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ヴェルソレクト  作者: 高野翌
第十章
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第三百二十六話 『同じ覚悟』

 翔英の前方。

 ロジェ対ジャーザンス。


 剣を振り回すロジェに、強化された他人の肉体で応戦するジャーザンス。

 

 戦闘開始前に放った毒入りの一撃が効いていること。

 そして、殺すことができないロジェは本気を出せずにいることから、ジャーザンス優位で進んでいく。


 殺さないように致命傷を与えること。

 遥か格下が相手ならまだしも、進化したジャーザンスを相手にはかなり難しい。


 翔英と友になっていなかったなら、既にロジェが勝利していたかもしれない。


 だが、それでは意味がない。


 翔英と共に戦うこと。

 それが人間と魔物を前へと進ませるのだ。 


 何より自分は、かつて二人を傷つけてしまった。

 彼女がこんなことになっているのは、自分の責任でもある。


 彼女を救出できなければ、本当の意味で、翔英と友達になることは叶わない。


 これは、かつての自分との戦いだ。

 今はミネカを取り戻すために、彼を倒さなければならない。


 「どうしたのロジェ!! 随分動きが鈍い気がするけど!? そうか! 魔物のお前が、この女の肉体を殺さないように戦っているのかな!?」


 「……それが……ショウエイに任された、僕の戦いだ……!!」


 「そうかそうか。なーんてラッキーなんだろう!! あいつを殺すためにこの肉体でいたことが、お前にも影響を与えるなんてね!!!」


 「……そうだとしても、負ける訳にはいかない……!!」


 翔英の代わりに、自分が。

 そう言い聞かせ、ジャーザンスに斬撃を喰らわせるロジェ。


 だが、それでも、


 「踏み込みが浅いな!! 弱い弱い!! 手加減してるのか!!? ぜんっぜん効いてない!! これじゃあ私は止められないよ!!!」


 相手にならない。


 「……くっ……!!」


 「本気で行くよ? 作った力の全てを使ってね」


 膝を着いたロジェに、拳を振り被るジャーザンス。

 殺すつもりだ。


 「(……すまない、ショウエイ、ミネカ……。本気を出さなければ彼には勝てない……。殺意を、込めなければ……)」


 戦況をひっくり返すべく、本気で戦う覚悟を決めるロジェ。

 だが、そこに――――


 「……!! どうして……!!」


 翔英が立ちはだかった。


 「なぜ君が……!? ……僕に任せてくれ……!!」


 「……ありがとう、ロジェ。でも大丈夫だ。俺も、戦う」


 「戦うって……。君には無理だよ……!! だって……君なんだから……!!!」


 「……こいつは、俺が招いてしまった戦いなんだ。お前一人に任せるなんて、出来るわけがない。それに、言っただろ。大丈夫だって」


 「……ショウエイ……」


 心配を起源とするロジェの制止を払い、ミネカの姿をした魔物に剣を向ける翔英。

 その目は確かに先程までとは違う、戦う者の目だが、緊張で震えている様にも見える。


 「何だよお前。お前が出てきて意味あんの? ロジェに任せといた方がいいんじゃない?」


 「……いや、俺も戦う」


 「ふーん、あっそう。まあいいよ、どうせロジェを片付けたら、お前も殺す予定だったから。かかってこいよ!! できるもんならね!!!」


 攻撃できる筈がない。


 ジャーザンスはおろか、ロジェもそう確信している。

 そんな状況の中、翔英はジャーザンスに剣を構え――――


 「(はっ……!! お前にこの女を傷つけられる筈がねえ……!!! どうせ止まる。どうせフリだ。動きが止めたらその腕捥いでやるよ……!! …………!? こいつ……!! 本当に……!?)」


 振った。


 「!! ショウエイ!!」


 「まさか、ホントに斬りやがるとは……!!」


 ミネカの胸元に、翔英の剣が振り下ろされた。

 出血は免れない程の一撃だ。


 だが、


 「(!? 斬れてない……。確実に入ったと思ったのに服まで全く……)」


 ミネカの肉体は全く傷ついていない。

 しかし、ジャーザンスには、


 「(……!!? ……何だ……? 今のは……)」


 違和感が生まれる。


 「……気持ちの悪いことしてくれるじゃないかショウエイ・キスギィ……!! 何をしてんの!? 何したの今!!」


 「(……そうだ。俺はずっとこいつと一緒に戦ってきたんだ。こいつの力は、この時のために)」


 予想を確信に変えた翔英。

 再びジャーザンスを斬る。


 やはり肉体には傷は付かず、ジャーザンスの意識に妙な感覚が向く。


 「何なんだ……よ!!!」


 最初の戦いからずっと。

 この剣は、斬るという意識を刃にする性質を持っていた。

 ミネカの肉体を斬ろうと思わなければ、彼女の身体を傷つけることはない。


 「(……後は、『奴を』斬ることが出来れば……)」


 翔英の狙いはそこにある。

 この力を活かし、内に宿るジャーザンスを倒したい。


 しかしまだ、ジャーザンスにダメージが入っている様子はない。


 「(そりゃそうか……。精神を斬るなんてことができる筈がねえ……。……だけど、俺があいつと戦うには、それを狙うしかない……!!)」


 斬らずに斬ることができる。

 それが今分かっただけでも良しとする。

 これなら、一応戦うことができる。


 「はあっ……!!」


 戦闘を続行する翔英。

 ジャーザンスに斬り掛かっていく。


 「(どうなって……。……あ、そういえば、あの時……)」


 その戦いを見つめるロジェは思い出す。

 翔英との一戦目の時、剣の力は発動していた。


 「(……そうか。翔英の剣は、斬る覚悟が必要だったね……。ミネカ・ベルギアではなく、ジャーザンスを斬る覚悟を持っているから、彼女の身体は無事なのか……。……それなら、僕のこれにも……その力が……)」


 手に持っている武器を見つめるロジェ。

 今の彼の武器には、翔英の力が備わっている。


 意識していなかったが、ミネカに傷が付けられなかったのは、自分の力不足だけが原因ではなかった。

 ロジェは無意識に、ミネカを斬ることを躊躇っていた。

 だから痛みは生まれず、ジャーザンスに圧倒されていたのか。


 「……よし……。そういうことなら……僕だって……!!!」


 前だけを見たロジェ。

 

 視線の先では、翔英がジャーザンスに喰らい付いている。

 戦いになるようになったとはいえ、肉体にダメージを与えることはできていない。

 翔英の攻撃は、ジャーザンスの精神に違和感を与えているだけだ。


 「うあっ……!!」


 翔英が倒れている。

 ジャーザンスは動揺しながらも彼に迫っている。


 ロジェは、動いた。


 「……ロジェ……!! お前もそれか……!!?」


 「ジャーザンス……!! 僕たち二人が相手だ……!!!」


 同じ武器と同じ志を持った人間一人と魔物一人。

 共に立ち上がり、剣を向ける。

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