の顔。
何かが起きているのは間違いないんだ。
「……もういい!! もうやってやるぞ!! 慣れた慣れた!!」
二人を無理矢理克服したジャーザンス。
どうせ肉体にダメージは入らないのだから、彼らの攻撃から意味を奪うことはできる。
ロジェの反撃を無視し、彼の身体を吹っ飛ばした。
「ロジェ!!」
ダウンした相方を庇う翔英。
ジャーザンスの凶刃を迎え撃つ。
「そこだね!!」
強化された手刀。
翔英の胸を捉えた。
翔英も反射的に剣を振る。
リーチの差で先に翔英の攻撃が入るが、当然ノーダメージ。
ジャーザンスは突っ込んでくる。
「…………!? ……なんだこれ……!! 指が……動か……」
「おらっ……!!」
だが、胸に打ち込まれる直前。
ジャーザンスは動きを止めた。
その隙を突き、翔英はもう一度剣を振るう。
「ぐっっ……!!! ……この感覚は…………。ううおっ……!!!」
壊れるような痛みに頭を抱えるジャーザンス。
やがて膝を着き、立つことすら出来なくなっていく。
翔英とロジェも動きを止め、彼の異変を戸惑いながら見つめている。
「これはァ……!! あの時と……同じ……!!! そんなバカな!!! 完全に制御した筈……!! この……ミネカ・ベルギアを……!!!」
一戦目の際と同じ。
眠り続けるミネカの肉体に入った直後、ジャーザンスはあまりの苦痛に動けなくなった。
それと同じことが、今再発している。
「ミネカ……? ……ミネカが戦っているのか……!!?」
手を出せない翔英とロジェ。
だがこの状況。
元の肉体の持ち主が引き起こしているとしか思えない。
「凄い……。ジャーザンスの魔能に抗うなんて……。……いや、この子なら……」
翔英を復活させた時の事を回想しながらロジェは呟く。
その間も、ジャーザンスは踠き苦しんでいる。
――――確かに、ミネカの精神力は凄まじい物だった。
前回、ジャーザンスの意思を跳ね退けようと抗っていたのがその証明だ。
だが、今回は完全に押さえられていた。
押さえられていたからこそ、ジャーザンスはこの肉体のまま勝負を挑んだ。
しかし、度重なる翔英とロジェの刃が、ジャーザンスの支配を弱めていった。
肉体ではなく、精神に向けられた攻撃。
ジャーザンスの悪意が、二人の力で削られた。
それにより、眠っていたミネカの意思が呼び起こされる。
「頑張れ……!! 頑張れミネカ!!! そんな奴に負けないでくれ!! 帰ってきてくれ!! もう一度、君に会わせてくれ!!!」
「……あ……ああ……うう……」
声が枯れる程力強く、ミネカに想いを届ける翔英。
その応援は、心の中に閉じ込められている彼女の精神を、強く強く奮い立たせていく。
『こんにちは』
『……!! お前……!! 性懲りもなく……!! 大人しくしていろ……!! 引っ込んでいろ……!! …………? なんだ……思うように動かない……』
『よく見てくださいな。ご自分のお身体を』
『……!? 何だ……これは……。いつ……いつこんな傷を……!!』
『ショウエイさんが、ずっと』
『……何だと……。あの攻撃は、『私が』受けていたと言うの!? ふざけるなぁ!! そんなことが出来る筈……』
『いいえ、できます。ショウエイさんなら……私が信じた、あの方ならば』
『……はッ!! そんなことどうでもいいわ!! もう一度お前を沈めればいいだけでしょ!! どうせ身体は傷ついていないんだ……!! お前を倒せば!!』
『聞こえませんか? 彼の声が』
『……声だと? 何を言っている』
『私には聞こえます。私に「頑張れ」と。「負けるな」と言っている、彼の声が』
『だから何言ってるの!!!!』
『彼の応援を受けている……!! それだけで、私は負けないと言っているのです……!!!』
『……!!! な……何!!?』
『消えなさい!!! 私の中から!!!』
『ぬっ……! 放せ……!! 貴様ァ……!!!』
苦しむジャーザンスを見つめる翔英とロジェ。
そこに、
「ショウエイ……!! これは……!!!」
「……ああ……。……勝ったんだ……ミネカは……。勝ったんだよ……!!!」
ミネカの肉体から、ジャーザンスが弾かれている。
彼の元の姿が、二人の目に見えている。
何の特徴もない、普通の姿だ。
だが、当然これは実体ではない。
ミネカが顕現化させた、ジャーザンスの精神だ。
「ありがとう、ミネカ……!! これで、終わりに……!!!」
「(……やめ、やめろお……!!!)」
一刀両断。
顕現化された精神を捉え、翔英は悪意を切り裂いた。




